星野源×トム・ミッシュ対談 音楽に正直であり続けるための方法

星野源とトム・ミッシュ、この二人の稀代のアーティストの邂逅は必然だったと言えるだろう。共にソウル・ミュージックやヒップホップなどの音楽からの影響を自らのフィルターを通して昇華し、ジャンルを横断するオリジナルなポップ・ミュージックを奏でている。

しかし彼らの共通点はそれだけにとどまらない。今回の対談を通してみえてきたのは、もっともっと彼らの表現の根本にあるものだった。生活と音楽が地続きにあるからこそ、その音に血の通った人肌の温もりが生まれるーー古くからの友人同士のように膝を突き合わせて、夢中になって会話を交わしていた星野とトム。限られた取材時間の中で生まれた笑顔、誠実な本音。その一部始終をここに記録する。



(星野源)Styling by TEPPEI, Hair and Make-up by Go Takakusagi
カバーオール ¥32,000(COSEI/[URBAN RESEARCH 表参道ヒルズ店 TEL: 03-6721-1683) その他スタイリスト私物
Photo by Masato Moriyama

●PROFILE

星野源
1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。2010年、アルバム『ばかのうた』でソロデビュー。2018年、5thアルバム『POP VIRUS』をリリース。2019年2月から3月にかけて自身初となる5大ドームツアー”星野源 DOME TOUR 2019『POP VIRUS』”を開催。8月7日にこのツアーの東京ドーム公演の模様を収録した映像作品『DOME TOUR ”POP VIRUS” at TOKYO DOME』が発売予定。8月30日には主演を務める映画『引っ越し大名!』の公開も予定されている。

トム・ミッシュ
1995年、イギリス生まれ。シンガー、ギタリスト、ビート・メイカー、ソング・ライター、プロデューサー。音楽一家に生まれ幼少期からバイオリンやギターなどを学ぶ。2012年頃からビート・メイキングを始め、インターネットに自身の楽曲をアップロードし始める。2014年に『Beat Tape 1』、翌年には実質的なデビュー作と言える『Beat Tape 2』を発表。2018年、待望の1stアルバム『Georgraphy』をリリースした。今回、日本では東京・大阪の二箇所で単独公演を開催、両公演をソールドアウトさせた。


トム・ミッシュ(以下、トム):その髪型、カッコいいね。

星野源(以下、星野):え、ありがとう。

トム:どんな整髪料で髪をセットしてるの?

星野:ヘア・メイクさんにやってもらったから、僕にもわからない(笑)。

トム:そうなんだ(笑)。


Photo by Masato Moriyama

星野:松重(豊)さんのラジオに出たって聞いたんだけど、どうだった?

トム:あー、源はマツと親友なんだよね。

星野:マツって呼んでるんだ(笑)。そう、Best friend(親友)!

トム:すごくいい人で、話してて楽しかった。彼とはどうやって知り合ったの?

星野:僕が主演の映画に松重さんが出てくれて。その撮影で仲良くなって。『引っ越し大名!』って映画なんだけど。コメディで……なんていえばいいかな、侍が引越しするの。

トム:へー、面白そうだね。そういえば、マツは悪役を演じることが多いって聞いたんだけど、彼は今回はどんな役なの? 悪い侍(笑)?

星野:この映画ではね、いい人。僕の上司の侍の役をやってる。

トム:もう公開されてるの?

星野:これから。今年の夏に公開になるよ。

トム:楽しみだね。


レコーディングとライブ、どっちが好き?

トム:あ、そうだ! 『POP VIRUS』聴いたよ。めちゃくちゃよかった。とても音楽的で。ビートもカッコよかったし、生楽器が効果的に使われてるところがすごく好きだな。

星野:嬉しい。僕もトムと同じで、セルフ・プロデュースでやってるんだ。

トム:え、全部? ビートのプログラミングとかも自分でやってるの?

星野:プログラミングする曲の場合、操作する人は別にいるんだけど、ああやって、こうやってって色々指定して、ディレクションをしながら作ってる。

トム:なるほどね。アルバムの中の曲だと、僕はやっぱり1曲目の「Pop Virus」がすごく好きだな。キャッチーで、すぐに歌えるメロディだよね(ハミングし始める)。



星野:わ! 嬉しい。昨日のトムのライブも本当に素晴らしかった。あれは、いつもやってるライブをそのまま日本に持ってきたの?

トム:そうだね。あのセットリストでこれまで2回ぐらいツアーをやってる。やればやるほどだんだんインプロヴィゼーション(即興)の要素が増えてきてるね。ギター・ソロとかメロディをライブごとに変えてみたりしてる。やっぱり毎回違う要素がある方が演奏してる側はもちろん、観てる人たちも楽しいと思うんだよね。


トム・ミッシュのライブ写真。5月27日、新木場STUDIO COASTにて。(Photo by Yosuke Torii)

星野:ゲストのサックスの人が出てきたときに、トムが座って弾いてたじゃない? あれ、すごくクールだなって思った。

トム:ありがとう。あれはジャム・セッションのリラックスしたヴァイブスを出したくて。腕のいいミュージシャンばっかりだから安心してああいうことができる。でも、今回のツアーからメンバーが少し変わっていて。ドラマーとベーシストとバイオリニストに新しい人を入れたんだ。だから、1週間ぐらいみっちりリハーサルしてから来た。

星野:新しいメンバーだと思えないぐらい、グルーヴがすごかった。

トム:それはよかった。演奏しててすごく楽しいセットなんだけど、結構長いんだよね(笑)。ノンストップで歌いっぱなしだからさ。ちょっと疲れる。源は、どれくらいの長さのライブをいつもやってるの?

