夏休みもあとわずか。自由研究はすすんでいますか?

今まさに取り組んでいる人も、これから慌てて取り組む人も、お子様だけでなく大人のみなさんも、

「市民科学」に参加してみませんか。

今日は、市民の協力でマルハナバチの状況を調査する取り組みをご紹介します。


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写真提供:「花まるマルハナバチ国政調査」

■そもそも市民科学とは

「市民科学(シティズンサイエンス)」とは、一般市民が科学的な活動に関わることをいい、多くは科学者と協働して行われています1)。例えば海外では、数万人の市民によって、野鳥の数の観測や銀河の形の分類が行われ、集まったデータが多くの研究論文に活用された事例などがあります。自分が調査した結果が研究成果とした活用され、新しい知見が得られるとは、なんともわくわくする取り組みですね。

■市民の力でマルハナバチを調査するプロジェクト

日本でも市民科学は行われていて、そのひとつに「花まるマルハナバチ国勢調査」というプロジェクトがあります。

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「花まるマルハナバチ国政調査」

マルハナバチとは、写真のようなずんぐりとした可愛らしいハチで、日本に16種ほど生息しています。きっとみなさんもどこかで見かけたことがあるはず。迫力のある見た目や大きな羽音とは裏腹に比較的おとなしいハチのようで、こちらから過度に刺激しない限り近づいても刺されることはないそうです。

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写真提供:「花まるマルハナバチ国政調査」

このプロジェクトでは、市民が見つけたマルハナバチをスマホ(デジカメでもOK)で撮影し、見つけた場所の位置情報などとともに事務局へメールで送付すると、研究者が種を特定して結果を返してくれます。そして、みんなから報告されたマルハナバチの目撃情報が蓄積されて全国のマルハナバチ分布マップができるというもの。

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私もマルハナバチをみつけようとスマートフォンを片手に未来館や自宅の周辺で探しております(8月17日現在まだ発見できず...)。マルハナバチを発見できなくとも、ほかのハチやチョウがせっせと花の蜜を集めている様子を眺めたり、普段は目もくれなかったところに咲いている花を発見したりとなかなか楽しいです。

誰でも簡単に参加できるこの市民科学プロジェクトですが、そもそもなぜマルハナバチを調査するのでしょうか。そしてマルハナバチの現状はどこまでわかり、今後のどのような可能性があるのでしょうか。プロジェクトを主導している横山潤先生(山形大学)と大野ゆかり先生(東北大学)にお話をうかがいました。

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左:横山 潤 氏(山形大学理学部)

右:大野 ゆかり 氏(東北大学大学院生命科学研究科)

■なぜマルハナバチを調査するのですか?

(大野氏)マルハナバチ類は、野生の植物だけでなく、多くの作物の主要な花粉媒介者(ポリネーター)です。マルハナバチらポリネーターがいることで、様々な植物が維持され、また、人間にも農作物の供給という大きな恩恵をもたらしてくれています。しかし、近年マルハナバチ類は、人間による土地利用の変化、資源植物の減少、農薬、感染症などの影響で全世界的に減少しているといわれています。日本においては、外来種であるセイヨウオオマルハナバチが野外で定着することで、在来種に影響が生じていることも危惧されています。外来種の影響のない地域でも、マルハナバチ類は減少傾向にあると指摘されています。そこで、東北大と山形大の生物多様性の研究者が中心となって、日本国内でのマルハナバチの現状を把握するために、このプロジェクトを立ち上げました。

■参加者から寄せられたデータはどうしているのですか?

(横山氏)毎年およそ1000件の情報提供があります。わたしたちで画像を一件一件確認してマルハナバチの種を特定していきます。今後は、AI(人工知能)をつかった画像解析によって、より早く種の特定ができるようにする仕組みも考えています。

(大野氏)写真についているGPS情報やメール本文に書かれた住所から撮影場所を特定して分布情報も作成します。そこから、種分布モデルを使用して、マルハナバチの生息に適した環境を推定したり、環境変化によってどのように分布が変化するのかを予測しています。

■集まったデータからどのようなことがわかりましたか?

(大野氏)2013年から2016年の間に集まったマルハナバチの写真は3833枚でした。主要6種のマルハナバチについて2015年までに受けた報告を地図上に整理すると図1のようになりました。また、このデータをもとに、報告の無かった地域についても種分布モデルを用いて分布確率を推定したのが図2です。

(a)トラマルハナバチ(b)コマルハナバチ(c)オオマルハナバチ

(d)クロマルハナバチ(e)ミヤママルハナバチ(f)ヒメマルハナバチ

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図1 マルハナバチ主要6種の分布(市民の報告による)

白丸が写真で報告のあった場所

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図2 マルハナバチ主要6種の分布(推定)

青は確率が低く、緑から赤は確率が高い場所

分布推定の結果、マルハナバチの分布はおもに、気温と標高と森林面積で決まっていると考えられます。トラマルハナバチ、コマルハナバチ、オオマルハナバチ、クロマルハナバチは、1平方キロメートルで考えると、35〜70%程度、森林に覆われた場所が生息に適していると推測されました。

このような「ほどほどの」森林面積は、里山でよく見られます。伝統的な方法で維持されている里山は、人間による適度な撹乱(例:薪となる枝を採ったり、野焼きや草刈りなど)があり、様々な生物が生息することができます。そのため、生物多様性の維持に非常に重要な場所だと考えられています。

■たくさん人の参加や質の良いデータを集めるには工夫が必要だったのでは?

