ニューヨーク市警エリート部署「殺人課」に密着(写真ギャラリー)

写真家のテオ・ウェナーがNY市警のエリート部署に密着。フォトエッセイでその内幕に迫る。

2018年大晦日の深夜未明。ブルックリンのイーストニューヨーク。ルイス・H・ピンクハウスのクリスマスの電飾で飾られた狭い廊下で、29歳のタイリーク・ホワイトさんが殺された。

結果的にこれが2019年最初の殺人事件の被害者となった。そしてこれにより、ニューヨーク市警察ブルックリン北司令部管轄の10ある分署のひとつ、第75分署の殺人事件ゼロ記録は4カ月でストップした。1993年に記録を取り始めて以来、殺人事件発生数ゼロの期間は最長記録だった。だが、ホワイトさんの事件から数カ月後、ブルックリン北では殺人事件が異様なほど多発するようになった。4月上旬までに21人が死亡。昨年の同じ時期の約2倍だ。

間違いなくニューヨークは前より安全になった。2018年は、70年ぶりに殺人事件数最小記録を更新した。だが、過激な暴力事件のしこりは残っている。今も殺人事件の大半はギャング絡みとみられているが、しばしば区画や団地ごとに様々な一派が存在し、縮小しつつあるスラム街の権力争いを繰り広げている。小競り合いは街の中はもちろん、ソーシャルメディア上でも勃発するようになった。

ブルックリン北司令部はローリングストーン誌に殺人課の密着取材を許可してくれた。事件が盛りだくさんの数カ月間、我々は彼らの動向を追い、犯罪現場や事件捜査の過程を追った。地元コミュニティとニューヨーク市警との間の緊張は高まっている。マイノリティの居住地で警察による暴力が相次いでいるのだから、無理もない。だが、暴力を体験した人々の信頼を勝ち取る点にかけて、殺人課の刑事の能力はお見事だ。「あらゆる最新技術を駆使すれば――法医学や科学捜査、コンピュータなど――事件捜査はずっとラクになると思います」と言うのはトーマス・ハンドリー刑事。勤続27年のベテランだ。「ですが、尋問や聞き込みというのも立派なツールなんです――道端で遊ぶ子供とかね――時間はかかりますが……この手の捜査は信頼がすべてです」

テクノロジーによって仕事のやり方も変わった――今までなら何時間も足で稼いで得た情報も、いまなら瞬時に手に入る――だが、他の点は昔と変わらない。それは全力投球の姿勢だ。刑事たちは時に、分署のロッカールームの簡易ベッドで一夜を過ごす。事件が解決しても、気分は晴れない。「死を覚悟しなきゃいけない仕事です」とハンドリー刑事。「自分がピンピンしてるってことは、誰かが命を落としたおかげ。勝ち誇る気分になれますか?」


・ハードボイルド
「これは仕事ではなく、天職だと強く信じています」というのは、ニューヨーク市警察ブルックリン北司令部殺人課のトーマス・ハンドリー刑事。ブルックリン北司令部は、イーストニューヨークからベッドフォード・スタイベサント、ブッシュウィックをカバーする。彼らの厚意で、ローリングストーン誌は殺人課の刑事を密着取材。犯罪現場や事件捜査の過程を追いかけた。


・分署
「オフィスでは誰も歓迎されません。意地悪しているわけじゃありませんよ。20年前からずっとそうなんです」。サミュエル・ヘレーラ警部補は殺人課第90分署の指令室についてこう語った。書類棚の上のTVでは、いつもFoxニュースが流れている。データ化された膨大なファイルと、山のような監視カメラの映像があれば、大方の捜査は机ひとつで事足りそうなものだ。だが、警察の仕事は今も全力投球だ。「すぐにどんな情報にでもアクセスできます。だからいつも、何かしら昔の事件を調べているんです」とハンドリー刑事。「執着というか、ライフワークみたいな感じですね」


・カウント表
「これが75分署さ。話だけはたんとあるぜ」。かつては最も物騒だと言われたエリア、イーストニューヨーク第75分署の刑事が言った。絶頂時の1993年には、75分署だけで126件の殺人事件が発生した。昨年は7件だった。(写真内の画像/75分署の最後の殺人事件から・・・日)


・現場
2月のとある雨の夜、4人はベッドフォード・スタイベサントの集合住宅の玄関で雨宿りをしていた。そこへパーカー姿の1人の男が駆けつけ、9ミリ銃を発砲し始めた。4人は全員銃で撃たれ、3人は命を取り留めたが、20歳のジョヴァンニ・ルイスさんがロビーの奥で死んでいた。「現時点で一番有力な手掛かりはビデオです」と、殺人課を率いるヘレーラ警部補。いまでは刑事の携帯電話には、街中のセキュリティカメラやナンバープレート読み取り装置からの何千ものデータを網羅するアプリが搭載されている。今回の事件では、現場近くで容疑者と思われる人物の映像を発見したが、いまだ逮捕には至っていない。


・待機
ジョヴァンニ・ルイスさんが殺された集合住宅の外で、検視班を待つブルックリン北殺人課のダニー・ブレナン巡査部長。「運悪く、マズい場所に居合わせてしまったんでしょう」と、ヘレーラ警部補。「それもよりによって、ブルックリンで起きるとは」


