元経産大臣の甘利明議員に聞く「今話題の #自民党2019 の意図ってなんですか?」

「栃木県生まれの眉毛ガール」井上咲楽の政治家対談、労働大臣や経済産業大臣など名だたる役職を歴任し、現在は選挙対策委員長を務める甘利明衆議院議員。自民党が新たな広報戦略としてスタートさせた、今話題の「#自民党2019」を主動していたのが甘利議員。あの戦略がスタートしたいきさつを聞いた。
井上 自民党2019の動画「新時代」(5月1日から自民党がスタートさせた新たな広報戦略「#自民党2019」プロジェクトによる動画。13歳から17歳という10代のアーティスト、ダンサー、アスリート、落語家らとともに安倍晋三氏も出演)、観ました。すごくかっこよかったです。

甘利 いいでしょう。あの動画は、今までの自民党では絶対に作れなかったと自負しています。党内の議論にさらさず、遮断して進めたプロジェクトだからこそできました。総理の了解を取って秘密裏に作りました。

井上 2人で?

甘利 もちろん、動画そのものは集まってくれた30代のクリエイターの提案でやってもらいました。ただ、途中で自民党の党内論議にかけて注文が付くと、角の取れたシャープではないものになってしまいます。そういうものを作りたくなかったので、プロジェクトのリーダーとして「誰の口も挟ませないから思い通りに進めてください」と。

井上 本当に極秘だったんですね。

甘利 そうですね。去年の11月くらいから取り組み、改元の5月1日に表に出しました。風呂敷を広げて言えば、自民党(LDP:Liberal Demo-cratic Party)というブランドを国際ブランドにしようという意気込みです。スタッフは小さな企業やフリーランスの人たち。大手の広告代理店にはできない仕事だと思います。「最初からメイキング映像もやりましょう」という提案もあって、そちらも公開されていますが、10代の子たちと接する総理の素が伝わる映像に仕上がっています。

井上 本当に安倍さんと甘利さんしか知らなかったんですか?

甘利 少なくとも議員は私以外1人も知らないままでしたよ。

井上 完成品を観て、安倍さんの反応はいかがでしたか?

甘利 好感触だったと思います。事前に総理から言われたのは、1つだけで。「チャラくしないでね」と。

井上 確かに、若者におもねる的なチャラさはなかったです。

甘利 チャラいのと斬新なのは違いますから。あの動画は「自民党」とひと言も言っていないんですよ。全く押し付けていない。まるでナイキやアディダスのコマーシャルビデオかと思うような仕上がりで、最後に総理が出てきて、「あれ? もしかしてこれは自民党のイメージビデオ?」と思うわけだけど、最後まで党名は出てこない。これは最初からそうしようと決めていました。

井上 どうして出さない方針に?

甘利 アートアプローチ、エンタメアプローチと呼ばれるそうですが、若い人と政治の距離をうんと縮めるためには、まず興味を持ってもらうこと。おもねったもの、ベタベタ押し付けるようなものは、受け入れられません。そこで、出演した10代の子たちにはそれぞれの分野で発したい思いを語ってもらい、パフォーマンスを披露してもらいました。



甘利 動画全体のメッセージは、多様な個性と価値観が未来を拓いていくというもの。総理もまた出演者の1人に過ぎず、ポリティシャン(政治家代表)として、「未来を作りたい」と主張します。押し付けではなく、多様な個性が力を発揮するような未来を作りたいと願っているからです。

井上 これまでも各党が行った若者層に向けたPRを見てきましたが、正直、「うーん……」というものがほとんどでした。でも、今回の動画はスタイリッシュで素直にかっこいいなと。実際に公開後、若い人に響いているという感覚はありますか?

甘利 当初は1カ月で再生回数100万回を目指していたんですよ。それを5日で達成しました。

井上 え〜! すごいですね!

