皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回の相談者は、仕事がハードワークのため、早期退職、早期リタイアを希望する47歳の会社員女性。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします

◆将来のため資金をどのようなバランスで備えればいいですか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。

今回の相談者は、仕事がハードワークのため、早期退職、早期リタイアを希望する47歳の会社員女性。そのための資金の備え、その方法や安心できる金額等について、ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

◇相談者
えもんさん(仮名)
女性/会社員/47歳
四国/持ち家・マンション

◇家族構成
一人暮らし

◇相談内容
経済不安は強いが、仕事がきつくて続けられるか不安になっている。早期退職はできないものか。

住宅ローンは完済していますが、将来のための貯蓄がこれからになる。独身のため、とにかく経済力が不安。また仕事漬け・ストレス三昧の日々なので、可能なら早期退職、遅くても60歳では引退したい(退職金は現時点で約600万円、定年60歳で約1200万円予定)。

今後、昇給があったらその分をつみたてNISAにでも回したいが、貯蓄と投資のバランスをどの程度にするべきか、商品選びなどの知識がなくて不安(現在の投資はiDeCo)。

◇家計収支データ
相談者「えもん」さんの家計収支データ

◇家計収支データ補足
(1)ボーナスの使いみち
基本は全額貯蓄。データに記載の額より多く支給されるときがあり、それは自分の小遣いにしている。

(2)iDeCoの内訳
定期20%、国内株式30%、海外先進国株式30%、新興国株式20%

(3)加入保険の内訳
・本人/終身保険=毎月の保険料1万134円
・本人/医療保険=毎月の保険料3862円

(4)住宅について
10年前に新築マンションを購入

(5)相続について
実家は便利ないい場所にあるが、土地は地盤が不安定で、建物は築70年と築50年。居住している両親は70代後半。相続人は兄(独身)と相談者の2人。ただし、30年以上前から県外で会社員をしている兄は、親の介護に協力できず、相続等も希望していない様子とのこと。

(6)ストレスについて
相談者コメント「現在、薬を処方してもらうための通院(不定期)。余程ひどい時期は心療内科での診察も受けましたが、世間でいわれるような「うつ・うつ状態」ではありません。人事異動があり、長く所属していた部署から離れました。

前部署ではトラブルやストレスも非常に多く、残業、休日出勤も多くて日々張りつめていました。異動後、担当業務が大幅に変わったため、神経をすり減らすことはなくなり少し楽になりました。残業もなく時間的余裕も十分できました。しかしながら、早期退職したい気持ちは変わっていません」

(7)引退について
第一希望はフルリタイア。ただ、経済的に厳しいようなら65歳くらいまでは週3日程度、もしくは現在の生活費(月14万円)を確保する程度の仕事を考えます。ねんきんネットで試算したところ、今の仕事を60歳まで続けた場合、受給額は月額で約12万3000円。

◇FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:早期退職なら55歳が資金的にギリギリ
アドバイス2:60歳まで勤務ならフルリタイアは可能
アドバイス3:ボーナスはあえて支出に回すのも一案

◆アドバイス1:早期退職なら55歳が資金的にギリギリ
早期退職のご相談ですので、相談者のえもんさんの退職の年齢によってどうキャッシュフローが異なってくるか、具体的に試算をしながら、考えてみましょう。

まずは3年後、50歳での早期退職の場合。毎月の貯蓄(iDeCoを含む)が13万5000円ですから、年間162万円。ボーナスの貯蓄分も含め、3年間で530万円ほど。今ある貯蓄と合わせて770万円ですから、退職金を仮に700万円とすれば、退職時の手持ち資金は1470万円となります。

次に、退職後の生活費ですが、今とほぼ変わらないとすると、現在の毎月の生活費に固定資産税や車検などクルマのコストも月割りで加算し、さらに健康保険料や住民税、国民年金の保険料も加味しなくてはなりません。少なくとも月18万円にはなるでしょう。だとすれば、退職後、フルリタイアなら8年目、57歳のときに貯蓄が底をつきます。

では、セミリタイアとして、えもんさんが言われているように、月14万円の収入(社会保険料や税金を差し引いた手取額)を得るとしたらどうか。このケースでは、不足額は年間30万円程度。65歳まで働くとすると、15年間で450万円ですから、65歳の時点で手持ち資金は約1000万円に減っています。

