「【シゴトを知ろう】パン職人編」では、株式会社吉沢製パンの吉澤拓哉さんに、職人になるまでのストーリーや、現在のお仕事の様子について伺いました。パンづくりを純粋に楽しんでいる吉澤さんの姿勢が印象的でしたね。

番外編では、パン職人ならではの気質や「業界あるある」など、吉澤さんに伺った、さらに深いパン業界の裏側を紹介していきます。

■細かすぎ!? 職人さんの探究心

―― 業界内にはどんな性格の方が多いですか?

やはり、職人気質というか、探究心が旺盛な方が多いです。パンの工程はアレンジできるポイントが多いため、食べる側には分かりづらい部分も含めて、いろいろやってみるという人が多いですね。

仕込みに使う水をワインにしたりとか、発酵に使う酵母を麹にするとか、職人さんによってこだわりのポイントはいろいろです。

また、パンづくりは段取りがものをいう仕事。だからこそ、そういう部分を私生活にも持ち込んでしまいがちかもしれません。旅行でも、きっちり段取りを組んで無駄な時間を省こうとする人は多いです。

 
―― 業界内ではどんなキャリアパスがありますか?

私もそうでしたが、製パンの専門学校に行き、現場で修行する人が多いと思います。「パンはなぜ膨らむのか、なぜ色が着くのか」など、パンを科学的に勉強できるのが専門学校。昔の職人が感覚で覚えていたことを、理論的に理解できるのが特徴です。

パンづくりの技術だけで言えば、専門学校に行く必然性はありませんが、パンの科学を知っていれば、失敗したときやうまくいったときに、なぜそうなったのかを分析できます。

一方で、高校などを出てすぐお店に入り経験を積む人もいます。まったく違う業界から転職する人もいますし、いろいろななり方があると思います。

■情報を制するものが、パンを制す!

―― 業界内で働くにあたって、特に意識したり、制限されることはありますか?

住むところは、職場の近くであることが必須です。電車が動いていない朝4時台に始業するお店も少なくないので、徒歩や自転車などで通える範囲に住むことになります。

また、1人でできる仕事ではないので、体調管理にはとくに注意が必要です。よく寝て、しっかりご飯を食べて、休むときは休むこと。そうして暮らしにメリハリをつけることがポイントですね。

これは笑い話なのですが、「パン職人は納豆を食べるな」という言葉があります。納豆菌が、パンの発酵に使うイースト菌を殺してしまうためですが、製造現場に納豆を持ち込まない限り、影響はありません。私も日常的に食べていますよ(笑)。

―― 業界内の情報はどのように得ていますか?

昔の同僚や、取り引きしている業者に話を聞くことが多いですね。近年のパン業界は、とても技術の進歩が早く、海外のトレンドがすぐに日本に影響を及ぼしたりします。何もしないでいると、すぐに置いていかれてしまうんです。

情報という意味では、業界紙(メディア)が多いのは特徴かも知れません。「B&C」と呼ばれる雑誌をはじめ、新聞やWebメディアなど、情報を得る手段がたくさんあります。そこの情報にも気を配っていますね。

■パンは生き物! 愛情込めてつくる理由

―― ついやってしまう「職業病」のようなものはありますか? 

この業界に限ったことではないかもしれませんが、パン屋さんに行くといろいろ見てしまいますね。商品だけでなく、製造エリアの機械や職人の動きも確認してしまいます。単純にパンが好きな職人さんばかりなので、休日にパン屋めぐりをしている人も少なくありません。自分の店に同業者が来たときも、目線が違うのですぐ分かります(笑)。


―― 一般の人に驚かれる、パンづくりの常識はありますか?

パンは「生き物」ということですね。愛情をもってつくってあげないと、それなりのパンが出来上がってしまうんです。パンづくりで重要な役割を果たすイーストや天然酵母は、暑すぎても寒すぎてもきちんと動いてくれません。湿気の多寡も影響してきます。パンの繊細な反応を感じ取り、丁寧につくらなければいけないんです。

また、パンづくりに使う小麦粉の種類は、日本が突出して多いんです。海外の国々ではせいぜい数種類から10種類が普通ですが、国内製粉会社はさまざまな配合の商品を出していて、その数は100を超えます。だからこそ日本では、多彩な味のパンが楽しめるんです。
 
 

生き物のように繊細なパンに、毎日向き合っている吉澤さん。納得のいくおいしいパンを追求するため、トライ&エラーを繰り返しているそうです。比較的朝も早く大変な仕事だからこそ、暮らしにメリハリをつけるという話も印象的でした。食べる人の笑顔のために技を磨く吉澤さんの、探求の日々は続きます。
 
 
【profile】有限会社吉沢製パン 「サンクルー」店長 吉澤拓哉