甘利 YouTubeだけでなく、SNS全部も合わせての数字ですけどね。

井上 いやいや、人気YouTuberでもなかなか出せない数字ですよ。

甘利 もちろん、これだけで終わらず、ファッションとのコラボなど、いろいろな仕掛けが控えていますから、楽しみにしていてください。

井上 やっぱり8月に控えた参議院選挙に向けた対策という意味もあるんですか?

甘利 従来の手法だと、選挙から派生してPRを始めるでしょう。でも、今回は選挙から離れたところからのアプローチです。

井上 離れたというのは?

甘利 政治には2つの仕事があります。1つは現実の課題を解決していくこと。もう1つは、未来に夢と希望を持たせること。選挙対策ではやはり前者が重要視されます。でも、縁遠いような「ときめき」「ワクワク」も政治の仕事なんです。これまでの政治は、今を解決することに手足を取られていたけれど、我々は未来に向けても本気でやっていくぞ、と。動画を観た若い人が、じゃあ自分たちはどう参加していくかと考えてくれたら、最高ですよね。



井上 甘利さんは自民党の選挙対策委員長ですが、噂されている衆参両院のダブル選挙になる可能性はありますか? 個人的には安倍内閣の支持率が高い今、ダブル選を選ばない理由はあるんだろうか? とも思うくらいなんですが……。

甘利 解散権というのは安倍総理の専権事項です。スポーツ新聞などに「甘利明は解散をもてあそんでいる」などと書かれることがありますけど、私が「解散」と言ったことは一度もありません。取材で「衆参ダブル選挙はありますか?」と聞かれたときには、「総理と接する限り、その気配は伝わってきません」と答えています。ただし、私は選挙対策委員長ですから、「いつ何があってもいいように備える」ということも役目として言わなければいけません。この「いつ何があっても」の部分がクローズアップされるのは、私が総理と近いから「何か聞いているに違いない」とニュースするのでしょう。

井上 では、「備える」というのはどんな意味合いなんですか?

甘利 参議院選挙の選挙区は各都道府県に1つずつと全国比例です。衆議院選挙に比べて選挙区が広く、候補者1人の力でカバーし、当選するのが難しい制度です。自民党の参議院議員候補が勝つには同じ都道府県の衆議院議員の応援が重要になるわけです。神奈川県で言えば、衆院選では18の選挙区があって、それぞれに支部長がいます。彼らが一生懸命にならなければ、参院選では票が取れません。ですから、選挙対策委員長の私は党の衆議院議員に「自分の選挙のつもりでやってくれ」と伝え、備えてもらっているわけです。

井上 今の自民党の支持率でも、衆議院議員の協力がないと参院選で勝てないですか?

甘利 衆議院議員が「自分の選挙ではないから」と高みの見物となったら、勝てないでしょうね。それが備えるという言葉の意味です。

井上 私は参院選を楽しみにしていて、日々選挙関連のニュースを熱心にチェックしています。先日、石破茂さんがニュース番組に出演した際に「3、4割の確率でダブル選挙があるんじゃないか」と発言されていました。甘利さんご自身はダブル選挙の可能性をどう見ていますか?

甘利 事前の調査で、参院選が厳しい戦況となり、過半数割れを起こすかもしれないとなったら、最後の手段としてあるかもしれません。衆議院でいくら議席を持っていても、参議院で過半数割れを起こすと国会のハンドリングが難しくなります。結果的に政権崩壊につながりかねませんから。

井上 でも、現時点ではそこまで厳しい選挙にはならない、と?

甘利 そうですね。これから何回か事前調査して、その状況を総理と私、幹事長なりで相談することになると思います。今のところは、参院選単独で衆議院議員に本気になってもらい勝ちに行くという感じです。



井上 注目区は?

