サイエントロジーの脱会者「第2世代」に密着 カルト集団で生まれ育った苦悩を語る

米国の新興宗教団体「サインエントロジー」の信者として生まれ育った者が脱会すると、ひとつの大きな問題に直面する 「他の人々は、以前のアイデンティティに戻ることができますが、私たちは、何もないところからアイデンティティを見つけようとしているのです」と元信者の1人は語る。

脱会した人たちのことをサイエントロジー教会の信者は専門用語でこう呼ぶ。「banky(=はみ出し者)」「downtone(悪いオーラを発している)」「chargey(負のエネルギーが充満している)」「TRを取り込もうとしない(頑なに受け入れない)」。

だが、脱会者たちは自分たちのことをこうした言葉で呼ぶことはない。彼らは自分たちを「サイエントロジーの子供たち」と呼ぶ。心理学者は彼らを第2世代(Second Generation Adult=SGA)と位置付けている。

クリスティ・ゴードン氏もSGAの1人だ。サイエントロジー教会にどっぷり浸って育った後、最終的に脱会した。SGAは、大人になってから入信し、脱会した「第1世代」の人々とは違う。「第1世代の多くは、自らの選択で家族の下を去ります」とゴードン氏が説明する。「でも私たちの世代は、最初から自由を奪われてしまった。サイエントロジーが両親の心、理性、時間をハイジャックして、私たちの子供時代を乗っ取ったんです」

ゴードン氏は、子供らしいふるまいは何ひとつ教わってこなかった。その代わり、身の回りのことは自分でこなし、それに伴う恐怖や悲しみ、孤独を抑え、サイエントロジー信者が呼ぶところの「身体は小さいが一人前の大人」になるよう求められた。彼女はこうした経験を、他人から天井があると教えられ、頭をぶつけないようずっと身をかがめて生きるような感じ、とたとえた。天井がないのだとわかった時には、背中の曲がった大人になってしまっているのだと。ゴードン氏の考えでは、サイエントロジーを脱会した人々は単に住む場所が欲しいわけではない。そういうケースが多いのも事実だが、人々が求めているのはサポートグループだ。リアルな感情や経験を、言葉で表現できる場所。

サイエントロジーの脱会者が増えるにつれ、ゴードン氏のように声をあげる者も増えている。彼らは教会をカルトと呼び、教会が自己改善を約束するかわりに信者を支配し、虐待していると主張する。教会の中でもとくに熱心な信者からなるエリート集団、シー・オーグが裏で強制労働や監視を行っていると非難し、親には子供が信仰に背いたら縁を切るよう求め、家族を引き裂いているとして教会を批判している。こうした批判がどんどん増えていく一方、教会は一貫して主張を曲げず、自分たちは強制労働や家族分断には関与していないと否定し続けてきた。

教会の教義や修行は、信者が「感情を自由に堪能し、人生をフルに謳歌できるよう」手を差し伸べているのだと主張し、脱会した第2世代のことを、教会に逆恨みする人々が集まった「反宗教的なヘイトグループ」と呼んだ。ローリングストーン誌に対しても、こうしたグループの主張を誌面に掲載して「反サイエントロジーのプロパガンダに迎合している」と非難している。だがゴードン氏にとって、サイエントロジーの子供たちは憎しみや逆恨みがすべてではない。ずっと身をかがめて生きてきた後でも、ねじれを戻してまっすぐ立つことができるのだと、人々に、そして自分自身にも証明しようとしているのだ。


教会の中では悲しみや不安といった感情が敬遠され、代わりに熱意や心の平穏が尊ばれた

ゴードン氏は9歳のときに母親からカデット・オーグに置き去りにされた。本人の言葉を借りれば、カデット・オーグは教会が運営する「ブートキャンプ」で、そこで彼女は1人の大人と数十人の「見放され、置き去りにされた」サイエントロジーの子供たちと暮らしたそうだ。託児所では乳飲み子の世話に明け暮れ、むさくるしい住環境で蔓延した寄生虫にかからないよう、気を配った。

