みなさん、地上400 kmにある国際宇宙ステーション(ISS)に、日本も物資を運んでいるって知っていますか?その補給機の名前はHTV(H-II Transfer Vehicle)「こうのとり」です。今までに7機が打ち上げられ、国際宇宙ステーションISSに宇宙飛行士の食料や実験機器、ISSのバッテリーなど様々な物資を運んできました。来たる9月11日に1号機(技術実証機)の打ち上げから10周年を迎えますが、ちょうどその日には8号機の打ち上げも予定されています。今回、こうのとりの運用に1号機からかかわってきた徳永富士雄さんにインタビューをしてきました。

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ISSに接近したこうのとり6号機(2016年12月) ©JAXA/NASA

徳永さんのお話に入る前に、こうのとりについてちょっと予習をしておきましょう。こうのとりは全長10 m、直径4.4 mの円筒型で、中には最大6トンまで物資を積むことができます。この積載量は他国の補給機であるロシアのプログレス(約2.4トン)、アメリカのシグナスやドラゴン(約3トン)を大きく上回り、「世界最大の補給能力」を誇ります!

打ち上げ後、こうのとりは4~5日ほどかけて徐々に高度を上げ、地上400 kmのISSの傍へ。このときに絶対にISSにぶつからないように軌道が設計されています。ISSにいる宇宙飛行士がロボットアームを操作してこうのとりを捕まえ、ISSとドッキング。約40日間そのまま地球の上空をめぐっている間に、宇宙飛行士はこうのとりの中の物資を取り出し、不要になったものを詰めます。そしてこうのとりはISSから切り離され、そのまま大気圏に突入して大気圏で燃え尽きます。今までの7機すべてがこの一連の流れを無事に完了しています。

日本の宇宙戦略として、物資の補給技術とISSの生活環境を整える技術が最上位に位置付けられています。技術面については過去、取り上げたことがありますが、知れば知るほど、技術力の高さと運用の正確さに驚きます。

 

では、お待ちかね、こうのとり1号機からずっとミッションに携わってこられた、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)の徳永富士雄さんのお話に移りましょう。徳永さんはこうのとり以前にも、H-Iロケットの打ち上げや、若田光一宇宙飛行士のスペースシャトルのミッション、ISSの日本の実験棟「きぼう」の打ち上げ準備などにも携わってこられました。こうのとり3号機以降は飛行管制官HTVGC(Ground Control)を担当されています。

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徳永富士雄氏 ©JAMSS

――こうのとりの運用はどのように行われているのですか?

こうのとりの飛行中は常時20~30名が筑波宇宙センターの運用管制室にいて24時間体制で見守っています。管制室とは別の部屋にも10~30名の技術系スタッフがいて、異常があればすぐに対応できるようにしています。全員がJAXAの職員というわけではなく、民間企業が半分以上を受け持っています。16種類の役割をそれぞれの管制官が担当し、フライトディレクターが統括をします。

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こうのとり7号機(2018年11月)の運用管制室の様子 ©JAXA

――徳永さんがご担当されている飛行管制官HTVGCの役割は何ですか?

管制室の最前列左端にいて、関係各所の間でのデータ通信が途切れないかを監視しています。こうのとり―アメリカの通信衛星―アメリカのヒューストンにあるジョンソン宇宙センターの管制室―筑波宇宙センターの管制室、これらの間の通信が1秒たりとも途切れていないか、画面を見たり通信の音声を聞いたりして常に監視しています。

8時間交代のシフトが当たる時間帯に数日前から生活リズムも合わせます。ミッション中は常に緊張していますが、8時間はあっという間です。

――ミッション中、一番うれしいのはどんな時ですか?

ISSのカメラでこうのとりが初めて見えた時です。打ち上げ後のしばらくは、こうのとりの様子は画面の数字でしか確認できません。ISSの宇宙飛行士が宇宙空間に光るこうのとりを発見すると、そちらにISSのカメラを向けてくれます。こうのとりがちゃんと宇宙に到達している実感が得られて、この時が一番うれしいです。

――ミッションが行われていないときは何をしているのですか?