(大野氏)新聞で記事として取り上げていただいたり、チラシを配っていただいたりFacebookやTwitter、Webサイトで呼びかけることでたくさんの方が参加してくださいました。しかし、ある程度写真を送った時点で満足したり、お忙しい時期があったりと、いろいろと理由があって、活動から離れてしまう方もいらっしゃいます。なかなか難しいですが、参加者から継続的にデータ提供してもらえるよう、メーリングリストにメールを送ったり、FacebookやTwitterで定期的に情報提供をしたり、頑張っています。

(横山氏)種の識別は、胸や腹部のカラーリングや頭部の形を見て行うので、その部分が写った写真であることが大切です。そこで、「マルハナバチ撮影のポイント」をWEBページ上で紹介し、1枚だけなら「背面」を撮影し、できれば「側面」「正面」の撮影にも挑戦してほしいとお願いしています。また、そもそもマルハナバチという生き物が、大きなハチなので見つけやすく、花の蜜を吸っているときなどはあまり動かないし、種数がそこまで多くない(15種程度)ことなどから、画像からの識別に適していることもあります。

■今後のプロジェクトの発展性は?

(横山氏)マルハナバチの分布が環境の影響で今後どのように変動するかを予測できるようにしたいと思います。マルハナバチは花粉を運ぶ大切なポリネーターであるため、数が減った場合は植物にも連鎖的に影響がおよびます。ある環境の変化が、身のまわりにいる普通の生き物にどれだけ影響をもたらすかを予測できるようにしたいです。そのために、これからもたくさんのマルハナバチのデータを集めて、長期間のモニタリングを行います。

(大野氏)マルハナバチの生息に適した環境がわかることで、保全に効果的な対策(土地利用)の提案ができると考えています。温暖化によってマルハナバチの分布が変化する際に、ある場所の森林面積や草原面積がもっと増えればマルハナバチの分布域が増えるなどのことがわかれば、土地利用を工夫して、マルハナバチの減少を最小限にすることができるかもしれません。また、マルハナバチで成功すれば、他の生物でも同じような市民参加型調査と保全対策の提案ができるかもしれません。特に、人間活動と自然が調和した里山のような環境を好む生物は、市民参加型調査がしやすく、人間が土地利用を変化させることで、分布域を増やすことができるのではないか、と考えています。

■市民科学の意義は?

(横山氏)「大規模なデータが比較的に簡単に取れる」ということが魅力だと思います。生き物の分布を調べるときなど、研究者自身で集められるデータの量には限界があります。一般の方の調査によって、仮にデータの質は落ちてしまったとしても、大量に集まったデータはとても価値があります。また、市民科学によって「普通の生き物の情報をたくさん集める」という調査ができます。例えば、絶滅が危惧されていたり、人間への影響が大きな生物などは、国による調査などが行われているものもありますが、そうではない"身の回りにありふれている普通の生き物"を調査することも実はとても大事だと思います。その土地に普段から住んでいた生き物が急速に減ってきている場合は何かのシグナルの可能性がありますが、それは、普段から観測していないとわかりません。大きく数が減ってしまってから対策をとったのでは遅いこともあります。「この地域にはこの生き物がこれくらいいた」というデータは大切だと考えます。そして、市民がこのような調査に関わることで、生き物への関心が高まり、そうした変化に気が付きやすい市民を増やすことにもつながると思います。

(大野氏)その土地に住んでいる市民の方が、最も早く、その土地の生物や環境の変化に気づくことができます。市民参加型調査というシステムを研究者が構築し、維持することで、市民の方の気づきを研究者がすばやく吸い上げることができます。また、研究者から市民の方に、正しい環境保全対策の情報提供をすることができ、市民の方の「環境や生物を守りたい」という善意を無駄にすることなく、効率良く環境保全を進めていくことができると考えています。

おふたりのお話から、市民の力を活用してこそできる研究が確かにあり、その研究に参加した市民自身も気づきが得られる可能性を感じました。今回ご紹介したプロジェクトの他にも、市民の力で新たな知見を得ようとする取り組みはまだまだあるはず。未来館ブログではこれからも市民科学について紹介していきます。

参考文献

1) 「下水道の『市民科学』 ガイドブック」 国土交通省 2019

2) Suzuki-Ohno, Y., Yokoyama, J., Nakashizuka, T. and Kawata, M. (2017) Utilization of photographs taken by citizens for estimating bumblebee distributions. Scientific Reports, 7, 11215 [Open Access]



Author
執筆: 宗像 恵太(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
都内中学校の教員として、科学的思考力につながる授業を模索しながら、生徒と理科の授業を日々重ねる。そんな中、「もっと先端科学技術についても一緒に考えたい」、「毎日の理科の授業を科学コミュニケーションの場にしたい」という思いから、その手法を探りに未来館へ。お客さんと先端科学を交えた対話をしながら、自分も成長していきたい。