教会側はゴードン氏がカデット・オーグにいた事実を認めたものの、ブートキャンプだという意見には異を唱えた。彼らが言うには、カデット・オーグは「英才教育とサイエントロジーの宗教指導を提供する施設」だという。ゴードン氏が暮らしていたのは元ホテルを改築した建物で、定期的に地元衛生局の検査を受けていたと主張している。

ゴードン氏は物心ついたころ、教会が自分には合わないと判断した。教会の「エシックス体系」の一貫として、罪のコンフェッションを書くよう命じられた後、彼女はフロリダ州クリアウォーターにあるコモドアーズ・メッセンジャー・オーグから脱走した。それが彼女にとって最後の望みの綱だった(教会側は、ゴードン氏はクリアウォーターでエシックス体系を強制されていないと反論し、彼女の話は捏造だとしている)。

ゴードン氏はサイエントロジーを脱会した後の何年かは、ほとんど何も感じることができなかった。教会の中では悲しみや不安といった感情が敬遠され、代わりに熱意や心の平穏が尊ばれた。だからゴードン氏も生き延びるために、自分の感情を抑え込んでいた。

彼女のような体験は元信者に共通する話だ。これは感情のトーンスケールとして教義に組み込まれているのだそうだ。感情のトーンスケールとは、サイエントロジーの創設者L・ロン・ハバード氏が各個人の生命エネルギー「シータ」を計測するために考案したものだ。現行のスケールは-40(完全なる脱落)から40(存在性の平穏)まで、悲嘆、不安、快活、熱狂などそれぞれの感情がランク付けされている。ランクの低い感情は単に敬遠されるだけではない。それらは悪いシータの前兆であるため、精神的に進歩を遂げるには良いシータに変換しなくてはならない。

話を聞いた信者によると、トーンスケールは教会が負とみなす感情を罰する基準にもなっていて、教会の使命も「悪い」感情を抑制することとほぼ同義となった。第2世代の信者の説明によれば、こうした悪い感情に対処する解決法は、感情を表に出したり認めたりすることではなく、トレーニング・ルーティーン(TR)と呼ばれる一連のコミュニケーション訓練を受けることだという。教会に批判的な人々は、そうした訓練の一部は信者を催眠状態にするのが目的だと言う。そうやってTRの効果をとどめておく、つまり受け入れさせるのだと。その結果どうなるか? 子供世代は無感情なまま成長し、ものを感じることも、基本的な感情を認識することさえもできなくなる。

教会側は、自分たちが負の感情を排除しているという意見を否定し、教義と修行はすべて信者が感情を理解して「精神的に能力を開花させ、意識を高める」ためだと主張している。


脱会者たちのグループ「サイエントロジーの子供たち」

現在52歳のゴードン氏がサイエントロジーを後にしたのは31年前。だが、感情を認識するのには何十年もかかった。周りからはキツいとか、近寄りがたいとか、上から目線だの冷淡だのと言われた。暴力をふるう男と付き合った際は、殴られたときのリアクションを学ばなくてはならなかった。

彼女にとっては普通の反応――何もしないこと――が、相手を余計怒らせたからだ。だが最終的に、彼女にも感情が少しずつ戻ってきた。ホールマーク(グリーティングカードの会社)のCMを見て涙を流し、映画の最中で泣きだしては、いたたまれなくなって映画館を飛び出した。まるで敵に周りを囲まれ、本当の自分をさらけ出すのを恐れているような気分だった。何とかしたいと思ったが、自分が何者なのか分からなかった。どこまでがサイエントロジーで、どこからが本当の自分なのだろう?


