母校である日本体育大で投手担当のコーチを務める辻孟彦コーチ。甲子園に出場し、プロでもプレーした経歴を持つが、中学時代に右肘を痛めて高校時代は満足に投げることができなかったという。そんな辻コーチに自身の小中学時代、高校時代を振り返っていただきつつ、現在の少年野球についてもお話を伺いました。



■小学校のうちに投手に特化してしまうのはリスクが大きい
――最近ニュースにもなっていましたが、中学生以下でトミー・ジョン手術を受ける子が非常に多いそうです。やはり投手と言う観点では子どものうちに投げ過ぎてしまうことが多いようですが、辻コーチご自身はどうでしたか?
辻「僕らの時代はまだトミー・ジョン手術が一般的ではなかったですが、僕自身も今なら手術した方がいいくらいの肘の状態だったと思います。中学3年生で右肘の靭帯を損傷して、今もまっすぐ伸びませんけど当時からこんな感じでした」

――中学時代から硬式で結構投げていたということですか?
辻「僕は小学校の時から硬式で投げていました。中学の時にボーイズの日本代表にも選ばれていたので、高校(京都外大西)も少し鳴り物入りで入るような感じでした。ところが入学前の3月の練習で投げさせてもらったらそこで肘を完全に痛めて、そこからの高校2年間はほとんどリハビリでした。やっと最後に少し投げられるようになったくらいですね」

――高校に入る前から痛みはあったんですか?
辻「いつから痛かったかはっきりと覚えていませんが、痛いのが当たり前で、何が普通の状態か分からなくなってましたね。練習も含めて200球くらい投げることもあったと思いましたけど、当時はそれが当たり前で、悪いと思ったこともありませんでした。今はもちろん選手にはそんなことはやらせませんけど(笑)」

――ずっとリハビリの高校生活で心が折れたりしませんでしたか?
辻「僕はずっとプロになるために野球をやろうと思っていたので、そのための高校野球だと思ってやっていました。最初に行った病院では医者から『(この肘では)ピッチャーは無理だ』って言われたんですけど、トレーナーの勉強をしていた姉の繋がりで紹介してもらった方のところにずっと通って、何とか高校の最後に少し投げられるようになった感じですね」

――早い段階で肘を故障されて、それでもプロまで行った辻コーチの立場から、小中学生の肩、肘を守るためにもこういうことを気をつけてほしいということがあればお願いします。
辻「小学校のうちに投手に特化してしまうのはリスクが大きいと思います。だからまずはみんなで交代で投げて、打つ楽しさから入る方が良いのかもしれませんね。投げて抑えることを目指すのはもう少し後でもいいと思います」

■子どものうちは左投げでも色んなポジションをやってみる
――その他に少年野球について思うことなどはありますか?
辻「大学でピッチャーを教えていて、ある時ピッチャーだけを集めて『好きなポジションに入っていいぞ』って言ってノックをやったんですね。そうしたら左ピッチャーはみんなファーストか外野にしか行かないんです。おそらくですけど、左投げの選手は小さい頃からピッチャーかファースト、外野しかやってきていないと思うんですよね。固定観念で左利きの子のポジションが決めつけられているように思います。子どものうちは右投げでも左投げでも色んなポジションをやってみる。左投のキャッチャーやショートがいてもいいと思うんです。左ピッチャーにフィールディングが上手くない選手が多いと思っているのですが、その影響ではないでしょうか。小さなことですが、少年野球のそういうところから変わると野球全体も変わっていくのかもしれませんね」

――現在は少年世代の野球人口が減っていることも問題視されています。
辻「極端なことを言うと、小学生の試合は大会じゃなくて交流試合でいいと思います。あと場所などの環境的な問題もある中で、一つのグラウンドを一つのチームが独占して使うというのもあまり良いことではないですよね。そのグラウンドにみんなが来てみんなでやればいいと思うんです。ユニフォームがなければ短パンとTシャツでもいいです。そうやって野球と触れ合う中で楽しさや色んなことを学ぶことがスタートじゃないでしょうか」

――子どもが野球を始めることのハードルが今は高い印象がありますね
辻「そうですね。ハードルはどんどん下げて、どんな形でもまずやってみる。道具を揃えるのが大変なら友達同士で貸し借りすればいい。揃ってやる必要はないと思いますね」
(取材・西尾典文/写真:編集部)