子育てが終わっても続く長い夫婦生活。夫婦でストレスを溜めて熟年離婚を選択するのではなく、婚姻関係は続けたまま、「卒婚」を選択する方法もあります。

◆子育てが終わり夫婦だけの生活に……もし夫婦でいることに疲れたら?
そばにいてくれるだけでときめいていたカップルも、結婚して年月を重ねていくうちに、お互いに対する思い、関係性は徐々に変化していきます。さらに子育ても加わるとお互いの役割は複層的になり、夫婦の関係は結婚当初より複雑なものになっていきます。

しかし、子どもが巣立ちの時を迎えるようになると、夫婦にはまた2人だけの時間が戻ってきます。その時に、夫婦は再び結婚当初のような気持ちに戻れるのでしょうか? 現実的には、元の気持ちには戻れないことの方が多いのでしょう。

だからといって、夫婦の関係を掘り起こすために共通の趣味を見つけたり、月1回の映画鑑賞を恒例行事にするなどして、無理やり距離を近づけなくてもよいように思います。

なぜなら、親密になりたいと思う気持ちは内発的に生じるものであり、努力でコントロールできるものではないからです。そもそも人は年齢を重ねれば、人間関係を含むあらゆる物事に対する見方が若い頃とは異なっていきます。

夫婦は、それぞれの活動領域で経験や学びを重ねていくため、価値観も徐々に変化していきます。そうした2人が、出会った頃や新婚当初と同じような愛情を持ち続けることは、そもそも困難であるように思います。

したがって、新婚時代のようなホットな関係に意図的に戻す必要もなく、その時期、その時期にフィットした夫婦のあり方にしていくとよいのではないかと思います。

◆夫婦を「こうあるべき」というストレスから解放する、「卒婚」という形
では、共同作業としての子育てが一段落し、夫婦2人だけの生活が再開した頃には、どのような関係になるのでしょう。たくさんの形がありますが、なかでも近年、注目されているのが「卒婚」という形です。卒婚とは、婚姻関係を保ちながら、夫婦それぞれが自分らしい生き方を実現する結婚生活のあり方です。

たとえば、一つ屋根の下で暮らす夫婦がそれぞれ自室を持ち、寝床を別にすること。夫婦の役目を固定させず、お互いが適度に働き適度に収入を得ること。その分家事の負担は最小限にし、従来の家事の概念にこだわらないこと。

たとえば、朝食は各々で済ませる。夕食を共にするのは週1~2回程度にし、普段は外食や総菜、冷凍食品で済ませる。家事は全自動機器やロボット、買い物は宅配をできる限り活用する。こういった工夫が、家事の軽減に役立ちます。

このようにして、夫婦それぞれが収入を得て、家庭における固定的な役割や義務から解放されると、婚姻関係を続けながらお互いに自分らしい生き方を実現しやすくなります。

◆離婚・卒婚のメリット・デメリット……早計に離婚する前に考るべきこと
「それなら離婚した方がよいのでは?」と思う方もいるかもしれません。もちろん、婚姻関係を解消した方が合理的だと感じられるなら、離婚して別々の人生を歩むという選択肢もあるでしょう。

一方で、婚姻関係を続けることのメリットは大きいものです。夫婦であれば、どちらかが病気やけがなどで働けなくなった時などにパートナーの扶養に入ることもできるため、安心して生活することができます。

また、夫婦で暮らせば生活費も少なく抑えられますし、経済的、防犯上のメリットも大きいものです。1人で考えるより、夫婦で知恵と力を出し合うことによって、生活上の課題も解決しやすくなります。

長い人生には、どのような落とし穴にはまってしまうか分かりません。そうした時に、最も身近な支えとなるのは、何といってもいちばん身近にいるパートナーです。

婚姻は、安全・安心な暮らしを守るためのいちばん身近なセーフティーネットです。パートナーとの生活が耐えられないほどの苦痛でないのなら、結婚を続けるメリットにもよく目を向け、早計に離婚を判断しない方が賢明です。

◆少し距離を置くことでお互いの魅力を発見しやすくなる夫婦の関係
この卒婚という選択によって、夫婦の関係が希薄なものになることを危惧される方が多いように思います。しかし、夫婦は「おしどり」のように一緒にいるから良好な関係を維持できる、とは必ずしもいえないのではないでしょうか。

夫婦だけでなく、人と人は一緒に過ごす時間が長くなると、「なぜこうしてくれないのだろう」「なぜこういうことをするのだろう」といった相手に対する細かな不満が増えていきます。

また、お互いが空気のように当たり前の存在になってしまうため、顔を合わせても新鮮味がなくなっていきます。

そもそも夫婦に限らず、人と人は少し距離をおいて関わった方が、お互いの良いところを発見しやすくなるものです。たまに夕食を共にするからこそ、いつもの食事は質素でも、その時くらいはおいしいものを一緒に食べたい、楽しい時間にしたいと願うものではないでしょうか。

また、夫婦がそれぞれに家庭外に自分の世界を持っていると、そこで得た体験や気づきが、たまの夕食時の格好の話題になります。

このようにお互いに異なる時間を生き、そこで得た体験を語り合っているうちに再び異性としての魅力を感じ、出会った頃のようなときめきが生じるかもしれません。

◆一度しかない人生、そして長い後半生……「卒婚」で夫婦が自分を生きる
人生100年時代が到来するといわれる現代、子育てを終えた後は、夫婦2人で過ごす時間がとても長くなります。この人生はたった一度しか体験できませんが、私たち現代人には長い後半生が用意されているのです。

固定された役割の枠組みにお互いの人生をはめてしまうと、夫婦の長い後半生が窮屈で退屈なものになり、不満ばかりが募ってしまうかもしれません。

夫婦が後半生を自分らしく、充実して生きていくためにも、「夫」や「妻」であることの義務や固定観念にしばられず、婚姻関係というセーフティーネットの安心を享受しながら、お互いにやりたいことを可能な範囲で追求し、応援し合っていくこと。

こうした「卒婚」の形が、これからの夫婦の後半生のライフスタイルの主流になっていくかもしれません。

文=大美賀 直子(公認心理師・産業カウンセラー)