現在のクリスティ・ゴードン氏。2019年5月、カリフォルニア州にて(Photo by Justin Kaneps for Rolling Stone)

結局彼女は、一人ではどうにもならないことに気がついた。とはいえ、誰が相手でもいいわけでもなかった。彼女は数年かけて第2世代の元信者らと連絡を取り、大胆なアイデアをもちかけた。みんなで集まるのだ。彼女はグループを「サイエントロジーの子供たち」と名付けた。彼女が思い描いたのは、SGAたちが集まって助け合う「避難所」だ。安全な環境でものを感じ、考え、生き抜く術を学ぶことができる疑似ファミリーを作ろうと考えたのだ。

ニューヨーク・ブルックリンの避難所は、ゴードン氏が第2世代の集会用に用意した4番目の会場で、もっとも広い。この日の集会には15人が事前に出席を表明していて、それぞれの体験談を共有し、グループの今後を話し合うことになっていた。もっと多くの人と共有したいという思いから、「サイエントロジーの子供たち」WEBサイト制作にも取り組んでいる。第2世代が経験談を書き込んだり、同じような経験をした他の元信者と交流できるようにするためだ。

取材当日、この日参加者は、当日まで誰が来るのかまったく知らなかったという。お昼ごろ取材に訪れると、まだ全員集まっていなかった。「1時間後に来てもらえます?」と、主催メンバーの一人トリスタン・シルヴァーマン氏が携帯メールを送ってきた。「みなさん、夕べ夜更かししたみたいね」。だが本当は、参加者の大半がサイエントロジーの元エリート信者たち、シー・オーグの面々だったので、いつ、どこで、何をしろという他人の指示は意に介さないのだ。ゴードン氏とシルヴァーマン氏も、あまりガタガタ言わない。1時間後に戻った時には、参加者はシャルドネを飲んだり、外で無心にタバコを吸ったりしていた。「厳密に言うと、禁煙したの」と、ある女性が言った。ここでは仮にスーザンとしよう。この日司会を務める彼女は、いまも教会内部にいる家族のためにも本名は伏せてほしいと言った。「でも、せっかくの週末だもの、ね?」

部屋の片隅に、「思考は弾丸を跳ね返す」と書かれたシャツを着た中年の男性が、別の中年男性とYouTubeのカルトチャンネルについて大声でしゃべっている。キッチンで、オレンジ色の巻き毛と栗色のスーツを着た男性を紹介された。ハバート氏のひ孫にあたるジェイミー・ドゥウルフ氏だ。彼自身はサイエントロジーの子供ではなく、人生の大半を映画製作や執筆、ポエトリーリーディングに費やしている。だが、サイエントロジーが自分の家族に落とした影と、他の家族に及ぼした害はよくわかっていた。「なんとしても、僕の代でサイエントロジーを終わらせたいと思っているんです」と彼は言う。レザーのホルスターをして、髪を短く刈り込んでいるシルヴァーマン氏が隅のほうで、手あたり次第にワインを豪快に注ぎまくっている。「今日は飲まなきゃ」と誰に対するでもなく彼女は言い、自分も何杯かあおった。

ようやくスーザンが、無理強いしないように注意しながら集合をかけた。彼女が話し始めると、1人の男性がドアのほうへ移動し始めた。「実は、途中退場させてもらおうかと思って」。この後の集会のことだ。「体験を共有するってやつはどうも苦手なんだ」。スーザンがうなずくと、男性はドアから出て行った。結局のところ、彼女も分かっている。ここには共有するのが得意な人など誰もいない。だがそれでも、なんとかしたいという思いでやってきたのだ。場を和ませようと彼女が言う。「さあ、順番に自己紹介しましょう」という一言で会がスタートした。


