6月28日深夜放送の『きのう何食べた?』(テレビ東京系)を最後に、春ドラマがほぼ終了した。

全話平均視聴率では、『緊急取調室』(テレビ朝日系)が13.2%、『特捜9 season2』(テレ朝系)が13.0%、『ラジエーションハウス』(フジテレビ系)が12.2%、『集団左遷!!』(TBS系)が10.4%と4作が2桁を記録。ただ、1桁に終わった作品の中にも、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、『ストロベリーナイト・サーガ』(フジ系)、『パーフェクトワールド』(フジ系)、『スパイラル~町工場の奇跡~』(テレ東系)が最終話で自己最高を記録するなど、視聴者の熱が高かったものも少なくない。

ここでは「ドラマの視聴率は“参考データ”へ」「描くべきは恋人よりもパートナー」という2つのポイントから春ドラマを検証し、主要17作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

  • 大倉孝二、鈴木浩介、田中哲司、天海祐希、小日向文世、速水もこみち、でんでん、塚地武雅

    『緊急取調室』(左から大倉孝二、鈴木浩介、田中哲司、天海祐希、小日向文世、速水もこみち、でんでん、塚地武雅)

■ポイント1 ドラマの視聴率は“参考データ”へ

今春に放送された作品の視聴率上位は前述した通りだが、その内訳はテレ朝の刑事ドラマシリーズ2作、一話完結の医療ドラマ、「日曜劇場」十八番のビジネス逆転劇という「固定客狙い」の手堅いラインナップだった。

それなりの視聴率を稼ぎ、見た人を満足させた一方、「熱狂度や愛着で他作を上回っていた」とは言えない。事実、固定客以外の人々を巻き込んで話題を集めることはなく、メディアの記事数やSNSのコメント数も、物足りなさが残った。

メディアが採り上げる視聴率は世帯視聴率のことであり、「何人見たか」ではなく「何世帯見たか」を数値化したもの。パソコンやスマホの普及に伴い、家族ではなく個人単位でエンタメを楽しむようになり、テレビ番組も録画視聴やネット視聴が当たり前になった今、世帯視聴率は一部のデータに過ぎない。

そのことはここ数年、何度となく叫ばれ、視聴率に対する視聴者の信頼は薄れつつあったが、長年の商慣習は簡単に変わらなかった。しかし昨年、低視聴率の深夜ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が大ヒットし、さらに今春、同じく低視聴率の深夜ドラマ『きのう何食べた?』が最大の話題作になり、物販やイベントなどでも成功を収めたことで、様相が一変。いよいよ業界内でも、「ドラマ限っては視聴率だけで査定してはいけない」「個人視聴率、録画視聴率、ネット視聴数、その他の収益実績を踏まえて査定すべき」という声が飛び交っている。

ただでさえテレビは、ネットはもちろんラジオなどに比べても、「見たいときに見たいものが見る」というユーザビリティの悪さを指摘され続けてきた。だからこそ今春をきっかけに、「保存性の高いコンテンツのドラマにもリアルタイム視聴を求める」という旧態依然とした姿勢が変わっていくのかもしれない。

  • 本田翼、窪田正孝、広瀬アリス

    『ラジエーションハウス』(左から本田翼、窪田正孝、広瀬アリス)

■ポイント2 描くべきは恋人よりもパートナー

今春は『俺のスカート、どこ行った?』(日テレ系)、『家政婦のミタゾノ』(テレ朝系)、『きのう何食べた?』、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)というゲイが主人公の作品が4本もあった。

前者2作は「ゲイという特別な存在が周囲の問題を解決していく」というコンセプトである一方、後者2作は「ゲイを普通の人間として扱い、彼らの恋愛を描いた」もの。ゲイゆえの悲しい現実を描写しながらも、ドキドキや嫉妬などの恋愛感情は、誰にも当てはまる普遍的な作品だった。

それぞれの恋愛模様もラブストーリーのドラマティックなシーンは少なく、ヒューマンストーリーのハートフルなシーンが続出。『きのう何食べた?』と『腐女子、うっかりゲイに告る。』を筆頭に、『ラジエーションハウス』、『パーフェクトワールド』、『わたし、定時で帰ります。』、『向かいのバズる家族』(読売テレビ、日本テレビ系)で、「パートナーとはどんな存在か?」「どんなパートナーがいれば幸せなのか?」を考えさせるようなシーンが目立った。

最近でも恋愛至上主義だった20世紀のドラマを引きずるような作品が多かったが、今春は制作サイドが、「パッと燃え上がる一時の恋人よりも、生涯のパートナーがほしい」という現在の視聴者ニーズに応えているのではないか。今後も、「恋愛で盛り上がる」のではなく、「自分らしく生きるためのパートナーを探す」という物語が続くだろう。


上記を踏まえた上で、春ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『腐女子、うっかりゲイに告る。』。脚本・演出・演技・プロデュースのすべてで他作の一歩上をいっていた。

同じクオリティという意味では、『きのう何食べた?』が続く。「主演2人のスケジュールが空くまで数年待った」という真摯な制作姿勢を随所に感じさせた。

主演俳優では、新境地を見せた内野聖陽と窪田正孝、普通の女性を等身大で演じた内田理央と吉高由里子。助演俳優では、腐女子の高校生をみずみずしく演じた藤野涼子が出色だった。

  • 【最優秀作品】『腐女子』 次点-『きのう何食べた?』『ラジエーションハウス』
  • 【最優秀脚本】『腐女子』 次点-『きのう何食べた?』
  • 【最優秀演出】『腐女子』 次点-『向かいのバズる家族』
  • 【最優秀主演男優】内野聖陽(『きのう何食べた?』) 次点-窪田正孝(『ラジエーションハウス』)
  • 【最優秀主演女優】内田理央(『向かいのバズる家族』) 次点-吉高由里子(『わたし、定時』)
  • 【最優秀助演男優】向井理(『わたし、定時』) 次点-山本耕史(『きのう何食べた?』)
  • 【最優秀助演女優】藤野涼子(『腐女子』) 次点-高岡早紀(『向かいのバズる家族』)
  • 【優秀若手俳優】金子大地(『腐女子』) 松村北斗(『パーフェクトワールド』)