カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)を配偶者に持ち、「家庭内の苦しみを周囲に信じてもらえない」状態にある人のことをいいます。本

◆誰にも理解されない家庭内の苦しみ
カサンドラとは、ギリシャ神話に登場する王女のことで、「予言を誰からも信じてもらえない」という呪いをかけられています。カサンドラ症候群はアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)を配偶者に持ち、「家庭内の苦しみを周囲に信じてもらえない」状態にある人のことをいいます。

自分の家庭について「何か変だ」とは思いつつも、「自分がおかしいのかもしれない」という疑問が消えずに、ストレスが溜まっていきます。その結果、身体的・精神的不調まで出現することがあるのです。

◆なぜ、周囲に信じてもらえないのか?
アスペルガー症候群の方の中には、障害があまり目立たず、仕事も一般職についており、「ちょっと変わった人」という認識でとどまっている方もいます。そういう方は、精神科を受診したことがなく、診断も受けていません。なかには仕事が丁寧で細かいこと、勤勉なことを評価されて、重要なポジションについていらっしゃる方もいます。

そのため、周囲からは「あんなに仕事ができる人は、家でもしっかりしているはず」と思われてしまい、奥さん(または旦那さん)が言うことはおかしいと思われてしまうのです。

◆家庭内で何が起こっているのか?
カサンドラ症候群に陥っている方の悩みとして、「言えば、家事をしてくれるけれど、言わないとしてくれない」というものがあります。

例えば、体調不良でふらふらになりながら家事をしているのに、パートナーはその様子を気にかけることなくテレビを見ているといったことです。しかし、頼めば家事などをやってくれるので、「協力的な人だとは思うけれど……」という気持ちもあります。

このようにして「自分がおかしいのかもしれない」と思い込み、ストレスが溜まっていきます。これは、アスペルガー症候群の障害特性として、「気持ちを察することが苦手」というものがあるためです。

この他にも「家事のやり方で意見が合わない」ということもよくあります。例えば、洗濯物の干し方については細かく指定してくるのに、掃除をさせるととても雑なやり方をするなどです。

これは、アスペルガー症候群の障害特性として、「こだわり」があるためです。アスペルガー症候群のこだわりは、「自分が気になった点に関してのみ」であるために、パートナーの感覚と合わないことがよく起こります。

◆どうしていけばいいのか?
まずは、自分がカサンドラ状態にあることに気がつくことです。「何だか苦しい」「家庭内でなぜかストレスが溜まる」というところから、カサンドラ症候群を疑っていく必要があるでしょう。

そして、パートナーの行動を観察して、アスペルガー症候群の特徴が当てはまるかもしれないと感じたら、精神科を受診し、しっかりと診断をつけてもらうように頼んでみましょう。しかし、なかなか受診に繋がらないケースも多いと思います。その場合は、一緒にアスペルガー症候群について勉強していくところから始めてみましょう。

◆家庭内での問題をどうするか?
□具体的な指示の方法を考える
アスペルガー症候群の方は、曖昧な指示ではなかなか動けずに、指示を実行してくれない場合があります。例えば、「家のことを頼むね」と言われると分からない方でも、「掃除と洗濯をしておいてね」と言うと伝わる場合があります。

□具体的なルールを決める
指示だけに頼っていると、指示をたくさん出さなければならないため、疲弊してしまいます。そこで、具体的なルールを2人で事前に決めます。例えば、「家のゴミ出しは、夫の仕事」「プレゼントは、2人で一緒に買いに行く」などです。

□役割分担を考える
お互いに得意・不得意を出し合って、役割分担を決めておくと、衝突も減ってきます。例えば、「旅行の希望を出すのは妻、旅館の予約や移動手段を決めるのは夫」などです。

□自助会、友人同士の集まりなどを利用する
ここまでの対策をとっても残ってしまう問題は、「相談ができない」「話を聞いてくれない」ということかもしれません。また、具体的な指示やルールを守りながら日々生活するのは大変なことです。そこで、似たような悩みを持った人が集まる自助会や、友達同士の集まりへの参加も役立ちます。

アスペルガー症候群の認知度はあがりましたが、まだまだ未受診の方が多いのが現状です。そのため、カサンドラ症候群で苦しんでいる方も多いと思います。カサンドラ症候群という言葉が広まり、支援の輪が広がっていくことを祈っています。

文=矢野 宏之(臨床心理士)