ドラッグに手を染めて中毒になった者も

最初の数人がおざなりの自己紹介をした後、1人が流れを変えた。30代の丸刈りの男性は、妻の両親がサイエントロジーの信者で、孫に会おうとしないのだと言った。数カ月おきに、彼は孫の写真を義理の両親の郵便受けにこっそり入れているが、返事は一度もない。隣にいた金髪の女性がうなずく。彼女の家族はサイエントロジーに勧誘され、幼い時にロシアから渡米した。11歳から独りで暮らし、数年前に脱会した。今は幸せな結婚生活を送ってはいるものの、決して楽ではなかったという。死産を経験した後、現在は自閉症の子供を育てている。「他のママたちからいつも、すごくテキパキしてるわねと言われるんです。でも、私はただ機械的に処理しているだけ。”正しいことをしたい”だけなんです」と、悪い状況の対処法としてサイエントロジーが使う表現を使った。「哀しいと感じたことすらありません」。セラピストの助けを借りて努力しているが、なかなかうまくいかない。「第2世代は、後から入信した人よりもずっと大変なんです」と彼女は言う。「後から来た人たちは、以前のアイデンティティに戻ることができる。私たちは、何もないところからアイデンティティを見つけようとしているんですもの」

カルト集団の専門家でセラピストでもあるシンディ・マシューズ博士は、カルト集団(心理学者たちは「要求の高い集団」と呼ぶ)の第2世代はしばしばこうした問題に直面すると言う。大人になってから入信して脱会した人々は、過去の自分とつながることができる分だけ恵まれている、と博士は言う。「彼らにとっては、過去と再びつながって、再確認し、やり直すだけ。でもSGAはそうはいかない。彼らのアイデンティティはカルト集団なのですから」

避難所では自己紹介が続いていた。ドゥウルフ氏は他の参加者に一族の行いを謝罪した。「僕の家族は、他の家族の皆さんに本当に申し訳ないことをしました」と言い、自分の映像編集のスキルを活かして、サイエントロジーの子供たちのWEBサイトでの情報共有に協力する、と宣言した。別の女性は本の一説を読み上げ、幼少時代のつらい経験が心臓発作や免疫不全、早死を引き起こす可能性があると述べた。「思想は弾丸を跳ね返す」のTシャツの彼はクリス・シェルトンと名乗り、YouTubeのチャンネルを運営していると言った。元シー・オーグのメンバーで、現在はサイエントロジーをはじめとするカルト集団の主張を検証するのがライフワークになっている。

ブルックリン生まれのデヴィッド・アンソニー氏は記念品をいくつか持参していた。シー・オーグの客船アポロ号をバックに、母親と浜辺を歩いている白黒写真。タイプされた手紙はサイエントロジー創設者のL・ロン・ハバード本人から届いたもので、11歳のアンソニーに何やら重要任務を手伝ってほしいと書かれていた。「みなさんとは初対面ですが」と彼は集団に向かって言った。「皆さんが経験してきたことはよくわかります。みなさんも僕の経験がお分かりでしょう。つまり僕らは知り合いなんです。この会は素晴らしいですよ、だって僕らみたいな人間は世の中にそういないじゃないですか」。彼は泣き出し、ゴードン氏が抱き寄せる。「ほら、僕らも感情を持てるようになった」とアンソニー氏。「感情って本当に重要なんです。時間はかかったけど」

続いてはネイサン・リッチ氏の番。真面目で、物静かで、ひょろっとした彼は、この1時間ずっとうつむいていた。ようやく口を開くと、最初にメイス・キングスレー・ランチ(いまはもう存在していないが、2人の著名なサイエントロジー信者が運営していた子供を対象にした教会関連団体)に送られたときのことを語った。彼は更生キャンプと呼んだが、当時彼は8歳で、言うことを聞かないと板で叩かれたという。

施設では薬物の使用は禁じられていたが、彼はあそこで薬物に手を染めたと言っている。一度更生しようと試みたことはある。サイエントロジーの仕事をして、サイエントロジーの恋人を作って、空いた時間にサイエントロジーの学校に通った。だが結局脱走して、路上生活を送った後、ドラックを売りながら自分も中毒になった。脱走して間もない頃、一度母親に電話して許しを請うた。母親は彼に教会の再入信用の電話番号を伝えると、もう2度と電話してくるなと言った。何年も薬物中毒とホームレス生活を続けた後、ようやく素面になって、路上生活からも抜け出せた。サイエントロジーを離れて20年近くが経ったが、同じ境遇の人と親しく話をするのは10年ぶりだという。


