こんにちは!科学コミュニケーターの田中です。前回の田中のブログでもお伝えしたように、未来館ではゴールデンウイーク真っただ中の5月2日、トークセッション「車いすで階段をのぼれ! 競技大会「サイバスロン」への挑戦」を開催しました。そしてトークセッションにお招きした千葉工業大学 青木岳史准教授は3日後の5月5日に「サイバスロン」に出場!ということで、先生たちの勇姿をこの目で確かめてきました!

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車いすの技術を競う「サイバスロン」の様子をお伝えします!
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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未来館でのトークセッションにお招きした青木岳史先生。サイバスロン本番の3日前、「学生たちがあと2日くらい死ぬ気でがんばればなんとか......」とおっしゃっていた、その結果は果たして?!
(撮影:相川直美)

◇「サイバスロン」ってなに?

まず、「サイバスロン」についておさらいです。青木先生が出場されたのは、2016年にスイスで始まった障害を持つ方のための技術を競う国際的な競技大会「サイバスロン」のスピンオフ大会「サイバスロン車いすシリーズ日本2019」(以下、こちらを「サイバスロン」と呼びます)。サイバスロンでは、タイムが速ければ勝ちというわけではありません。肝心なのは、タスクの難易度に応じた獲得ポイント。難易度の異なる6つのタスクがあり、どれをこなせたかで点数が決まります。これらの6つのタスクは、どれも日常生活に必要な動作である点が大きな特徴です。サイバスロンは、ふつうの車いすではできなかった日常動作をこなす技術を競います。そして、サイバスロンをきっかけに、こうした技術開発が進むことを目指しているのです。

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「サイバスロン車いすシリーズ日本2019」で競われるタスク
(画像提供:青木岳史先生、許可を得て改変)

青木先生によるトークセッションの開催日は、サイバスロン本番の3日前。その時点では青木先生チームの車いすはまだ階段をのぼることに成功していませんでした。果たして、先生たちの車いすは階段をのぼれるようになったのか?! そして他チームの車いすは?!

◇いざ、会場へ!

サイバスロンの会場となったのは神奈川県川崎市にあるカルッツかわさき。あらゆる人に使いやすいユニバーサルデザインに配慮した、スポーツや文化のための複合施設です。

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カルッツかわさきのサイバスロン会場入り口。大きな看板がお出迎えしてくれました
(撮影:相川直美)

ドキドキしながら会場に入ると、立ちはだかる2つのレーン。この後の競技で、車いすたちが挑むコースです。2つの四角いテーブルの間隔もスラロームを構成する丸テーブルの間隔も、想像以上に狭く見えました。こんな隙間を電動車いすが本当に通れるのか、と疑ってしまいます。レースでは2チームが同時にスタートし、タスクをクリアして獲得できる得点とタイムを記録していきます。各チーム2回ずつチャレンジして2回の合計で順位を出し、さらに1位と2位チームで決勝戦、3位と4位チームで3位決定戦のレースを行います。

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サイバスロンのコース。想像以上に、車いすで進むには難しそう......
(撮影:田中沙紀子)

開会の挨拶に続き、選手入場が始まりました。青木先生とパイロットの阿部武蔵さんも笑顔で登場。チーム名は、千葉工業大学(Chiba Institute of Technology)の略称で「Team C.I.T.」。先導するのは、講演や動画配信などの活動をしている車いすユニット「BEYOND GIRLS」のメンバー、梅津絵里さんです。出場チームは全部で8つ。日本だけでなく、スイスやロシアなどからも集まりました。

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「BEYOND GIRLS」の梅津絵里さんに先導されて入場するTeam C.I.T.の青木先生とパイロットの阿部武蔵さん
(画像提供:ETH Zurich / CYBATHLON)

◇レース開始!

