民放の連続ドラマの初回と言えば「15分拡大」「30分拡大」と、放送時間を延長してスタートを切るのが通例になっているが、日本テレビは今年の4月期、プライム帯連ドラ3本の初回を通常の放送枠で編成した。次の7月期の作品も拡大せず、通常枠で初回放送を迎える。

この狙いを、6月に編成部長に就任した田中宏史氏に聞くと、そこには、視聴者の生活サイクルとそれぞれのドラマの特性を重視する考え方があった――。

  • 『偽装不倫』主演の杏(左)と『ボイス 110緊急指令室』主演の唐沢寿明

    『偽装不倫』主演の杏(左)と『ボイス 110緊急指令室』主演の唐沢寿明

■基本姿勢に立ち返った

4月期に放送された民放21・22時台の連ドラ初回の放送時間を見ると、日テレ以外では9作品中7作品が拡大編成。通常編成したのは、スタート時のレギュラー枠が67分だった『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)と、『スパイラル~町工場の奇跡~』(テレビ東京系)のみだ。

連ドラ初回を拡大放送する理由としては、一般的に、スペシャル感を出してスタートダッシュを狙うことのほか、“正時”をまたいで視聴率を少しでも稼ぐ、21時台のドラマが裏の22時台ドラマに打撃を与える、注目を集める第1話の放送時間を少しでも延ばして全話平均視聴率の上昇につなげる、といった視聴率面での編成戦略。さらに、ストーリーの構成上、設定や登場人物を紹介するに時間尺が必要なケースもある。

そんな中、日テレは4月期の『白衣の戦士!』『俺のスカート、どこ行った?』『あなたの番です』(2クール放送)を通常編成でスタート。次の7月期に放送する『偽装不倫』『ボイス 110緊急指令室』も同様の編成にした。

日本テレビ田中宏史編成部長

これについて、田中氏は「拡大放送をやめたわけじゃないです」と前提を説明。その上で、「初回を拡大放送するのは通例化していますけど、やっぱり基本はレギュラー編成なんです。スポンサーさんはあくまで22時台のこのドラマに番組を提供してくださっているので、そこを大事にしていくということ。一方で、視聴者の皆さんの生活サイクルがある中で、イレギュラーなことをするという考えを先に立てず、まずはレギュラーでものを考えるということで考えているのです」と話し、この4・7月期は、その基本姿勢に立ち返ったのだという。

拡大放送をするかは、現場のプロデューサーと企画内容、撮影の進行状況を含めて協議してその都度判断していくため、「今後も初回を拡大したほうが良い作品もあるでしょうし、ひょっとしたら内容と状況によって途中の回でやるかもしれないですし、それこそ最終回にやるかもしれないです」と、作品やストーリー展開によって、柔軟に編成していく考え。

例えば、15年4月期に新設した「日曜ドラマ」枠(毎週日曜22:30~23:25)では、これまで17作品が放送され、初回で拡大放送しなかったのは6作品もある。その中で、今年1月期に大ヒットした『3年A組―今から皆さんは、人質です―』は、生徒役をはじめ登場人物が多く、前述のとおり役柄を紹介するために30分拡大スタートした代表的なケースと言える。

■25年ぶり2クールドラマ…大胆なチャレンジを

7月期の新ドラマ『偽装不倫』(10日スタート、毎週水曜22:00~)は、32歳独身、彼氏なしのおひとり様女子・濱鐘子(杏)が、一人旅に出かけた飛行機の中で年下のイケメン・伴野丈(宮沢氷魚)と出会い、“既婚者”とウソをついたことから始まる純愛ラブストーリー。田中氏は「通常の恋愛ドラマでもラブコメでもない新しいジャンルで、ドラマとしての深さがある作品です。毎週リアルタイムで見る、という習慣になってもらえるドラマだと思います」と太鼓判を押す。

『ボイス 110緊急指令室』(13日スタート、毎週土曜22:00~)は、妻を殺された敏腕刑事・樋口彰吾(唐沢寿明)と、父を殺された声紋分析官・橘ひかり(真木よう子)が、声を手掛かりに事件を解決していくもの。「ここまでスピーディーなサスペンスは、土曜日では初めての試みになると思います。毎回次の回がどうなっていくのか?水曜・日曜とも違うタイプのドラマを並べることができたと思います」と胸を張った。

  • 『あなたの番です-反撃編-』 (C)NTV

そして、2クール目に突入した『あなたの番です-反撃編-』(毎週日曜22:30~)。「1クール目を超えるサプライズがあるので、さらにアクセル全開になっていきます。中毒性を生む作品にチャレンジしていく枠なので、日曜ドラマでしかできないエッジの効いた作品として、ここからが本番だと思っています」と期待を語る。

同局としては25年ぶりの2クールドラマである『あな番』だが、田中氏は「やっぱり、ドラマは何話で区切るかという判断が難しいんです。その中で、『あな番』は長く見ていただける作品だと思って2クールという試みにチャレンジして話題になっております。今後、成果や課題も見えてくると思いますが、大胆なチャレンジというのは続けていかなければならないと思います」という意向。

さらに、「テレビは多くの人に見てもらいたいですし、また若い人たちにも夢中で見て頂きたいと思っています。その点で『3年A組』は、次の日に学校で話題になるような非常に理想的な形ができたので、今後も新しいチャレンジをしていきたいと思っています」と意欲を示している。

●田中宏史
1974年生まれ、愛知県出身。早稲田大学卒業後、98年日本テレビ放送網に入社し、『嵐にしやがれ』『行列のできる法律相談所』『月曜から夜ふかし』『人生が変わる1分間の深イイ話』『しゃべくり007』『有吉反省会』などのバラエティ番組の制作を担当。16年に編成局編成部担当部長に異動し、19年6月1日付で編成部長に就任。