・デジタルの証拠
イーストニューヨークの公営住宅で起きた銃撃戦で、2人の男性が負傷。最初に駆け付けた警官は、証拠品のゴム手袋と血の付いたティッシュ、ナイキ・ジョーダンを残していた。「犯人を逮捕するためには、まず最初に(やることは)」とヘレーラ警部補。「被害者を知らなくてはなりません」。昔は容疑者の特性を知るにも捜査や監視で何か月もかかったものだが、今ではFacebookのプロフィールをちょいとスクロールすれば半日で終わる。


・管理職
「犯罪現場で仕事しているときに、警部が制服姿で現れて話しかける、なんてことはありません」とヘレーラ警部補。彼は14人の刑事を束ね、ときには彼らとともに現場にも立ち会い、現場のトラブルに対応する。「私の仕事は、現場に行って事件を解決することじゃない。チームが安心して事件解決に取り組めるようにすることなんです」。ヘレーラ警部補は几帳面な性格で、「エミリー」と名付けられた彼のノートには2007年以降のブルックリン・ギャングの記録が逐一残されている。「2年前、変化がありました。それまで敵対していたギャングが、結託したんです。今では2つの大きな組織が牛耳っていて、片方はウー、もう片方はチョーと呼ばれています。なんでそんな名前なのかって? 私に聞かないでください」


・惨殺事件
検視班の到着を待つ、アレックス・グランドスタッフ刑事とマイク・ヒメネス刑事。20歳のサヴァンナ・リヴェラさんが、友人アンジェラ・ヴァレさんのブッシュウィック・ハウスのアパートで斧でめった刺しにされた。21歳のヴァレさんも重傷を負ったが、一命は取り留めた。


・犯罪現場
襲撃後のアンジェラ・ヴァレさんのアパート内部。喉をパックリ引き裂かれ、建物の外で血を流しているヴァレさんをUberのドライバーが発見し、そのまま病院へ連れて行った。「一生忘れられない類の事件だよ」と、巡査部長の一人が言った。


・尋問
「刑事としての力量は、箱の中に入ってから」とハンドリー刑事。箱とはつまり尋問室のことだ。先陣を切ってジョセフ・ティロットソン刑事が斧殺人の容疑者を取り調べる中、数名の刑事が狭い部屋に座って、小さなモニターの回線映像を見つめる。答えがわからない質問はするな、というのが鉄則だ。まずは共通点を見つけ出し、そこから証拠を一気に並べて切り込んだら、あとは視線を逸らさずじっと待つ。「まさに芝居さ」と、最近引退したばかりのアル・バスト元刑事は言う。4日後、容疑者は正式に殺人罪で起訴された。


・目撃者探し
公共住宅の場合、廊下にセキュリティカメラがついていることはほとんどない。なのでベッドスタイ(ベッドフォード=スタイベサント)の殺人事件の後、ハンドリー刑事とマット・ラメンドーラ刑事はすべての家のドアをノックして回った――掛け声は毎回同じ「警察だ」――目撃者が見つかると望みをかけて。住民のほとんどはニューヨーク市警だと話したがらない。「みんな怖がっているか、タレコミ屋のレッテルを張られたくないんですよ」とハンドリー刑事。「安全だと思ったら電話をかけてくるし、どこかで落ち合う手筈を整えてきます。みんな心の底では手助けしたいと思ってるんです」


・コミュニティ
マイク・ナルシン刑事が公開捜査の聞き込みで名刺を配る。捜査対象の事件の中には、昨年の春ブッシュウィックで2人が殺された事件もある。62歳のアナ・デル・ヴァリさんは両手を縛られた状態で頭を何度も銃で撃たれ、隣人のベイジル・グレイさんも腹部を撃たれた。あれ以来、アナさんの娘ミレヤさんは兄弟とともに、ハンドリー刑事とほぼ毎日のように連絡を取り合っている。「どんな未解決事件も、つねに頭の片隅にあります」とハンドリー刑事。「捜査を止めろと言われても無理でしょうね」


・ちょっと一息
午前2時ごろ、チャイナタウンのバーでのヒメネス刑事とグランドスタッフ刑事。「1日中野郎どもと一緒ですから」とハンドリー刑事。「『ちょっと軽くつまみに外に行こうぜ』ってなるんです。必要以上にそうしている場合もあるでしょう。気を抜く時間も必要ですから」


・ファミリーのように
食事のときはほぼ必ず誰かと一緒に食べる。テイクアウトだろうと、ダウンタウン・ブルックリンのパークプラザ・ダイナーのような行きつけの店であろうと。「仲間のことを知るのも大事なことです」とハンドリー刑事。「お互い親友になるぐらい、ずっと一緒にいるわけですから」


・夜の街
ベッドスタイの屋上で凶器を探すラメンドーラ刑事、ハンドリー刑事、ナルシン刑事。ハンドリー刑事が、警察から支給されたiPhoneをチラチラ見る。どこかで暴行や銃撃、殺傷事件があるたびに通知が送られてくるのだ。「街で生まれ育った人間は、なんでも分かったつもりでいるけれど」と刑事。「警官をしていると、実は何も知らなかったってことに気づかされます」