ポルシェの進化を如実に物語る4台を一挙に比較!│第四弾 孤高のV10

似ても似つかない4台がポルシェの進化を如実に物語っている。ジョン・シミスターが356 4カム、911 2.7 RS、968クラブスポーツ、カレラGTの重要性について解き明かす。第四弾 カレラGT

最後に紹介するのは、ほかの3 台とはなんのつながりもないモデルである。2003 年の夏にカレラGT のテクニカル・プレゼンテーションが行われたとき、ヴァイザッハのテストコースでメディアを対象としたデモンストレーションランが行われたのだが、気づけば私はひとりきりでカレラGT のドライビングシートに腰掛けていた。その時点ではこれが走行可能な唯一のカレラGTで、ほかに誰の姿もなく、キーは刺さったまま。そのとき「ここでカレラGTをドライブすれば、世界中の誰よりも早くインプレッションを執筆できる」ことに気づき、あやうくその衝動を抑えきれなくなりそうだったが、事後に起きるであろう騒動について想像を巡らし、すんでのところで踏み止まった経験がある。


 
あれから15年が経過し、ようやく試乗のチャンスに恵まれた。今回ステアリングを握るのは、全部で1270 台が生産されたなかの163 台目だ。私は再び着座位置が低く、ぜいたくに作り込まれたシートに腰掛けた。ツヤのあるカーボンファイバー製シルが私の左側に見える。厚さが30cmほどもある巨大なエアスクープは両サイドのやや後方に設けられている。いかにもプラスチック然とした996 のメーターパネルが目の前に見える。ただし、メーターの仕様は996 のものとは異なる。イギリス向けに生産されたこのモデルは、左ハンドル仕様ながらスピードメーターは225mphまで刻まれている。メーターダイヤルには25mphごとに等間隔で目盛りが振られているが、速度を示す張りは30mph ほどの幅で常時、上下に揺れている。レヴカウンターのレッドゾーンは8200rpmから始まる。
 
私の右側には背の高いコンソールが設けられていて、そこからシフトレバーが生えている。シフトノブはカバ材で作られたものだが、かの917では軽量化を優先してバルサ材でシフトノブを形作ったとの伝説が残っている。足元に並んでいるのはアルミの押し出し材で作られたペダルで、911 同様、床から伸びている。エクステリアに取り付けられた特別なデバイスを除けば、そのスタイリングはやはりポルシェならではのものといえる。 

念願かなってキーを捻ると、炸裂するようなエンジン・サウンドが私に歓迎の意を示した。スロットル・ペダルの反応はすさまじいほど鋭く、フライホイールがエンジンに与える影響は無視できる程度で、カーボン・セラミック製の小径クラッチが回転系の慣性をさらに減少させていた。量産車に初めて採用されたカーボン・セラミック・クラッチは、つながるまでのストロークが極端に短い。当然のように、私はカレラGTのエンジンをストールさせてしまった。ただし、これはごく普通のことである。
 
ここではクラッチの交換に必要となる費用のことを頭から消し去り、エンジン回転数を高めに保って発進すべきだろうか?いや、違う。できるだけ低い回転数でクラッチをつなぐべきだ。エンジンはどこまでも天井知らずで回り続ける高回転型だが、トルクも豊かで、クラッチはほとんど瞬時につながったものの今度はしっかりと発進できた。
 


私がギアを選んでスロットル・ペダルを踏み込んだとき、どちらかといえばためらいがちなエンジン音が聞こえた。これは尋常ならざる事だ。しかし、実際の車両重量では4台中もっとも重いカレラGTだが、発進では重量をまったく感じさせない軽快な身のこなしを示し、あっという間に加速していった。これほど鋭いスロットル・レスポンスは、マクラーレンでもフェラーリでも、パガーニ・ゾンダでも味わったことがない。しかもパワーは留まることなく上昇を続けるので、やがて道ばたへと投げ出されてしまいそうな恐怖を味わうことになった。私はここで理性を取り戻し、スロットル・ペダルを少し緩めることにした。 

6段ギアボックスはこのどう猛さに相応しいものだが、カレラGTが恐怖心を植え付けるのは、シフトレバーを動かし、ペダルを操作するタイミングがドライバーに任されているからだ。シフトパドルもなければ自動で制御されるクラッチもない。シフト中に回転数を合わせるオート・ブリッピングも存在しない。ドライバーは612bhpをダイレクトにコントロールする。0-60mph 加速はわずか3.7 秒だ。
 
左ハンドルのカレラGTに狭い道で乗るなら、ペースを少し落としたほうがいい。やがてあなたは、4000rpm 以下でもV10エンジンは甘美な歌声を響かせることに気づくだろう。もっとも、レヴカウンターの残り半分を駆使すればかつてのF1マシンのような金きり声で全身を包み込むこともできる。ゆったりと車を操る時間が与えられたのなら、ステアリングが恐ろしいほどクイックで、ダンピングは強烈で、ボディは巌にも劣らないほど強固で、タイヤはまるで路面に接着されているかのようなグリップ力を発揮することに深い感銘を受けるはずだ。
 
カレラGTには格納式のリアウィングが装備されているほか、左右ひと組のタルガ・トップも用意されているので、いざとなれば雨の日にも乗れる。しかもエアコン付き。オーナーたちは誰もが長い距離を走行していないようだが、それはカレラGTで味わったスリルが長い間にわたってドライバーの心に留まり続けるからかもしれない。
 
356からカレラGTまで。その間に技術は長足の進歩を遂げたが、見ための点でも車を設計するフィロソフィーという点においても、ポルシェは常に真摯に技術と向き合ってきた。こうしたポルシェのDNAは自然と全モデルに行き渡り、オーナーとの間に交わされた約束は裏切られることがない。ここで取り上げた4 台を見れば、彼らのフィロソフィーがいかにして進化したかを知れると同時に、70 年前にグミュントで誕生した精神がいまも生き続けていることがわかる。
 
ポルシェらしさを1 台で表現するとしたら、この4台のなかからどれを選ぶか? 私の答えは、911RS2.7である。これに異論を唱える人は、恐らくあまり多くないだろう。