ジェイ・ソムが語る傑作『Anak Ko』の背景、フィリピン人女性としてのアイデンティティ

2019年のフジロックに出演したJay Som(ジェイ・ソム)が、ニューアルバム『Anak Ko』を8月21日に日本先行リリースした。2019年のUSインディーロックを代表する傑作を掘り下げるため、フジロック明けの月曜日、『WIRED』日本版前編集長(現・黒鳥社)で音楽ジャーナリストとしても活躍する若林恵が都内某所でインタビューを行った。

2017年の『Everything Works』で一気にインディポップシーンの注目株として世界中に名を知らしめたジェイ・ソム。名前の響きからして韓国系かと早合点していたら違った。「ジェイ・ソム」の名は、自分の名前を入れるとウータンクラン風の名前を弾き出してくれる「ウータンジェネレイター」を使って決めたそうで、そう言えば「チャイルディッシュ・ガンビーノ」の名前もたしかウータンジェネレーターでつけたものだったような。本名はメリーナ・デュテルテ。ラテン語ぽい響きからヒスパニックかと思ったらこれも違って、ルーツはフィリピンだった。

文字通りベッドルームでつくられたベッドルームポップの旗手のサウンドは、このジャンルのお手本とも言えるようなDIY感溢れるものなのだけれども、星の数ほどいるベッドルームアーティストのなかにあって、彼女の音楽はなぜか際立っているように思えた。最初に知ったのは「The Bus Song」という曲だった。なんといってもタイトルがいい。ジャケットもオシャレ。けれども、いかにも「オシャレでござい!」なあざとさはない。音にも歌詞にもアートワークにも、彼女ならではの景色と色味と詩情がある。のだけれども、それが一体どこから来るものなのかがよくわからない。ベッドルームポップにありがちな自意識過剰も不思議と感じさせない。

最新作から最初に配信されたのは「Superbike」という曲で、聴いた瞬間、このアルバムは傑作だと思った。じゃらんじゃらんと鳴るギターの上を滑っていく幸福感たっぷりのメロディ。サウンド自体は前作の延長線上にあれど、見えてる景色が格段に広く高くなっているような。そして歌のパートが終わって曲も終わりかと思いきや、後半にさらにエモいインストパートがやってきて、それはそれは素敵な景色が見渡せる。この曲が公開されてから一体何回再生したか。そして聴くたびに空を見上げてしまったのはなぜだろう。



というわけで、アルバムのリリースを心底心待ちにしていた。楽しみすぎて聴きたくない、というほど楽しみにしていたので、聴くのをできるだけ遅らせようとした。取材のアポが入り、メディア向けの音源が送られてきても長らく放置していたのだが、結局聴きたい気持ちに勝てず聴いてしまった。本当は聴かないまま取材に赴こうかと思ったくらいだったのだが、やっぱり誘惑には勝てなかった。

彼女の不思議なところは、音からあまりパーソナリティが見えてこないところなのかもしれない。人としてどういう感じなのか、取材直前までうまくイメージできていなかった。実際に会ってみるとちょっと乱暴でぞんざいな感じが、アーティストっぽいというよりは裏方っぽい雰囲気で、彼女がオーディオプロダクションの仕事に強い興味をもっていることを聞くと、とても合点が行く。けれども、それは職人気質ということでは必ずしもない。彼女には、何か特別な歌ごころが宿っていて、それは、でも、ことばにすることがなんとも困難なものなので、せっかく本人に会う機会をもらえたのだから本人に聞いてしまえと臨んだ取材ではあったのだけれど、読んでいただく前にこう言うのもなんだが、結局、それをうまく捕まえることができなかったように思う。インタビュー下手くそ。申し訳ない。

けれども、アルバムは本当に素敵な傑作なのだ。ぜひアルバムを聴いていただきつつ、自分だったら本人にどんな質問をしただろう、なんてことを自分なりに考えていただくといいかもしれない。それはきっと、ジェイ・ソムという稀有なアーティストの、より深い理解につながるはずだ。以下のインタビューはそのたたき台くらいで読んでもらえると幸いです。

では、早速。


─新しいアルバムが楽しみすぎて、オンラインでマーチャンダイズ買っちゃいました。靴下、めっちゃ可愛いですね。

ジェイ・ソム(以下JS):ありがとう(笑)。

─マーチャンダイズのデザインは、ジャケットと同じ人ですよね。

JS:そう。マリア・メデムっていうアーティストで、彼女のイラストをインスタで見て、いいなと思ってコンタクトして、新しいアルバムのジャケットを描いてくれないかってお願いした。

─いいイラストですよね。ディレクションのようなことはしたんですか?