公的年金の受給額は断定できませんが、おそらく月6万~7万円は生活費が不足すると考えられます。結果、76歳でやはり貯蓄がなくなります。65歳以降も働けば、資金が減るスピードは落ちますが、それでも90歳まで生きると考えれば、資金的リスクはあまりに大きいといわざるを得ません。

対して、55歳退職の場合はどうか。退職時の手持ち資金は2400万~2500万円。退職後、フルリタイアとなれば、65歳の時点で手持ち資金は200万~300万円に減っています。老後資金としては明らかに不足しています。

一方、退職後、同様に月14万円(手取額)の収入を得続けることで、65歳の時点で手持ち資金はまだ2000万円超。年金の不足額を月6万円とすれば、90歳の時点で手持ち資金はまだ200万円程度残ることになります。長生きリスクや、病気・介護の可能性も考慮すれば、額は不足気味ですが、65歳以降もアルバイト等で収入を得れば、老後資金としては足りる可能性もあります。

◆アドバイス2:60歳まで勤務ならフルリタイアは可能
最後に60歳まで勤務した場合。退職時の手持ち資金は3500万円。以降、フルリタイアすると、公的年金支給までの5年間でかかる生活費は1000万円程度と考えられますので、65歳のとき手持ち資金は2500万円。

そして、90歳の時点でまだ1000万円が残ることになりますので、老後資金としては「足りる」と考えていいでしょう。つまり、60歳まで勤務すれば、その後はフルリタイアも可能ということです。

結論をいえば、資金的には退職後フルリタイアを前提に60歳まで勤務するという選択が望ましいということになります。現状で退職金、公的年金とも最大額を手にできることと、60歳以降、アルバイト程度の働き方でより資金的に余裕を得られるという手段も選べるからです。

一方、早期退職を選択した場合、必要な資金を得るだけの新たな仕事を得られるかが、まず不確定。相続で資金を手にする可能性もありますが、その時期は不明ですし、その間、手持ち資金がなければ、気持ち的にもかなり不安になるはずです。

◆アドバイス3:ボーナスはあえて支出に回すのも一案
ただし、問題は60歳まで働くことが可能かどうか。そもそも、ハードワークやストレス等で心身が疲弊し、10年以上も通院されているわけです。幸い、最近異動があり、職場環境はだいぶ改善されたとのことですが、定年までこの状態が継続されるかどうかはわかりません。

したがって、無理に頑張るのではなく、あくまで設定は60歳退職に置き、きびしいようなら55歳でも57歳でも、早期退職の余地を自分の中に残しておく方がいいと思います。

それと、現時点では、えもんさんの貯蓄率は手取り収入の45%ほど。相当な高さです。もしその維持が大変であれば、ボーナスだけは支出してもいいのでは。趣味に使う、外食をする、あるいは旅行でも構いません。日々の生活で楽しむ部分、遊びの部分があることで、気持ちのバランスが取れることは往々にあります。

60歳までに支給額が変わらなければ、13年間で手にするボーナスは195万円。60歳での時点での手持ち資金が3500万円から3300万円に減る程度です。60歳まで勤務するならば、さほど大きな影響はないでしょう。

投資については、昇給等で余裕資金ができたら、「つみたてNISA」を始めたいとのこと。いいと思います。投資の基本は分散ですが、具体的な商品選びは、楽しみながら実践で学んでいくというスタンスでいいのでは。定年までまだ時間はあります。また、それに関連して、現在のiDeCoの20%が「定期」になっていますが、別途、貯蓄商品でも積立は十分やられています。iDeCo は100%投資でいいでしょう。

最後に保険について。現在加入の終身保険はその必要性がありません。死亡保障は不要ですし、お葬式代なら、貯蓄から出せばいい。予定利率は不明ですが、さほど高いとは思えません。払済保険にして、浮いた保険料の月1万円は、貯蓄に回す方が合理的です。

◆相談者「えもん」さんから寄せられた感想
この度は貴重な機会をいただきありがとうございました。自身の生活、財布の見直し、未来を考えるいい機会でした。早期リタイアは厳しいという現実を思い知りましたが、具体性が出たことで、60歳を人生の節目にしたいという気持ちです。ありがとうございました。

教えてくれたのは……
深野 康彦さん

マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文/清水京武

文=あるじゃん 編集部