前編では、アフリカ南部の国ザンビアでの鉛汚染の実態を調べ、被害を食い止めようと奮闘する日本とザンビアの研究者の取り組みを紹介した。


<インタビュー>ザンビアの未来を担う人材育成──カタバ・アンドリューさん

 KAMPAIプロジェクトではザンビアから留学生を受け入れている。日本で技術や知識を学んでもらい、カブウェ含め周辺各国の問題解決にも役立ててもらうことが狙いだ。その一人、カタバ・アンドリューさん(35歳)は2016年に来日し、北海道大学に在籍している。2021年3月まで在籍予定で、鉛の体への影響を詳しく調べる研究を行っている。カタバさんに北海道大学毒性学研究室で話を聞いた。

20190728_ayatsuka_03.JPG
カタバ・アンドリューさん


「家畜の病気についてもっと知るため、日本に学びにきました」

綾塚 どんなきっかけで日本に来ることになったのですか?
カタバさん もともとザンビア大学で獣医学の研究をしていたのですが、家畜の病気のことについてもっと知りたいと思うようになりました。動物の身体の構造について調べる解剖学や臨床獣医学はザンビア大学でも学んでいたのですが、例えば病気の原因となっている化学物質など、もっと詳しい内容は日本でしか学べないため、来日を決意しました。

綾塚 日本に慣れましたか?
カタバさん 慣れましたね。休日は家族と一緒に北海道周辺の観光地などいろいろなところへ出かけたりもしています。

綾塚 最初は大変なこともあったのではないでしょうか。
カタバさん 最初は言語の壁にとまどうこともありましたが......。道ばたで、英語で話しかけると、話かけた相手が英語を話すのが苦手なせいか逃げられてしまうこともありました(笑)。ですが、道などをたずねると忙しくても丁寧に教えてくれる方も多くいますし、日本の方は勤勉で誠実なので、信頼できます。約束の時間をきっちり守るところなどはこれからも真似ていきたいです。


20190728_ayatsuka_04.jpg
カタバさんは家族全員で日本に来ている


「幼いころから牛などの家畜は身近な存在でした」

綾塚 そもそも獣医学に興味をもったきっかけは?
カタバさん 幼いころから牛などの家畜は身近な存在でした。学校から帰ると家畜の世話をよくやっていました。乳製品がとれるだけでなく、畑を耕したり、物を運んだりするときの力仕事にも欠かせない存在でした。また、遠く離れた病院に妊婦さんを連れていくなど、交通手段としても活躍していました。そうした記憶もあり、獣医学を学ぶことにしました。大学では特にヤギの研究をしていました。女性や子どもにとって牛などの大きい動物を扱うのは大変ですが、ヤギは小さいので扱いやすいです。ヤギについてもっと知り、普及することができれば、私がいたような村の生活をよりよくできると考えていました。



20190728_ayatsuka_05.jpg
力仕事に家畜の力が欠かせない


「北海道大学で鉛の吸収を抑える方法を探しています」

綾塚 現在北海道大学でどんな研究に取り組んでいますか?
カタバさん 人への鉛の影響を調べるためにラットを使った実験を行っています。通常の環境で飼育するものと、数段階の濃度の鉛を投与したものに分け、それぞれのラットの血や肝臓、腎臓、脳、骨、脾臓、精巣に鉛がどれくらい溜まるか調べています。また、鉛の吸収を抑える方法も探しています。今は亜鉛に注目しており、亜鉛を摂取させることで鉛の吸収をおさえられるのでは、ということを調べています。亜鉛については今のところ大きな効果は見つけられていませんが、同じ実験をもう少し続けて効果を検証する予定です。今の研究が一段落したあとは、ゼブラフィッシュなど別の生物と鉛の関係についても研究し、最終的には人に対する影響を調べていきたいと考えています。


20190728_ayatsuka_06.jpg
北海道大学での実験のようす


「帰国後は地域の住民に対する教育活動にも取り組みたい」

綾塚 ザンビアに戻ってから、どのような研究や活動をしていきたいですか?
カタバさん 2021年3月までの北海道大学在籍のあとザンビア大学に戻る予定ですが、特に鉛汚染が進んでいるカブウェ市において、現地の子どもがどれくらい鉛汚染の被害を受けているかモニタリングする必要があると考えています。また、研究とは別の活動ですが、日本で学んだ知識や経験、スキルを現地や周辺地域、他国へ広めるなど、鉛汚染が進んだ地域の住民に対する教育活動にも取り組みたいと考えています。さらに、他の国とも一緒に仕事したいと考えていますし、その際に自分が学んできたことを活かして役に立ちたいと思っています。例えば、ザンビア大学の獣医学部はアフリカ南部において唯一の獣医学部なのですが、そこで他の国からの学生を受け入れることで、一緒になってそれぞれの地域の問題に立ち向かっていきたいと考えています。


20190809_ayatsuka_07.jpg
左から、綾塚(筆者)、カタバさん、中田さん


<取材後記>

 インタビューの際、カタバさんの手元にはびっしりと返答内容が手書きされたメモがあったことが印象的だった。「ザンビアの様子やプロジェクトについて、少しでも多くの人に知ってほしい」という思いがひしひしと伝わってきた。私たちは家電製品や金属製品など、生活を豊かにする多くのモノに当たり前のように囲まれて生活している。一方で、その裏には別の国の鉛汚染問題とそこに住む人たちなど、私たちが全く知らないストーリーがある。今回、まさにそうした状況に体当たりで挑んでいる研究者の方々に会い、今までは目をつぶっていた世界とのつながりに気づくことができた。これからも可能な限り現場に近い「人」に会い、そのストーリーを少しでも実感を持って伝えたい。


<取材協力・写真提供>

石塚真由美さん
北海道大学大学院 獣医学研究院 環境獣医科学分野 毒性学教室 教授

中田北斗さん
北海道大学大学院 獣医学研究院 環境獣医科学分野 毒性学教室 学術研究員 / KAMPAIプロジェクト在外研究員

カタバ・アンドリューさん
ザンビア大学 獣医学部 バイオメディカルサイエンス学科 講師 / 北海道大学大学院 獣医学研究院 環境獣医科学分野 毒性学教室博士課程学生

寺南智弘さん
国立研究開発法人 科学技術振興機構 国際部 SATREPSグループ 調査員


<ご案内>KAMPAIプロジェクトの研究者に直接会える!?第7回アフリカ開発会議(TICAD)開催

 今回の記事をご覧になって、「もっと知りたい!」と思った方へおすすめのイベントがあります。アフリカの開発をテーマとした国際会議、「アフリカ開発会議(TICAD)第7回会議」が横浜でこの夏開催されます!

 今回取材したKAMPAIプロジェクトの皆さまも発表者として参加されます。直接お話を聞くチャンスです!



Author
執筆: 綾塚 達郎(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
科学のおもしろさを教育に活かしたい、という思いで教育業界から科学コミュニケーターへ。なぜ、傘は水をはじくのだろう?この雑草の名前は何?整髪剤を自作できないか?日常的な疑問やアイデアをいつも大切にしています。一緒に世界を探求しましょう!