JS:彼女の作品集に『CENIT』っていうのがあって、そのなかに空手をやってるキャラが出てくるんだけど、私も子供の頃に空手をやってたから、自分みたいだなって思って。

─空手やってたんですか?

JS:そう、黒帯。なので、空手やってる人を描いて欲しいってお願いした。

─空手やってるキャラっていうのは、もちろんアルバムのコンセプトとなんらか関係があるんですよね。

JS:うーん。ないかな(笑)。

─あれ。

JS:なんかキレイだし素敵だなと思って。愉快な感じもあるし。空を蹴ってる感じとかもいいじゃない。


『Anak Ko』のジャケット

この投稿をInstagramで見る María Medemさん(@mariamedem)がシェアした投稿 - 2018年10月月26日午前4時25分PDT

─キレイですよね。これ夕焼けなんですかね。

JS:夕焼け。アルバムの制作のために1週間くらいジョシュア・ツリーっていう場所に籠ってて、ロサンゼルスからクルマで6時間くらい行った沙漠地帯なんだけど、そこの景色にそっくり。

─ジョシュア・ツリー、いいですね。なんでジョシュア・ツリーだったんですか?

JS:前作が出たあと、オークランドからLAに引っ越したんだけど、都会はやっぱり気が散るというか、集中できないことも多いから、AirBnBで家を借りて、そこでギターとベースとドラムを録音したりして。


─制作自体は結構時間あったんですか?

JS:2018年からずっと曲は書いてたんだけど、今年の1〜3月くらいにかけてガッとつくった感じかな。

─相変わらずベッドルームでつくってるんですか?

JS:もちろん。

─ベッドルームだとやりやすいですか。

JS:慣れてるっていうのもあるし、お金もかからない。

─せっかく前作でブレイクしたわけだから、大きなスタジオを使って制作するみたいな可能性もなくはなかったですよね。

JS:うーん。まだ準備ができてないっていう感じかな。人のレコーディングで大きいスタジオで仕事をしたこともあるんだけど、自分でできるしって感じちゃうとところもあるし、まだかなって思ってる。

─前作が本当に話題になって一躍注目を集めるようになって、今作は前作とは制作の状況もずいぶん違ったんじゃないかと思うんです。プレッシャーとかなかったですか?

JS:プレッシャーはあった。前作を出したのは22歳のときで、それまでは本当に友達に聴かせるくらいのつもりでmyspaceやBandcampに音源をあげていただけだったから。それがいきなりレーベル契約が決まって、全国ツアーに出て、自分が好きだったバンドと同じステージに立ったりとか、予期しないようなことがたくさん起きたから、そういう変化のなかでつくるのはプレッシャーといえばプレッシャーで。聴く人も増えたし、ツアーも大きくなってっていう状況なんだけど、とはいえ、これまでやってきたこと変えたくないっていう思いもあったし。ほら、アルバムも3枚目とか4枚目になると、アーティストも変わりはじめるでしょ。もっと実験的にしてやろうとか、もっとポップな線を狙うんだ、とか。そういうふうにはなりたくなく。ただ、ひとりでつくるのは止めようとは思ってた。

─それはなんでですか?

JS:自分でドラムを叩くのにうんざりしちゃって(笑)。練習する時間もなくて、下手くそなままやりたくなかったから、仲のいいドラマーふたりに今作は叩いてもらった。


Photo by Kana Tarumi

─曲はだいたいどうやってつくるんですか?

JS:ケータイのボイスメモに「ララララ」って歌を吹き込んだり、ギターで適当に歌ったのを録っておいて、それをしばらく放っておいて、やろうって決めたらコンピューターに向かって一からつくりはじめる。1曲をつくりはじめたら、それをいじりながらどんどん伸ばしていくっていう感じなんで、私の場合、どの曲にも別バージョンっていうものがないのね。

─どれくらいの曲数を今回のアルバムのために書いたんですか?

