リンクスは8月2日、都内でプライベートカンファレス「Industrial IoT Meeting」を開催。基調講演は、「生産現場では「今」何が起こっているのか? 〜既につながり始めているIndustrial IoTの現状とこれから〜」と題し、同社代表取締役の村上慶氏が、まだまだ先の話のデジタルツインではなく、現在の製造現場で活用されているIIoTとはどういったものであるかの説明を行った。

  • Industrial IoT Meeting

    Industrial IoT Meetingの基調講演に登壇するリンクス代表取締役の村上慶氏

今回のカンファレンスのテーマが「本物は、既にここで動いている。」というもので、同氏の講演はそれに沿ったものとなった。「デジタルツインはまだまだ先の世界の話だが、シミュレーション環境は設計から製造まで幅広い範囲で活用されるようになってきた」と同氏は説明する一方で、日本のものづくりの現場においては、「SCADAの浸透が世界に比べて遅れている」と指摘する。

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    IIoTの方向性としてはデジタルツインが指向されているが、真のデジタルツインの実現にはまだまだ時間がかかり、現在のものづくりの現場の課題解決には結びつかない

ここで同氏が語るSCADAは単なる設備の状況を表示する装置という意味ではなく、IIoTの中軸を担う存在を指す。「(リンクスが提供するインダストリアルIoTソフトウェアプラットフォーム)zenonは、10年前に表示器からIIoTソフトウェアプラットフォームへと大きく舵を切ったが、無理やりそうなったわけではなく、SCADAというMESとPLCの間に存在する階層は、IIoTプラットフォームを構築するのにベストな階層であった。つまり、MESで同じことをやろうと思えば、過去のデータ履歴はとれないが、PLCは自身でデータを蓄えることが難しい。そうした点で、SCADAという階層が、必然的にそうしたニーズに応えることができることとなった」とし、IIoTという言葉が登場する以前、10年以上前からその原型ができあがり、活用されてきた背景があり、それはデジタルツインという壮大なストーリーのスモールスタートのためのIIoTではなく、もっとものづくりの現場の目の前にある課題を解決するためのIIoTという存在であったとする。

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  • 製造現場のシステム階層。SCADAは日本では表示器として活用されてきたが、その本質はMESとPLCを結ぶIIoTの軸をなすものである。zenonは、その役割をできる限り、ユーザーが容易に活用できるように開発されてきたという

「10年前と今が異なるのは、データのスループットが向上し、扱えるデータ量が増えた一方で、タブレットなどが手軽に活用できるようになり、その結果、課題解決のための手段に手が届きやすくなった点」である。例えば自動車の製造ラインでは、通常業務をしている作業員がアラームが鳴ると、走ってセンターにある各ラインを写すパネルのもとに行き、それを見て、目標の場所に赴くという必要があったが、タブレットやスマートウォッチを各員に持たせることで、同じ情報を手元で見たり、責任者が優先度を考慮し、誰を現場に行かせるのか、といったことを柔軟に考えることができるようになったという。

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    現在のものづくりの現場に求められるIIoTは地道に課題解決を図っていける存在であり、一足飛びにデジタルツインでどうこうする、というものではない

こういったツールが活用できるようになると、2本の生産ラインで同じものを作っても、生産効率が違う、といった場合の因果関係などを見つけやすくなるし、ラインごとのエネルギー消費なども把握でき、省エネに向けたラインコントロールを行う、といったこともできるようになるほか、製薬業界のようなコンプライアンス遵守が求められる業界では、行った手順ごとにデータとして保存して、改ざんされていないことを保証して関連機関に提出する必要などがあり、その担保として活用することができるようになる。

トヨタがzenonとCODESYSを活用して生産改善

「zenonの取り扱いを始めて2年ほどだが、だいたい企業の担当者がやりたいことがすべて入った形で提供されている。それにより、ツール間をまたぐ手間やコストをかける必要がなくなる。トヨタ自動車でも、それが前提で採用され、活用が進みつつある」と、トヨタの工場でも活用されていることを明言。トヨタでは、リンクスが提供するソフトウェアPLC「CODESYS」も活用することで、PLCメーカーを気にせずにネットワークに柔軟に接続することを可能としていることも明らかにした。

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  • 今の自動車分野におけるIIoTの活用による生産性改善例

「トヨタの事例は、パートナーの進和と一緒に着手したのが2019年3月で、5月には第1弾のあんどんWeb化が堤工場で稼動を開始し、5月に設計着手したアラーム解析も同7月より現地導入を果たした」と、その柔軟性を強調。「我々はデジタルツインの実現のためにzenonもCODESYSも提供しているわけではない。zenonは顧客の目の前の問題を解決するためのものだし、CODESYSもメンテナンス性の向上を目指したもの」とし、あくまで今のものづくりの現場の問題解決の手助けをしたいという思いで、日本になかった海外の優れたソリューションの提供を進めているとする。

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    リンクスが考えている2年後の日本のIIoTのあるべき姿のイメージ

なお、リンクスでは、東京エレクトロン デバイス(TED)と連携して2019年8月より「zenon on Azureスターターキット」の提供を開始することを明らかにしている。これは、オンプレミスおよびAzure上で動作するzenonライセンスをリンクスから、Azureの販売サポートをTEDから購入することで、オンプレミスからAzureへのデータ送信などを可能にするもの。zenonのトレーニングやダッシュボード、アラームリスト、ヒストリアン、トレンドグラフ、PLCとの通信、Azure IoT Hubへのゲートウェイの機能などが提供され、1拠点用で50万円、2拠点用で100万円、3拠点用で150万円で提供される(別途、Azureの利用料金が発生)というもので、zenonを初めてみたい、という人に活用してもらえれば、としていた。

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  • zenon on Azureスターターキットを活用することで、zenonとクラウドを組み合わせた活用方法を容易に試すことが可能となる