パナソニック コネクティッドソリューションズ社は6月17日、「現場プロセスイノベーション」の新たな取り組みとして、スタートアップ企業のリンクウィズ(LINKWIZ)と、熱加工現場のプロセス改善に向けたソリューション開発において協業すると発表した。

現場プロセスイノベーションは、B2Bソリューション事業を展開するコネクティッドソリューションズの事業ビジョンであり、パナソニックが製造業として、100年に渡って培ってきた知見やノウハウと、センシング技術やエッジデバイス群とのすり合せ技術によって、製造(作る)、物流(運ぶ)、流通(売る)といったサプライチェーン全体における現場の困りごとを、顧客との協業によって解決する取り組みとする。

パナソニックが発表した2021年度を最終年度とする中期戦略では、「空間ソリューション」、「インダストリアルソリューション」とともに、「現場プロセス」を基幹事業に区分しており、「利益額を拡大する事業」に位置づけている。

今回のリンクウィズとの協業では、現場プロセスイノベーションの「作る」という領域において、熱加工現場のプロセス改善に向けたソリューション開発を進めることになる。

具体的には、パナソニックが持つ製造現場での知見に、リンクウィズが持つ自律型ロボットシステムソフトウェアの知見を組み合わせることで、切断、溶接、検査といった熱加工現場のプロセスの最適化を実現するという。

  • 熱加工現場のプロセスの最適化

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の青田広幸上席副社長

「溶接の結果の可否検査は、人による目視での判定が中心で、あいまいな良否基準であったり、煩雑な測定になっており、人の経験や技、勘に頼っていた。だが、リンクウィズの溶接結果の可否検査では、3Dの画像処理技術を活用することで、事前登録した良品の画像データとの比較で自動判定ができる。簡単な設定であり、目視よりも高精度である。中小規模の工場でのロボット導入を促進できる」(パナソニック コネクティッドソリューションズ社の青田広幸上席副社長)とした。

  • リンクウィズの検査機による測定結果。正常な溶接と欠陥のある溶接とを画像で判断する

  • 溶接結果の可否検査

パナソニックでは、リンクウィズと2016年3月から話し合いを進めていたほか、2018年には世界各国での展示会に共同で出展。自動車や建設機械など32社からの引き合いを得た経緯があったという。

リンクウィズは、2015年3月に、静岡県浜松市で設立したスタートアップ企業で、インテリジェントロボットソフトウェアの開発を行っており、独自の三次元形状処理技術を活用し、溶接検査をロボットにより自動化する「L-QUALIFY」や、ロボットが物体形状を自動認識してロボットが人のように作業を行う「LーROBOT」で実績がある。

リンクウィズでは、今回の協業の発表にあわせて、パナソニックやINCJ、SMBCベンチャーキャピタル、はましんリース/信金キャピタル、ミツトヨ、グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合の6社を引き受け先とするシリーズBラウンドの第三者割当増資を実施し、総額9億円の資金調達を完了したことも発表した。

調達した資金を活用することで、中国および米国、欧州における販売網の構築に向けて、パナソニックとの協業により、世界4拠点を立ち上げるほか、パナソニックをはじめとする事業会社との連携を加速させ、包括的なソリューションを提供。システムインテグレータ育成事業や外部パートナーの獲得を目指した組織体制の強化を図るという。

リンクウィズの吹野豪社長は、「人が目で見て、動きを変えることをデジタル化し、働き方を革新することを目標としている。ロボットがひとつひとつのモノを見ることで、人間のような動きをすることができる」としたほか、「当社は、35%が外国人であり、英語版での販売を行うなど、当初からグローバルを視野に入れている。日本での困りごとは世界でも課題となっており、その解決に向けて、アジアや欧米でも展開していく。年内には、中国での拠点展開を開始し、来年以降、欧米での展開を予定している」とした。

  • リンクウィズの吹野豪社長

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長は、「日本の現場では、人手不足、人件費高騰などの課題があり、どの現場においても、省人化が待ったなしになっている。現場プロセスイノベーションは、パナソニックが持つ100年間のモノづくりの知見を生かせること、我々が持つ要素技術を活用できるといった特徴があり、さらに、すり合わせが必要な『現場』は、参入障壁が築けるというメリットがある。また、画像認識や深層学習といった技術によってできることが広がっている。溶接の現場においても、ようやく頭と目がつき、技術伝承や効率化、品質向上に貢献できるようになる。従来のパナソニックは、自分たちの製品が売れればいいという姿勢であったが、顧客のニーズ起点で考えれば、様々な企業の製品やサービスを使ったり、スタートアップ企業との協業も行い、顧客と共創していくことになる。技術の進化をテコに、現場の困りごとを解決するソリューションを開発していく」とした。

  • パナソニック コネクティッドソリューションズ社 樋口泰行社長

樋口泰行社長は現場にあわせて作業着で登壇した

また、「差別化できる強いハードウェアに、ソフトウェア、テクノロジーを持つ必要がある。基本姿勢は、儲かるところでは、自分たちのもので展開し、儲からないところは買ってくるということになるが、お役立ちという観点から、それにとらわれることがなく、様々なパートナーシップを進めたい。これまでのパナソニックは、パートナーシップに対して、最適化した企業ではなかったが、そうした体質を変化させていきたい」などと述べた。

なお、樋口社長は、溶接機のエンジニアとして当時の松下電器に、新入社員として入社。インバーターを搭載した初の溶接機の開発を担当したメンバーの一人であり、溶接事業には深い関わりがある。「かつて、溶接事業に関わって経験から、リンクウィズの技術を見た感じからも、筋は悪くないと判断した」などと述べた。

松下電器当時の樋口社長

一方、INCJの土田誠行専務取締役は、「今回の案件は、モノづくりが危機に瀕しているという社会課題と、日本が抱える産業課題を解決できるものになる。大企業とのマッチングによって、スタートアップ企業の価値を増大させることができる。パナソニックの信用力と広範なネットワークと、スピード感と瞬発力によって、日本のモノづくりの再興につなげたい」とした。

  • INCJの土田誠行専務取締役