脱会者の一人、トリスタン・シルヴァーマン氏。2019年5月、カリフォルニア州にて(Photo by Justin Kaneps for Rolling Stone)



要求の高いグループの多くには、感情の抑制に関して特殊な用語があるという

リッチ氏は現在中国に住んでいる。つまり、はるばる地球を半周してやってきたわけだ。部屋にいる他の参加者同様、彼もまた、自分を理解してくれる人々に囲まれてサイエントロジーでの経験を共有する場を求めているのだ。生まれて以来ずっと感情を抑えてきた後、感情を抱くのがどれだけ大変か、身をもって体験している。大人になってから初めて泣いた時のことを語り始めた。あれは深夜、映画『素晴らしき哉、人生!』を見ていた時のことだ。「もう泣くことはできないと思っていました」と本人。だがこれで、未来に希望が見えた。

スーザンが、リッチ氏の話に大きくうなずく。「あなた、LSDを売ってたでしょ?」と彼女が言う。「たぶん、私あなたからドラッグを買ったわ」。彼女は何年もMDMAを常用していた。薬をやっている時が、唯一他人とのつながりを感じられた瞬間だった。最終的にセラピーに通うようになると、最初の数日間は泣きどおしだった。その後数年間は、感情とは何なのか悩んでばかりだった。「クイズみたいだったわ」と彼女は言う。「この感情は何でしょう? 怒りでしょうか?」

ひと通り話が済んだ。サイエントロジーについて語れば語るほど、言葉遣いもサイエントロジー語録になっていく。略語や、仲間内での精神世界のフレーズが言葉の端々に現れる。どんなにサイエントロジーを忌み嫌っていても、教会の専門用語が彼らの母国語なのだ。単語を言い換えたり、とんちんかんなことを口走っていないか心配したりせずに会話できると安堵している者もいた。

宗教体系にとって言語が重要で、切っても切り離せないのには理由がある。精神科医で思考改造の専門家ロバート・ジェイ・リフトン氏によると、新たな語彙を与えることはカルト集団の常套手段で、多くの場合、要でもあるという。彼はこうした行為を「言語のアップロード」と呼び、要求の高い集団にみられる8つの特徴の一つに挙げた。タバコ休憩中に、シェルトン氏に意見を聞いてみた。

感覚の抑制という問題はいったん脇に置いておきましょう。こうした感情にはすでに名前があるのに、なぜその言葉を使わないのですか? 「だから僕らは特別で、他とは違うんですよ」と彼は冗談を言った。「もし僕らが普通の英単語を使っていたら、誰だって苦労しませんよ」。だが彼は、思考停止の常套手段としてのカルト用語、というリフトン氏の見解には賛同した。「人々はカルト指導者のシステムの中で思考するようになるんです」と彼は言う。「文字通り、常識に囚われずに考えることができなくなるんです」

マシューズ博士も同じ意見だ。要求の高いグループの多くには、感情の抑制に関して特殊な用語があるという。キリスト教原理主義のカルトには「keep sweet(本来は「ご機嫌を取る」の意)」という熟語を、「メソメソするな、ガタガタいうな」という意味で使うところもある。博士はさらに「こういう隠語は、思考回路を書き換えてしまうんです」と付け加えた。