JS:2018年のうちに20曲くらい書いたんだけど、一回全部おシャカにして、今年に入ってからさらに12曲くらい書いて、それを削って一番自分が気に入ってる9曲にまで絞り込んだ。

─捨てちゃった曲は一体何が問題だったんですか。

JS:うーん。しっくりこないって感じかな。自分じゃないな、と。

─これって曲の作り方とも関連している話かもしれないんですけど、現状公開されている「Superbike」も、「Devotion」も、曲の後半のインスト部分が面白いですね。ギターソロっていうわけでもないし、ただ長いだけのアウトロというわけでもなく。

JS:曲のなかに、必ずどこか爆発する瞬間をつくりたくて。徐々に曲が盛りがってエピックな瞬間に到達する感じが好きで。映画のサウンドトラックをよく聴いたりするんだけど、ストーリーのなかでどういうふうに音が感情を刺激していくのかというところに興味があって、そういうことを歌詞がないところでもやりたくて。ずっとジャズの作曲を勉強してきて、そういう実験はたくさんやってきたので、ポップソングのなかでそれをどう活かせるかっていう興味から、ああいうパートが生まれたんだと思う。


─ずっとトランペットを学んでたんですよね。そっちの道に進もうっていうのはなかった?

JS:9歳か10歳で演奏をはじめてそれから、小中高大学の途中まで10年くらいやってて、セクションリーダーをずっとやってたし気合い入れてやってたのね。一番の情熱の対象で、聴くものもジャズとクラシックばかりだったんだけど、あるときから音楽制作の方に興味が行きはじめて、それで音楽学校にお金払うのもなんだかなと思ってやめちゃった。

─変な話、インディロックとかインディポップって、正規な音楽教育を受けていないことが長いことアイデンティティの大事な根幹だったようにも思うのですが、最近だとちゃんと教育を受けた人たちがあえてインディロックやポップに行くケースが増えているように思えるんです。ジェイ・ソムさんもトランペットはきっとめちゃくちゃうまいわけじゃないですか。でも、それを自作に反映させたりはしない。どうしてなんですかね。

JS:こないだもフジロックで私たちの前に出た日本のバンド(ずっと真夜中でいいのに。)が、ものすごくしっかりしたファンキーに演奏をするバンドで、ほんとに完璧でよく訓練された演奏だったんだけど、アメリカのオルタナシーンには、そういうディシプリンが本当にないからね。そういうもんだと思って気にもしてないんだけど、わたし自身は自分が受けた教育は価値があるし、役にも立ってると思うかな。トランペットでいうと、ヴァガボンのアルバムでトランペット吹いたりしてるよ。

─そういえば今作にはヴァガボンことレティシア・タムコさんも参加してましたね。仲良いんですか?

JS:彼女は仲良し。同じ頃に彼女もLAに移ってきて、共通の友だちのSasamiを通して知り合って、彼女のレコードでトランペットを吹いたお返しに「歌って!」ってお願いしてコーラスを歌ってもらったんだけど、そんなことはなくても、しょっちゅう一緒につるんでる。


ヴァガボンが9月27日にリリースするニューアルバム『All the Women in Me』収録曲「Flood Hands」


Sasamiが2019年に発表した1stアルバム『Sasami』収録曲「Not The Time」

─ヴァガボンの新作は名門レーベルNonesuchからで、とても楽しみにしてるんですけど、先行配信の1曲を聴いた限りだと、だいぶ方向性が変わってますね。

JS:元々彼女はわりと方向性を変えるタイプなの。「これ聴いて聴いて」って聴かせてもらったものが次に聴くと全然違うものになってるというのはよくあって。新作はまだ聴いてないけど、すごくいいものになると思う。

─ぼくも楽しみにしてます。とはいえなんか最近ちょっと気がかりなのは、インディシーンから出てきて注目されると、すぐにレーベルがついてプロダクション規模も大きくなって、サウンドもヴィジュアルも一気に磨かれちゃって、なんか成長のスピードが早すぎるような、そんな感じがするんですよね。あくまでも一般論としてですが。

JS:言ってることはわかるかも。自分の場合だとレーベルはわたしがつくるサウンドを好きでいてくれて、そのままでいることをサポートしてくれるし、信頼してくれてるんでそれはありがたいことだと思ってる。外からプロデューサーやエンジニアに入ってくることについては、自分はオープンでいるつもりではあるんだけど、おそらく自分の作品のなかに他人の痕跡がついてしまうことには、まだ抵抗はあって。

─どうしてですかね。

JS:自分でやってこそフルパッケージになるっていう感覚があるのと、まだまだ自分も成長してる途中だから、予算規模が大きくなれば、いい機材もどんどん買えて、自分なりにプロダクションのスタイルも大きくできるようにも思うから。機材面とかに関しては、こう見えてかなりギークなところがあるんで。

─でも、いずれは外部の製作陣とつくることも考える?

