こんにちは!科学コミュニケーターの森脇です。日本科学未来館では、来館者のみなさんが参加することで研究を進める実証実験イベント、オープンラボ「そのチョコレートはどんな味?~味覚の国際比較研究に参加しよう!」を開催しました。

未来館で行った実験は、チョコレートの味に与える音の影響を調べることが目的でした。しかし、味と音に関する研究は、他にも行われています。今回のブログでは、それらの研究を紹介するとともに、研究を進めることでどんなことに役立てることができるのか、来館者のみなさんから出たアイディアをご紹介します。読者のみなさんも、生活の中でこれらの研究を役立てるとしたら、どんなところで使えるか、想像しながら読んでみてください。20190805moriwaki_01.png

食のおいしさは、環境によって変化します。読者のみなさんの中でも、食べる場所によっておいしさが変わるように感じた経験をお持ちの方がいるのではないでしょうか?例えば、遠足で食べるおにぎり、外で飲むビールは格別ですよね?(注:森脇の主観です。...共感してくれると嬉しいのですが)。

外で飲むビールのおいしさは、ビール本来の味(味覚)に、環境を構成する海辺や森の緑などの風景(視覚)、潮風の香り、森の香り(嗅覚)、鳥の鳴き声や海の波音(聴覚)などのさまざまな情報が組み合わされて、成り立っています。したがって、食べ物を食べる環境を変えれば、食のおいしさを変化させることができるかもしれません。

そこで東京大学大学院鳴海拓志先生の研究グループは、「同じ天ぷらを食べるときに、プロジェクションマッピングで高級天ぷら屋の厨房を映しているときと、いないときで、天ぷらの味は変わるのか?」について調べることにしました(1)。

20190805moriwaki_02.jpg
(画像提供:東京大学大学院 鳴海拓志先生)

高級天ぷら屋の映像を映す以外にも、録音した天ぷらを揚げている「ジュワジュワ~」という音も流しました。本当に天ぷら鍋から音が出ているように聞こえているよう、スピーカーの位置にもこだわったそうです。

結果、何もしていないときと比較して、プロジェクションマッピングをしているときの方が、有意に天ぷらの味を濃く、おいしく感じることがわかりました。また、食べた天ぷらの温度は一緒だったはずなのに、温かさや香りも、プロジェクションマッピングをしている環境の方が、より温かく香り高いと評価されることがわかりました。

20190805moriwaki_03.jpg
(データ提供:東京大学大学院 鳴海拓志先生)

鳴海先生の研究の他にも、食べ物のイメージを強める音を聞くことで、味を変化させる研究は行われています。

ポテトチップスの味×音20190805moriwaki_04.jpg

パリパリっという高い音を聞きながらポテトチップスを食べると、湿気た状態のポテトチップスでも新鮮に感じる(2)。(こちらの研究は、2008年のイグノーベル賞も受賞しています。)

ベーコンエッグの味×音20190805moriwaki_05.jpg
ベーコンの焼ける音を聞きながらベーコンエッグを食べるとベーコンの味を強く感じ、鶏の鳴き声を聞きながら食べると卵の味を強く感じる(3)。

シーフードの味×音20190805moriwaki_06.jpg
波の音を聞きながらシーフードを食べるとシーフードの味を濃く感じる(4)。

食の"おいしさ"は、味覚で感じる味だけでなく、他の要素によっても構成されていることを、私たちは感覚的には知っています。ですが、鳴海先生をはじめとして多くの研究者がこれらの課題に取り組むことにより、私たちがおいしいと感じるときの五感の影響を科学的に理解することができるようになってきました。

20190805moriwaki_07.jpg


では、これら研究の成果は、生活のどんな場面で役立てることができるのでしょうか。また、どんな技術を作れば食事をより豊かにすることができるのでしょうか。来館者のみなさんのアイディアを紹介していきます。