甘利 一人区ですね。過半数を取るためには32ある改選議席1の一人区で勝たなくてはなりません。しかし、参院選は選挙区が広いですから、浮動票を中心に世の中の雰囲気によって票数が大きく左右されます。6年前は安倍内閣ができて半年後の選挙だったので、期待値が非常に高く「自民党公認」というだけで当選するような勢いがありました。今回は、そこで当選した議員の再選という選挙になりますから。あのときほどの追い風はないでしょう。ただ、あの動画も貢献したのか、最新の内閣支持率はまた上がってきましたし、悲観はしていませんよ。

井上 私が政治に興味を持つようになってからは、ずっと自民党一強状態が続いています。その理由はどこにあるんでしょうか?

甘利 野党は「自民党は守る側で我々はチャレンジする側だ」と言うんだけど、それは本質を分かっていないと思います。自民党は伝統とチャレンジの政党なんですよ。海外の政権が「自民党研究」を行っています。「なぜ、日本は議会制民主主義国家にもかかわらず、一時期を除いてずっと自民党が政権を保っていられるのか?」と。実際、議会制民主主義の発祥の地であるイギリスでは保守党と労働党がしょっちゅう入れ替わっていますからね。

井上 海外は政権交代がよくあって、日本は滅多に起きないイメージです。

甘利 これには理由があるんです。日本では、国民が野党の存在を外国ほど意識しなくても不都合を感じない。例えば、社会保障政策。健康保険制度、年金制度、介護保険制度の3つの社会保障システムが皆保険制度として整っている国は、世界中で数カ国しかありません。

井上 そうなんですか。



甘利 例えば、アメリカでは民主党のオバマ政権でオバマケアが成立し、低所得者用の健康保険制度を導入しました。ところが、共和党のトランプ政権になったら、ひっくり返ってしまった。民主党と共和党では根本的に考えが異なり、政権交代が起きると経済政策、雇用政策、社会保障政策も変わってくるからです。一方、自民党はと言うと、いいと思った政策はどんどん取り込んでいきます。言わば、与党と野党の両方が主張する政策を推進していくので、国民は野党の必要性を外国ほど感じないんじゃないでしょうか。

井上 となると、日本の野党の役割って何なのでしょう?

甘利 自民党がおごらないよう警告を発することでしょうね。これは私の分析ですが、外国であれば労働組合が支えている政党がやるべき政策も、日本では保守党である自民党が先取りして組み入れています。例えば、安倍内閣が発足したとき、真っ先に言ったのが「賃上げ」ですから。世界中見渡しても、企業に労働者の賃上げをしてくれと言う保守党はいません。これが長く政権を保っていられる秘訣。その伝統の上に、令和の時代はさらなるチャレンジを積み重ねていきたいと思っています。

「取材を終えて」〜井上咲楽の感想〜
参院選が迫る中で、選挙対策委員長・甘利さんへのインタビューは、かなりタイムリーなのでは!? 緊張しながらもW選の可能性についてズバリ聞いてみましたが……もちろん教えてはくれませんでした。ただ、「メロンパンのチョコチップの秘密」などをうれしそうに話してくださり、選対委員長として日々難しい取材ばかりの中、この取材がちょうどいい箸休めになってくれていたらいいなと思います。

(『月刊エンタメ』2019年7月号掲載)
甘利議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊

『世界史で学べ!地政学』(茂木誠 著/祥伝社 刊)
政治家を志しているような人にも、世界に出て仕事をしたいと思っている人にもオススメの1冊です。実際に先日、小泉進次郎くんにも「この本は読んでおいた方がいいよ」と渡しました。というのも、これを読むと世界中の国の動きや、その行動原理が見えてきます。例えば、ロシアはなぜクリミア半島にこだわるのか? 中国はなぜ南下政策を取るのか? これらの理由が分かると同時に、世界の見え方そのものが変わってくる本だと思います。
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
Twitter:@bling2sakura

▽甘利明(あまり・あきら)
1949年8月27日生まれ、神奈川県出身。1983年に初当選。労働大臣、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣などを歴任。現在は自由民主党選挙対策委員長・知的財産戦略調査会長を務める。