JS:もちろんもちろん。でも計画はしたくなくて、そのタイミングがきたらわかるっていうふうにしておきたいかな。


Photo by Kana Tarumi

─自分のキャリアっていうことについては、何かプランのようなものがあったんですか?

JS:なかったなあ。10代後半から前のアルバムを出すまでは、本当に週6〜7日レストランで働いていて家賃を払うので精一杯。家賃払うために生きてるっていう感じで。だから音楽はあくまでも趣味だったし、それこそいまは誰でも音楽家になれるような時代で音源をオンラインにあげたからってそれで何かが起きるなんて期待もしてなかったから、逆に、多くの人に聴いてもらえたことがショックだった。

─でも、いざこうやって音楽家としてキャリアを積むようになって、今後、こうなって行きたいといった願いとか欲求みたいなものは出てきました?

JS:少しはクリアになってきたような気はする。とはいえ、予想外なことがたくさん起きるから、いつも気持ちが変動してる。パラモアとツアー行くぞ!とかデス・キャブ・フォー・キューティーとコンサートやるぞ!とか、日本に行くぞ!とか、びっくりするようなことばっかりだから。実際、今回の日本行きだって、知らされたの4週間前だし(笑)。

─そりゃ驚きますね。

JS:数年はそんな感じでツアーを続けるつもりだけど、最近よく思ってるのは、もっとオーディオプロダクションの仕事をやりたいってことかな。他のバンドのレコーディングを手伝ったりプロデュースしたりすることをやりたいし、本当に自分が好きなことって思うと、やっぱりそれだなって気分は強くなってる。

─他人のレコーディングをするのは、何が楽しいんですか?

JS:演奏してるのが自分じゃないところ(笑)。人の作品づくりに触れていると、こういうアレンジするんだとか、いろいろと勉強になることが多くて。プロデュースの仕事って、相手のアタマのなかに入るみたいな感じだから、相手が音楽の教育を受けてるかどうかとか関係なく、本当に面白い。


─ちらっと聞いたところによると、お酒飲むのをやめたらしいですね。

JS:そうなの。音楽業界って、とにかくどこにいってもお酒がついて回るし、飲むことが推奨されるわけね。ただでお酒が振舞われて、ライブ終わったらみんなが奢ってくれるし。お酒と音楽がそういう意味ではそいう感じでセットなのは、たぶんどこに行ってもそうなんだけど、自分は飲みすぎてしょっちゅう意識失ったりしてたから、お酒入ってる自分があまり好きでなくなってきて。かつ、ほらお酒っていい逃避にもなるから、そういうのよくないなって。今まで自分がした決断で一番いい決断だったかも、とは思ってる。

─そのことによって音楽への向き合い方とか変わりました?

JS:チャレンジを正面から受けられるようになったって感じかな。曲をつくっているときでも、そこで扱われている感情と対峙しなくてはならないんだけど、それとガチンコで向き合うって感じはあるかな。以前はお酒飲みながらつくったりしてたんだけど、やめちゃうと結構手持ち無沙汰でもあって「退屈だよー」って感じることもあるんだけど、逆にいうと自分を忙しくしてないといけないから、怠惰ではなくなったと思う。友だちとの関係も、仕事の人間関係も。結局のところ、仕事でも重要なのは誠実さとコミュニケーションだと思うんで、そういうのも丁寧にやれるようになったというか。




Photo by Kana Tarumi

─今回の作品は、僭越ながら、すごくいいアルバムだと思ってて、今年の年間ベストにもきっとランクインするいい内容だと思うんです。

JS:あら(笑)。

─ただ、なんていうか何がいいんだか、いまひとつ分からないところもあって。前作とあまり変わらないといえば変わらないようにも思うんですが、その一方で、あるレビューに「才能が一気に開花した」というような賛辞もあって、たしかにそういう感じもするんですよね。ひとまわり大きくなったっていうか。何がそう思わせるんですかね?

JS:うーん。自分の仲のいい友達もそう言ってくれるんだけど、自分からすると「なんで?」って感じは正直あって。新しいだれかが参加しているというわけでもないし、前作から2年経って、その間に起きた成長が自然と反映されてるってことなのかな。

─作曲やプロダクションが成熟してきた、っていうような手応えはあります?