週に1度は筑波で運用の訓練をしています。次のミッションとの間が空くので、長年運用を担当してきても、継続的な訓練が必要です。アメリカのISS管制室と通信をしながら、模擬トラブルに対処する訓練などを行います。ミッション中にも訓練中にも、通信回線のどこかで機器の故障や接続ミス、使用割り当て時間のプログラムミスなどで音声やデータ、画像が途切れることはよくあります。通信切れが発生した場合はすぐにNASAに音声で連絡して、まずヒューストンにはデータが来ているか、データが来ていなければさらに上流の設備をNASAに確認してもらい、地上の通信が正常な場合はHTV本体への送信機切り替えコマンドを筑波から送信するなどして、通信回線の復旧を試みます。ヒューストンまでの通信回線もひとつだけではなく、常に複数のラインを確保してすぐ切り替えられるようになっています。

そうした事態にも落ち着いて対処できるように、普段から自分の業務分野の最新の情報を整理し、何かあったときの解決のヒントをそこから見つけられるように心がけています。

――きぼう・こうのとりを初期から見守ってこられて思うことは何ですか?

NASAとの協力関係をしっかりと築き、エンジニア一人ひとりが与えられた責務をすべての範囲にわたって確実にこなしてきたことの結果だと思います。誰か一人のヒーローや天才がいたからできることではありません。運用管制官は最後の仕上げをするためのメンバーですが、それを実現できるように準備してくれる人が数百人以上いることを感謝しています。

――7号機では、最後に全て燃やしてしまわずに、耐熱カプセルを地球に帰還させる実験が行われ、ISSでの実験で作成したたんぱく質結晶は無事に地上へ戻ってきました。「物を持ち帰る」こともできるようになった今、こうのとりの可能性はますます広がっています。今後に期待することは何ですか?

実験の範囲を広い分野に広げ、今まで自分の研究やビジネスは宇宙には関係ないと思っていた人たちにもどんどん使ってほしいです。JAMSSでもそういうサービスを提供していきます。

将来、こうのとりの技術を応用した日本の有人宇宙船ができるかもしれません。20年前には宇宙ステーションなんて本当にできるのだろうか、と思っていましたが、今では当たり前のように宇宙飛行士がISSに滞在しています。今の子どもたちがこうのとりやISSを見て「宇宙に行きたい」「宇宙の仕事がしたい」と思い、20年後、30年後の宇宙開発を背負っていってもらえるように、種を蒔きたいと思っています。

開発中の新型機「HTV-X」は2020年代に建設を始める予定の月の周りの宇宙ステーション「ゲートウェイ」へ向かいます。それを担うのは、今のこうのとりの活躍を見ている人たちになるかもしれませんね。徳永さん、ありがとうございました。

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1号機の開発審査の時には、NASAから「この点は大丈夫なのか」といろいろな分野で膨大な数の質問票が出され、これらについて担当の技術者が一件ずつ説明してすべてをNASAに理解してもらったそうです。この10年間に着実な成功を積み重ね、初めは半信半疑だったNASAとも、今では「日本のミッションは正確で時間にも遅れない」と信頼を築き上げました。

8号機の打ち上げは9月11日午前6時33分の予定です。徳永さんは「訓練の方が大変なので、むしろ実際の運用の方が楽です。次のミッションでも訓練通りに為すべきことをやるだけです」とおっしゃっていました。私も今回、こうのとりの10年間の歩みや徳永さんをはじめとする数百人の地上チームのことを知り、今までとは違う見方で打ち上げを見られる気がします。

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「こうのとり」7号機のミッション成功を祝して記念撮影を行うHTV関係者 ©JAXA

【謝辞】本記事を執筆するにあたり、取材にご協力くださった有人宇宙システム株式会社の徳永富士雄様・土佐利之様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。



Author
執筆: 小熊みどり(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
子どもの頃から宇宙が好きだったが、なぜか学部では温泉の研究をする。好奇心旺盛すぎて大学を飛び出し金融業界へ。一周回って、その後大学院でやっと宇宙の研究を始める。 宇宙ミュージアムTeNQ等研究室での展示活動に関わったことで、科学コミュニケーションを本格的にやってみたいと思い2015年より未来館へ。