フジロック現地レポ ヴィンス・ステイプルズが示した、日本でのヒップホップをめぐる環境の変化

昨日とは打って変わって天候に恵まれたフジロック最終日。ホワイトステージには、各国/各ジャンルの第一線を走るバンドとアーティストが並んだ。韓国のヒョゴ、日本のKOHHに続いて登場するのは、カリフォルニア州ロングビーチからやってきたUSヒップホップ界きっての異端児ラッパー、ヴィンス・ステイプルズだ。

始まる前には、すでに日本でのプロップスが確立されているヒョゴやKOHH、この後に登場するジェイムス・ブレイクと比べると、初めて日本でまともにライブを行うヴィンス・ステイプルズは少々苦戦するのではないかと予想していた。しかし、蓋を開けてみれば、それも杞憂に過ぎなかった。会場には後方までたくさんの人が集結。数年前までは、ヒップホップ系アクトは苦戦を強いられるのが当然のようだったフジロックだが、改めて日本でのヒップホップをめぐる環境の変化を実感する。

内臓にまで響くような低音が鳴る中、アメリカのアニメ、ドラマ、バラエティ、ニュースなど様々なTV番組のシーンをカットアップした映像が流れ、「Applause(拍手)」のメッセージに合わせてヴィンス・ステイプルズが登場。1曲目は最新アルバム『FM!』から「FUN!」だ。〈俺たちは楽しみたいだけ〉と連呼されるこの曲は、ライブの幕開けにはぴったりだが、彼自身はいたって平常で飄々とラップしているように見える。



DJ卓は客席からは見えにくい舞台袖に設置されているため、ステージ上でパフォーマンスするのは終始ヴィンス・ステイプルズ本人のみ。後方スクリーンにはずっと8つのブラウン管テレビが映り、それぞれにヴィンス自身が出演するフェイク番組が流れるのだが、”垂れ流し”のような状態で目を引く出来事が起こるわけではない。エモーショナル過ぎる演出や脚色の一切ないステージングも、USヒップホップ界きっての異端児であるヴィンス・ステイプルズらしさの表れだろう。


彼が生まれ育った街・カリフォルニア州ロングビーチを想起させる波の音とカモメの鳴く声がうっすらと聴こえる中で自己紹介を終えると、次に始まったのは2ndアルバム『Big Fish Theory』から「Big Fish」。ここからしばらく『Big Fish Theory』収録曲がメインとなり、尖鋭的なビートでオーディエンスを激しく揺らしていく。

「今何時かな?」と問いかけて始まった「745」。昨日と違い雨は降らなかったが、代わりに音の粒が降り注ぐようだった「Rain Come Down」。「Party People」や「Yeah Right」ではシングアロングも巻き起こった。セットが終盤に差し掛かると、会場前方にモッシュピットが出来る時間も。ヴィンス自身もその周辺に向けて〈Bigger, Bigger(もっと大きく)〉と呼びかけ、曲のブレイクに合わせて何度もモッシュが巻き起こっていた。



ラストに披露されたのは、『Summertime 06』から「Norf Norf」。この曲はヴィンス・ステイプルズがブレイクする契機となった重要な楽曲で、彼のライブでは定番の締め曲。「みんなに歌って欲しい」と話して始めたものの、日本では思ったような合唱は起こらず、少し不服そうな表情を覗かせる場面もあった。

最後が綺麗に締まらなかったのは少し残念だったものの、全体的には想像をはるかに超える盛り上がりを見せたヴィンス・ステイプルズの初来日ライブ。その出音の一つひとつ、彼の一挙手一投足、吐き出されるラップの数々から、彼が作り出すヒップホップの異質さが伝わったのではないだろうか。ウエストコースト出身なのに「Fuck, Gangsta Rap」と言い放ち、非ヒップホップ出自のトラックメイカーと手を組んでアルバムを作り上げるなど、USヒップホップ・シーンに一石を投じ続けるアウトサイダー、ヴィンス・ステイプルズの異端児たる所以を垣間見た一夜だった。