JS:うーん。メディアの人はよく「成熟」って言葉を使うけど、言われてる方は実感あるのかな。ただ自分に正直に音楽をつくろうとしてるだけだからね。言わんとしてることはわかるだけど。




─何が今作のよさなのかが、よくわかんないんですよ。

JS:あはは。

─何か変えました?

JS:どうだろう。以前は結構せっかちに音楽をつくってたのね。いい加減なところも多いから。でも今回は何回もテイクを録ったりとか、ちゃんとやったかな。

─自分の過去の作品は聴き返したりはするんですか?

JS:聴くようにしてる。自分の音楽を聴くのは基本好きだし。というのも、その時の自分の感情や経験がそこには刻印されているから。一種のタイムスタンプだと思う。飛行機に乗ったりすると前のアルバムを通しで聴いたりするんだけど、まあ、でも、愛憎半ばする感じかな。「あたしったら最高じゃん!」って思うときもあるし、「おめえ、2度と自分でギター弾くんじゃねえぞ!」って思ったり(笑)。でも、前の自分のものを聴くことは、成長することを助けてはくれると思う。

─制作のときには、リファレンスとして他人の音源を聴くことはあるんですか?

JS:とくに明確にリファレンスと呼べるものはないんだけど、昔から好きなものをよく聴くことはする。新しいものをつくるにはなんらかのインスピレーションが必要なので。オリジナルなものをつくるためには、ほかのものを聴いちゃダメって言う人もいるんだけど、わたしはそういうタイプじゃないのね。

─今作をつくる間は何を聴いてました?

JS:ポーティスヘッドをよく聴いてたかな。

─えーと、その痕跡はあんましわかんないですけど(笑)。

JS:あはは。そのうちわかってくるよ(笑)。あと、これまでそこまでファンでもなかったんだけど、レディオヘッドをちゃんと聴き込んで、おかげで大好きになった。あとは、ピンバックとコクトー・ツインズかな。ドリームポップとシューゲイザーは一番好きでわたしのバックグラウンドだから。それと最近のバンドでビッグ・シーフやLolmeidaとか、Alvvaysとか。


─ずいぶんたくさんタトゥー入れてますけど、どういうものなんですか? 

JS:最初のタトゥーは私の犬ね。あと、これはデス・キャブ・フォー・キューティーでしょ(『We Have the Facts and Were Voting Yes』のアートワーク)。あとはパートナーがプレゼントしてくれたものだったり。あ、この(左腕の)シナモンロールは前回のツアーのタトゥーでバンドメンバー全員が入れてるよ。


Photo by Kana Tarumi

─個人的にはタトゥーってちょっと抵抗あるんですよ。

JS:聞いたよ! 日本だとタトゥーしてると温泉入れないんでしょ?(笑)

─ですです。「反社」っていって、アンタイ・ソーシャルな人たちだと思われます。

JS:わたしたちの世代の感覚だと、タトゥーを入れない方が珍しいくらいで、ずっと残るというのがやっぱりいいんだと思う。意味がある感じがして。うちのお母さんはイヤがるけど。

─お母さんといえば、今作の「Anok Ko」っていうアルバムタイトルはタガログ語ですよね。

JS:そうそう。「わたしの子ども」(マイ・チャイルド)っていう意味。アルバムタイトルは最後の最後まで決まらなくて、歌のタイトルから取ろうか歌詞の一節から取ろうかとかずっと悩んでて、どうしようと思って電話を眺めてたら、お母さんとのメッセが出てきて。彼女のメッセには、いつも「Anok Ko、元気で」とか「Anok Ko、愛してる」ってあって、これだ、と思って。象徴的な意味でいえば、本作はわたしの子どものようなものでもあるわけだし。

─ご両親ともに、フィリピン生まれですか?

JS:そう。

─フィリピン文化の影響っていうのは、日々の生活のなかにあったんですか?

JS:食べ物とかそういう部分ではそうだけど、音楽の部分では、どうだろう。あるとすれば、カラオケ文化かなあ(笑)。フィリピン人は、死ぬほどカラオケが好きな人たちなんで、だいたいの家にカラオケマシンがあって、みんなで集まってよく歌ってる。

─何歌うんですか?