■糖尿病・ダイエット中でも甘いものを楽しめる
「この曲を聞くと誰もがチョコレートを甘く感じる、という曲を見つけることができれば、糖分を控えなければならない糖尿病の人でも、チョコレートをおいしく食べられるかも」 (20代女性)
──おじいさまが糖尿病で食べたいものを満足に食べられない姿を見ていたので思いついたそうです。ダイエット中で甘いものを控えている方からも、甘さを強める曲は使えそうだという意見が出ました。

■おいしく楽しめる病院食
「塩味を増す音も調べてほしい。腎臓病の患者さんにも塩分を控えた病院食を楽しんでほしいから」(病院勤務の4人グループ)
──病院で看護師をされている女性4人組のみなさんは、自分たちの職場で役立てるとしたら...という視点で考えてくださいました。音を聞くときは、ヘッドフォンだと周りとコミュニケーションがとれなくなってしまうから、スピーカーで流した方が良い、でも同じ病室でも違う種類の制限食を与えていることもあるから、食事の時間だけ部屋を移動して、同じ音を聞かせる人をかためる?いや、それは大変だから指向性スピーカー使えばいいんじゃない?など、音の聞かせ方まで考えてくれていました。

■おいしい介護食
「天ぷらを細かく刻んでたべた時でもサクサクとした食感になるような音や技術を開発してほしい」(車いすのお客様と介助者の方)
──介護食のように細かく刻んで食べると本来の食事の味を十分に楽しめないそう。天ぷらも細かく刻むと、衣だけ、具だけになり、食感もベタベタしてしまう...。その経験を元にお話ししてくださいました。

このように、病院食や介護食、制限食などで生かすことができるのではないかと考える来館者の方が非常に多かったことが印象的でした。

他にも、

■子どもの好き嫌いをなくす
「子どもがピーマン嫌いだけれど、苦さを抑える曲があれば、食べさせることができるかもしれない」(30代女性)
「うちの子どもは食が細くて食べるのが遅いのだけれど、食欲を増すような曲があればいいのに...」(40代夫婦)

■日常の食事をもっとおいしくする
「家庭の味を、高級料理店と同じような味にすることができたら嬉しい」(母娘)
「シーフード好きだけれど生のシーフードは高いから、いつもスーパーで買うのをためらう。でも波の音を聞けば、冷凍のシーフードミックスが生の味に変わるかも」(20代カップル)

■レストランやテーマパークで流す音楽の選曲に生かす

などの意見がありました。

いかがでしたでしょうか。
みなさんはどんなアイディアが浮かびましたか?

個人的には、上にかいたアイディアは、どれも実現すればいいな...と思うものばかりでした。もし、読者のみなさんの中に、食品の研究や技術の開発をされている方がいれば、新たな研究テーマにいかがですか? ぜひ研究開発に取り組んでほしいと思っています。

【最後に】
本記事を執筆するにあたり、東京大学情報理工学系研究科 鳴海拓志先生には、大変お世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。20190805moriwaki_08.JPG

鳴海拓志先生 オープンラボ関連トークイベントにて


参考文献:
(1) 鳴海拓志ら, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.23, No.2, 2018 食卓へのプロジェクションマッピングによる食の知覚と認知の変容~天ぷらを例題として~
(2) M. Zampini, C. Spence. The Role of Auditory Cues in Modulating the Perceived Crispness and Staleness of Potato Chips. Journal of Sensory Studies, 19, 347-363. 2004.
(3) C. Spence. M.U Sankar. The influence of auditory cues on the perception of, and responses to, food and drink. Journal of Sensory Studies, 25, 406-430. 2010.
(4) C. Spence. Multisensory flavour perception. Current Biology, 23, 365-369. 2013



Author
執筆: 森脇 沙帆(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
子どもの頃から、食と健康に興味をもつ。「食の知識を深めたい!」と大学院へ進学するも、気がつけば食と関係のない基礎研究をしていた私。しかし、その研究で分かった情報が後々の私たちの生活を豊かにすると想像してわくわく。多くの人と最先端の研究・技術が活かされる未来を考え共有したいと思い、2017年より未来館へ。