シルヴァーマン氏も、言葉の持つ力についてよく考える――ゴードン氏から誘われて、WEBサイト制作のために人々の経験談を集めるようになってからはとくにそうだ。彼女の今の仕事は、長年封印されてきた話や感情を掘り起こす手伝いをすること。それがきっと当人たちはもちろん、他に苦しんでいる元信者たちにも役立つはずだと期待している。幸いなことに、言葉で表現することはシルヴァーマン氏の得意分野だ。生まれながらのサイエントロジー信者だった彼女にとって、書くことが唯一の逃げ場だった。それも字を読めるようになる前からだ。「何時間も机の前で意味も分からないのに、本の文字をひたすら写し書きしていたの」とシルヴァーマン氏。「秘密の宝の地図のようなものね。いつか解読して、謎を解いてやろう、みたいな」

シルヴァーマン氏にはそうした地図が必要だった。子供の頃、彼女は精神の病に悩まされていて、意識が解離する時も多々あった。意識が離れた後、数分後、あるいは数時間後に戻ってくる。その間起きたことに関しては、断片的に覚えている、あるいはまったく覚えていない。ただ、周りから悪い子だと思われていたことは分かっていて、その通りなのではないかと恐れた。サイエントロジーは役に立たなかった。落ち込んだ時、あるいは「悲嘆にくれた」時、彼女は教会の教えに従ってトレーニング・ルーティン(TR)を行った。教会によれば、これはコミュニケーション能力を向上する「訓練」だという。シルヴァーマン氏の説明によれば、そうした訓練の中には2人1組になって向かい合い、身動きも反応もせずに何時間も過ごすものや、一方が相手を反応させようと大声で叫び、もう一方は静かにじっと座る、というものもあるそうだ。

シルヴァーマン氏によれば、こうした訓練の目的は、物静かな聞き手や明晰な話し手を養成することではない。いくつかのTRは「外面化すること」、つまり魂を身体の外へ出し、外側から眺めることを目的としている。「これをなんていうか分かる?」と彼女は尋ねる。「これが解離というものよ。筋肉を鍛えて、自分の意思で意識を解離するの」。生い立ちがどうであれ、いずれにしても自分はメンタルヘルスの問題を抱えていただろうと言うシルヴァーマン氏は、良い医者がいれば助けてもらえたはずだと考えている。サイエントロジーは精神医学に反対の立場を取っているため――教会の代表者によれば、精神医学は「人権の冒涜」の口実で、「巧妙に練られた恐ろしいデマ」だそうだ――シルヴァーマン氏は一度もしっかりした医師に診てもらえなかった。彼女はDID、つまり解離性同一性障害と診断され、今も病と闘っている。解離から戻ってきた時、たいていは膝に手を置いて上体を起こすというTRの姿勢になっているそうだ。

シルヴァーマン氏が自分の人生を理解しようとすると、必ず大きな穴がぽっかり開いている。彼女は自分を『ホームランド』のクレア・デーンズに例え、手がかりや、点と点をつなぐ線でいっぱいの壁を引き合いに出した。「人生をかけてずっと私は(自分の身に何が起きたのか)情報を集めてきた」と本人は言う。「でも、点のつなぎ方が分からないのよ」。 正直なところ、一生わからないんじゃないか、とも語った。


かつてエリート信者だった脱会者の現在

一方で、彼女はなんと理解しようと努力し、他の人たちにも手を貸そうとしている。サイエントロジー時代の友人アビゲイル(仮名)を説得して、避難所に連れてきたのもそうした理由だ。避難所でアビゲイルは、子宮の中にいたときからヘンテコな宗教儀式に参加していたの、と冗談を言った。1人の男性が母親のおなかにクジャクの羽を当て、祝福したというのだ。だが、若かりしころのヒッピーは最初からサイエントロジー信者だったわけではない。左派活動家だったアビゲイルの両親はベトナム反戦活動で出会った。アビゲイル本人も、まだ7歳にもならないころに急進派の市長の選挙ポスターを掲げていた記憶がある。母親は自ら雇ったビジネスコンサルタントを通じてサイエントロジーに入信し、そのままのめりこんでいった。アビゲイルにとってはすべてががらりと変わった。

