ビジネスによって生み出されるさまざまなデータを統合管理・分析して事業開発やマーケティングに活用するデータドリブンは、多くの企業にとって重要な経営課題だ。近年では、DMPを中核としてデータを活用するための様々なソリューションが世の中に登場し、機械学習などの先端テクノロジーによって高度化、効率化を続けている。

しかし一方で、実際にどのようにデータを統合し、統合されたデータを活用するかを考えるのは「人」であり、データドリブンでビジネスを考えられる人材の育成は急務の課題だと言えるだろう。

こうしたなかソニー銀行が、ソニーコンピューターサイエンス研究所、ソニー、ソニーグローバルソリューションズが共同で設立したデータアナリティクス人材の育成機関「データサイエンスラボ」と協同で、「データサイエンス ブートキャンプ」という社員向け研修プログラムを開始した。膨張し続けるビッグデータの活用が今後の大きなビジネス課題となるなか、同社はこのプログラムを通じてデータサイエンスをビジネスに利活用できる人材を継続的に育成し、データドリブンに対する意識を企業文化へと定着させていくのが狙いだという。5月末に開催されたデータサイエンス ブートキャンプの研修現場を取材し、その狙いを聞いた。

  • 5月末に開催されたデータサイエンス ブートキャンプの様子

データサイエンスの基礎を集中的に学び、データドリブンの思考回路を作る

ソニー銀行によると、このデータサイエンス ブートキャンプには24名の社員が参加。17名いる今年度の新入社員は全員が参加しているという。社員の所属部門は商品企画、マーケティング、財務、リスク管理など様々で、部門を問わず全社員にデータドリブンに必要な知識とノウハウを身に付けてもらいたいという意欲が伺える。

データサイエンス ブートキャンプで講師を務めたデータサイエンスラボの石川貴雄氏によると、研修プログラムは5日間の日程で行われ、前半3日間は統計の基礎理論、重回帰分析やロジスティック回帰といった分析手法、統計分析に必要なツールの使い方を集中的に座学で学び、後半2日間は座学で学んだ知識を活かして実践的なデータ課題に取り組むという。

取材した日に参加者が取り組んでいたデータ課題のテーマは、「どうすれば企業の離職率を改善できるか」という人事部門の課題解決を想定したもの。従業員のプロフィールや就業状況などをまとめた模擬データをもとに、離職した人の離職要因などをデータ分析によって解き明かし、課題解決の方向性を導き出すというもの。参加者はグループディスカッションによってデータ分析と仮説検証を進め、最終的な解決策をプレゼンテーションにまとめていった。

  • グループディスカッションを展開する参加社員たち

石川氏によると、このテーマ設定は金融ビジネスの世界に入ったばかりの新入社員に考慮したものだそうで、「新入社員が銀行の専門知識がなくても取り組めるテーマを設定した。重要なのは統計的な思考回路を作ることだ。最終的には、自分たちの部門の業務に活かせるようにできれば」と語っている。ちなみに、参加している社員のほとんどが文系出身なのだそうだ。

なお、研修に参加した社員からは「チームごとに分析アプローチが違っていてデータ分析の奥深さを感じた」「はじめは難しさがあったが、その先におもしろさや結果があると実感した」「数字を扱い、考える時間が多く、研修の中で一番充実していた」といった声が聞かれ、データサイエンス ブートキャンプは“データを礎にして意思決定する風土を作る”というソニー銀行の狙いは一定の効果を生み出しているようだ。今後は、この研修を皮切りに継続的なフォローアップ研修を、年間を通じて行っていくという。