各チームの入場が終わったら、いよいよレース開始です!他のチームの熱戦を見守りながら、Team C.I.T.の出番を待ちます。そして登場したTeam C.I.T.!写真でその様子をお伝えしましょう。

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スタートラインに立つTeam C.I.T.のパイロット阿部武蔵さんと、車いす開発を行った学生の森田渡海也さん。お二人とも、良い笑顔です。
(画像提供:ETH Zurich / CYBATHLON)

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まずは1つ目のタスク。テーブルの下に太ももが半分以上入ればクリアです。後ろのテーブルやいすに当たらないように、慎重に車いすを動かします。
(画像提供:ETH Zurich / CYBATHLON)

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2つ目のタスクはスラローム。テーブルに当たらないように、技術者とパイロットで協力しながら進んでいきます。
(撮影:相川直美)

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続いて3つ目はでこぼこ道。ガタガタと機体と体を揺らしながら突破していきます。他のチームも、でこぼこ道では振動が大きく、揺れを少なくする技術は難しいようでした。
(画像提供:ETH Zurich / CYBATHLON)

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4つ目は階段でしたが、残念ながらTeam C.I.T.はこのタスクは断念......5つ目の傾斜地に挑みます。車体が傾いて転げ落ちてしまいそうで、ハラハラしながら見守ります。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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最後のタスクであるドアは、ロボットアームで開け閉めしなければなりません。こちらも、Team C.I.T.は断念......ですが、レースを終えてインタビューを受ける阿部さんは、クリアできなかったタスクへの悔しさもあるものの、清々しい表情に見えました。
(画像提供:ETH Zurich / CYBATHLON)

最終的なTeam C.I.T.の順位は、7位という結果でした。Team C.I.T.はクリアできないタスクもありましたが、レース後に青木先生にお話を伺うと「Team C.I.T.は開発期間が短かったのですが、その中でどこまでできるか、実際に車いすを作ってレースに挑めたことは大きな収穫です」と語ってくださいました。

青木先生とのトークセッションを企画・実施した筆者としては、ぜひとも先生のチームの車いすが階段をのぼる姿を見たい!と思っていました。叶わなかったことに残念な気持ちがないとは言えませんが、先生の前向きな姿を見て、今後の研究開発の発展が楽しみになりました。

◇すべてのタスクをクリアするチームも!

今回のレースでは、すべてのタスクをクリアするチームもありました! 上位3チームの階段を上り下りする様子、ドアをロボットアームで開け閉めして突破する様子をお伝えしましょう。

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表彰された上位3チーム。笑顔が輝いています。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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優勝したスイスのチーム「HSR Enhanced」。2016年のサイバスロンでの優勝チームであり、階段をのぼる姿には余裕すら感じられました。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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ロボットアームでのドアの開け閉めは2016年のサイバスロンではなかったタスク。慎重にドアノブを掴み、後ろに下がりながらドアを開けます。ドアノブを握るロボットアームの動きは弧を描き、車いす本体は直線的に後に下がります。人がふだん何気なくこなしている動作は、実は非常に複雑な動作なのです。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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こちらの2枚は、2位のロシアチーム「Caterwil」。こちらの車いす、サイバスロンのための専用機体ではなく、パイロットご本人が日常的に使用しているもの! 競技には求められないリクライニング機能も付いている優れものです。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

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こちらは、3位の慶応大チーム「Fortississimo」。このチームのロボットアームの動きは、最も繊細で技巧を凝らしているように見えました。
(画像提供:ETH Zurich / 越智貴雄)

◇サイバスロンで技術が進む

各チーム、個性のある機体でそれぞれの技術的な工夫を実現していました。それは、サイバスロンに向けて各チームが努力した結果です。それぞれの技術を高めるきっかけとなり、そしてそれらを披露し合うことを通じてお互いの技術を知り、高め合うチャンスとなる──これが、サイバスロンという大会の大きな意味であると、今回レースを目の前で見て実感しました。そして、技術は今後もどんどん進んでいくという希望を感じました。2020年には、スイスで第2回のサイバスロン(車いすだけでなく、義手など障害のある方に向けた技術6種類をそれぞれ競う大会)が開かれます。きっとますます進展した技術を目の当たりにすることになるでしょう。ぜひご注目を!



Author
執筆: 田中 沙紀子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
生徒も先生もみんな自由でキャラが濃い。そんな充実した高校生活を送り、いろんな人と出会う楽しさを知りました。その後、興味をもった理系の道に進み、大学院修了。企業で働く中で、科学の情報をなかなか知ってもらえない壁に直面。いろんな人と出会い、科学のおもしろさを共有したいと思い、2018年より未来館へ。