アビゲイルがサイエントロジーを脱会して11年経つが、現在も教会内部にいる母親に関しては中立の立場を取っている。彼女は2019年秋から修士号課程に進み、サイエントロジーを生む土壌となった文化的、経済的、社会的体制に焦点を当てた自由主義研究を始める予定だ。自分の強烈な過去と向かうべき時がきたと感じているのだ。そこらへんの信者とは違い、現在37歳のアビゲイルはシー・オーグに7年間所属し、階級を昇進して、ついに世界を旅して周りながらホバード氏の思想を布教していた。

だがひとたび疑問を持ち始めると――本人いわく、教会に懐疑的なNPO団体との昼食会や、サイエントロジー幹部との衝突、街角のポン引きと深夜遅くまで交わした哲学的な会話がきっかけとなって――疑念はますます強くなった。「『私、脱会したいのかしら?』と考えたことは一度もなかったの」と本人。「なのに、その言葉がいきなりぽろっと口から出てきたのよ」。ロサンゼルスにあるサイエントロジー国際運営事務局で、彼女は泣きだした。「もういっぱいいっぱいです」と上司に言った。だがそうではなかった。脱会のプロセスの一貫として、アビゲイルは6カ月間、シー・オーグの「ギャレー」(海軍をまねたサイエントロジーの隠語で、もっともきつい業務のことを指す)で強制労働をさせられた。かつての友人たちは、廊下ですれ違う時に自分を無視するか、視線を合わせようとしなかった(教会側は、シー・オーグのメンバーはいつでも脱会できると主張し、強制労働は脱会プロセスには含まれていないと否定している)。


アビゲイル(仮名)。2019年5月、カリフォルニアにて(Photo by Justin Kaneps for Rolling Stone)



サイエントロジー以外の「信仰」を探して

アビゲイルの場合、サイエントロジーとの決別は長く難しいものだった。彼女は母親が運営する一般の医療企業で仕事を見つけたが、ハバード氏のビジネス理論を用いて従業員をしごきにかかった。井戸端会議を禁じ、一貫した方針を敷いて、生産性の「数値」をあげるよう社員の尻を叩いた。当然ながら友達はほとんどできず、せっかくの努力も報われなかった。恋愛のほうも上手くいかなかった。あらゆる誤解の根元にはある種の罪がある、とするサイエントロジーの教えを信じていた彼女は、恋人と喧嘩した時も相手に罪を告白させて解決しようとした。その一方で、アビゲイルはサイエントロジーにはそもそも人生指南があったのかどうか、疑問に思い始めた。「ある日突然、『どうして私は何も感じられないの?』と思った」と本人。「どうして私はこんなに心を閉ざしているのだろう?」 脱会して6カ月経ったころ、バスの中で大きな問いにぶち当たった。「私は何度も何度も生まれ変わる永遠の魂の持ち主なのか? それとも、ただの細胞の寄せ集めなのだろうか?」。それまで自分には何百万もの人生があると思っていた。それが今、たった一つしかないと知って恐ろしくなった。

アビゲイルはサイエントロジーが残した穴を埋めようと努力してきたが、そう簡単ではなかった。ユダヤ系のルーツを辿ってみたが、イスラエルへの巡礼の途中で、正統派ユダヤ教の男性が自分から目を逸らすのを見てショックを受けた。シー・オーグの甲板での記憶が脳裏によみがえった。急進派の彼女は、イスラエルとパレスチナについて年配のユダヤ人と議論を交えることもあるし、ユダヤ教の罪に関する言葉遣いや怒れる神という考えには眉をひそめる。にもかかわらず、彼女は心のよりどころとなる信仰、自分の居場所となれる仲間を見つけたいと願った。ユダヤの教えを受けて育ったわけではないが、母親がユダヤ系なので、伝統に従えば彼女もユダヤ人ということになる――少なくとも血筋の上では。それがアビゲイルのよりどころだ。サイエントロジー信者になる以前の――サイエントロジー信者という以外の――自分を示す、数少ない事柄のひとつ。過去や家族、自分を超えた存在とつながるための手段なのだ。そして試行錯誤しながら、ドグマや原罪、権威を否定し、儀式や懺悔を容認する自分なりの信仰を持とうしている。自分でも何がしたいのかよくわからない、と彼女は言う。ただ分かっていることは、他のユダヤ人とは深いつながりを感じられるということだ。まるで自分の身体に存在意義や帰属意識が眠っていて、ヒントを与えてくれているかのように。