JS:アメリカのポップスが多いかな。ジャーニーはみんな大好き(笑)。

─ああ、今のボーカルはフィリピンの方ですもんね。

JS:そう。みんなめっちゃ誇りに思ってる(笑)。

─それは正しいですよ。どうでもいい話なんですけど、日本のミュージシャンにブラックミュージックのエッセンスを授けたのは、実は米軍にいたフィリピン人のミュージシャンだっていう話を聞いたことがあって、へえと思ったんですけど、ぼくの勝手な印象ですけど、フィリピンの人たちってリズム感がいいように思うんです。ジェイ・ソムさんも、ギターのカッティングとか絶妙にリズミックですよね。バウンシーというか。

JS:そういうのがあるとしたら両親の影響かなあ。お父さんはDJやったりもするし、お母さんもピアノは弾くし。

─これまたどうでもいいことなんですけど、Fannyってバンド知ってます? 70年代初頭のバンドで、自分もつい最近知ったんですけど。

JS:知らないなあ。

─このグループ、実は全員女性の初のロックバンドと言われてて、フロントのふたりがフィリピン移民の姉妹なんですよ。グルービーでブルージーをロックを演奏するんですがカッコいいんですよ。初期のハートみたいな。ボニー・レイットなんかが彼女らの世話になってたなんていう話もあって、ぼくが聴いたポッドキャストだと、「ロック史上最も黙殺されてきた女性バンド」って紹介のされ方をされてたんですが。

JS:へえ。面白い。聴いてみる。



─フィリピンで演奏したことは?

JS:まだなくて。ライブやりたいとはずっと思ってる。

─最近のアメリカの音楽シーンを見てると、それこそミツキさんとか、セン・モリモトさんとか、CHAIとか日本オリジンのミュージシャンが頑張ってて、日本だけでなくアジアを見回しても、さっき名前のあがったSasamiさんとか、それこそジェイ・ソムさんとか、アジア人の活躍が目立つようになったと思うんです。海の向こうの遠くから眺めている身としては、同じアジア人がそうやって頑張ってるのは、素直に嬉しいというか応援したくなるわけなんですけど、当人としてはどうなんですか? いちいち人種的バックグラウンドを聞かれたり、それと紐付けられたりするのは、居心地の悪さがあったりするんですか?

JS:わたしに関して言えば、フィリピンやその文化について話すのは大好きだし、それが徐々にでも受け入れられていくのは嬉しいことだと思っていて。移民の子としてアメリカで育つと、どうしたって「内面化された人種差別」に悩まされるのね。私もそれでいじめられたり、からかわれたりして、アイデンティティを見つけることがとても難しかった。自分の家で食べている食事に誇りを持とうと思っても、いざ外に出てそれを言うと、からかわれるわけじゃない? とくにわたしが育ったのは白人中心のエリアだったから、自分のフィリピン人としてのアイデンティティとアメリカ人としてのアイデンティティを折り合いをつけるためのコモングラウンドを見つけるのが難しかった。

─そういう状況は少しは変わってきているんですか? 変わってきてるという実感はあります?

JS:少しは変わってきてると思うし、ちゃんとそういうことを話せるようにもなってきたような。少なくともわたしの周りは、無神経なことを言う人はあまりいないかな。

─Sasamiさんやレティシア・タムコさんと仲良しだと言ってましたけど、Sasamiさんは韓国、レティシアさんはカメルーンがオリジンで、ジェイ・ソムさんが育つなかで感じた苦労や苦悩などを同じように体験してきた人たちなんじゃないかと思うんですけど、そういうことをよく話したりはするんですか?

JS:よくというよりも、ほとんどそういうことしか話してないかも。音楽の世界に自分も参加するようになってなって何が一番素晴らしいことだったかというと実はそこで、移民であることだったり、女性であることについて語り合ったり、不満や愚痴を言い合ったりすることのできる友だちや仲間ができたこと。電話で「どお?」って感じで、声をかけあうことができるのは本当に心強いし、わたしたちは、いつだってそうやって声に出して、そういうことを常に話し続けるべきなんだと思う。

─いいですね。で、最後の質問なんですけど、今作はピッチフォークのレビューで何点取れそうですかね。ぼくの予想だと8.3から8.7の間かと思うんですが(笑)。ちなみに前作は、8.6でした。

JS:昨日ちょうどそれについて話してたところ!(笑)。マネージャーは高得点を取るっていうんだけど、わたしは期待しすぎてがっかりしたくないから、5.0ってことにしとこうかな。

─そりゃ低すぎますよ。

JS:だといいけどね。
 
─いいお話をたくさんありがとうございました。

JS:いいえ。どういたしまして。





ジェイ・ソム
『Anak Ko』
発売中