避難所での2日目の夜、まだ起きていた人々がキッチンテーブルで、長身の元薬物中毒者ネイサン・リッチ氏の周りに集まった。彼は椅子に座って、指を瞼に押し当てながら、肩で息をしていた。ほんの少し前、別のメンバーが何年も疎遠だった母親と再会したという話をしていた時、リッチ氏がまるでボロボロの人形のようにへなへなと崩れ落ち、テーブルに突っ伏しているのをゴードン氏が見つけた。彼女が近づくと、彼は声を詰まらせて言った。「僕は母さんとそういうことはできない。もう二度と」。彼が母親と言葉を交わしたのは、母さんなんか大嫌いだという手紙が最後だった。今なら母親のことがもっと理解できる、仲直りしたいんだ、と伝えたいのだが、それももうできない。母親は2010年に他界した。ゴードン氏は彼と一緒に泣いた。シルヴァーマン氏もその場にいた。彼女は母親と10年も口をきいていなかった。

どうしたらよいものか、どう慰めていいものか誰もわからない。彼が間違っているとも言えない。そこで、全員で彼をハグした。セラピストと話をしてみればいいよ、という意見に、リッチ氏は顔をあげる。「なぜ?」という彼の顔は、再び無表情だ。「なぜだか教えてくれよ。あんなことが起きた後で、他人を信じろっていうのかい?」。メンバーは真夜中過ぎまで、彼の問いに応えようと話し合った。話が終わっても、彼は納得していなかった。「そうするべき理由がどうしても分からないよ」。玄関で靴ひもを結んでいると、彼が話しかけてきた。「お金を払ってまでやる価値があるんだろうか?」

この日まだ宵の口のころ、アビゲイルは洗面所へ行って頭にスカーフを巻き、台所からクラッカーを2枚くすねた。そして誰にも気づかれないように、玄関からそっと出ていった。彼女は最近ローシュ・ハッシャーナーに関する本を読んで、川にビーズを投げて罪を清めるというユダヤの新年の儀式について知った。だがアビゲイルは罪という考えが好きになれなかった。いかにもサイエントロジーらしい感じがしたのだ。そこで彼女は自分なりに儀式をアレンジして、ブルックリン・ブリッジまで歩いていき、クラッカーを川に落とすことにした。罪の象徴ではなく、彼女と神の間に立ちはだかるすべてのものの象徴として、クラッカーが全てを解放してくれるだろう、と。

彼女は夜の闇へと歩いて行き、小雨と、風と、霧の立ち込める嵐のブルックリンの夜へと進んでいった。他にもユダヤ人が列を作っているのではないかと半ば期待しながら、橋へと向かう。誰の姿も見えない。だが、街のどこか、儀式に参加している人がいると思うだけで十分だった。橋へたどり着いたものの、どうすればいいかわからなかった。しばらく立ち尽くした後、それから跪いてクラッカーを手すりの隙間から落とし、クラッカーが水面に落ちる様子を眺めた。顔をあげると、自由の女神が霧の中からぼんやり浮かび上がっているのが見えた。自分でも驚いたことに、感動していることに気づいた。ユダヤ人の祖先たちは東ヨーロッパの虐殺を逃れ、この港へ流れ着き、自分が今見ているのと同じ像を目にしたのだ。彼女は母親を思った。いまもサイエントロジーにいる母親を。こうして橋にたどり着くまでの長い年月を思った。そして踵を返し、ふたたび集会へと戻っていった。