星野:このあいだのドーム・ツアーは3時間ぐらい。終わった後は、もう……(疲れ果てた表情をトムに見せる)。

トム:3時間はヤバイね(笑)。ダンスもするんでしょ?

星野:でも、ほとんど自分では踊らないかな。ダンサーがいるから。僕のライブはインプロヴィゼーションの要素は少ないんだけど、バンドのメンバーとかお客さんと心は通わせたくて。ドームツアーでお客さんも多いんだけど、僕もトムみたいに座ったり寝っ転がりながら歌ったりしてたよ。


5大ドームツアー「星野源 DOME TOUR 2019『POP VIRUS』」でのライブ写真、東京ドームにて。

トム:ははは、いいね。源はこの間のツアーは2万人ぐらいの前でやったんだっけ?

星野:東京ドームなら5万人だね。

トム:ワオ……(笑)。緊張したりする?

星野:Little bit(少しね)。 でも、すごく楽しい。トムはレコーディングとライブ、どっちが好き?

トム:その質問、先週、ガール・フレンドにも聞かれたんだけど。

星野:ははは(笑)。

トム:「どっちも同じぐらい好き」って答えた。ライブだとインプロヴィゼーションの余地があるから。どっちもクリエイティブなものだなって思う。彼女はライブの方が好きだって言ってるけどね。スタジオだと飽きちゃうみたい。源は?

星野:僕はどっちかというとスタジオの方が好きなんだけど。ライブは来てくれるファンの人たちと一緒の時間を過ごすことを楽しみにしてやってる。

トム うん。源のいってる意味、わかるよ。


音楽を作るのは好きだけど、生活に影響を及ぼすのは楽しくない

―トムさんは以前、インタビューで「過度に有名にはなりたくない」と仰っていましたよね。かつ、1stアルバムの『Geography』を作り終わった後は「何年間かは音楽なんか作りたくない」とまで思ったとか。今、現在は音楽を作ることに対して、どんな風に考えていますか?

トム:そんなこと言ったっけ……?

星野:あはは(笑)。

トム:いや、でも、そうだね。葛藤は常にあるよ。音楽を作ることはもちろん好きだし、ずっと作り続けていきたいとは思ってるんだけど、たくさんの人に知られることでそれが普段のロンドンでの生活に影響を及ぼすのは、まったく楽しくないね。

星野:わかるなぁ。僕もそれに押しつぶされそうだった。どんどん曲を作って、いろんなところにライブもしに行きたいんだけど。忙しくなればなるほど、自分の生活がどんどんなくなっていっちゃうんだよね。

トム:でも、源はすでにかなり有名だよね。

星野:うーん、でも、日本だけだから。

トム:そうなんだ。

星野:僕も今はトムみたいに普通の毎日を大事にしたいなって思ってるよ。

トム:日本を離れて、もっと静かなところに行きたいと思ったりする?

星野:思う。思うよ(笑)。

トム:そうだよね。今、思い出したんだけど、僕がもう音楽を作りたくないって思ったのは、『Geography』の制作がとにかく大変だったからなんだ。締め切りがキツくて。自分一人で作っていたから、すごく孤独な作業だったし。その時、ロンドンは夏だったんだけど友達はみんな休暇でどっか行っちゃってて、僕抜きで楽しいことしてるし。それで嫌になっちゃったんだよね。でも、今は時間的にも余裕があるし、音楽を楽しむことができていると思う。




Photo by Masato Moriyama

星野:わかるよ。僕もアルバムを作り終わった後は、やりきってすごく疲れてしまって。虚脱感みたいなものがあったんだよね。でも、その後、ライブをやっていく中で自分の音楽が聴いてくれてる人にすごく伝わっている感じがして。

トム:うんうん。

星野:日本人ってあんまり自分の好きなように踊るのが得意じゃないと思うんだけど、僕のライブではお客さんが好き勝手に踊ってくれていて。自分のグルーヴみたいなものがちゃんと伝わってるんだな、音楽って楽しいなって改めて思えたんだよね。心の余裕が出てきた。それで、またやる気が出てきたんだ。

トム:あぁ、そうだよね……。アルバムのサウンドをライブに移し変えることは大変だった?

星野:僕の場合はレコーディング・メンバーとライブのメンバーは大体一緒なんだ。だから、演奏すれば、そのまんまそのサウンドになる。トムの場合は? アルバムは一人で作ってるんだもんね?

トム:そうだね。でも、そんなに悩まなかったかも。『Geography』はライブを想定して作った作品だったから。なるべく曲に含まれる要素をごちゃごちゃした感じにしたくなくて、シンプルに作ることを心がけてたしね。

星野:トムのライブはアルバムの良さがさらに生々しく増幅されて伝わってくる感じがして、すごく良かった。途中でどこにいくのかわからなくなるインプロヴィゼーションの部分とか、エキサイティングで。

トム:うん。予測できない要素があるから、毎晩楽しくライブができるんだと思う。昨日はサックスが参加してくれたけど、いつもと違うミュージシャンが加わると余計にね。もちろん、そういう不確実な部分っていうのはいいところも悪いところもあるんだけどね。「このあいだの方がよかったな」とか正直思うこともたまにあるけど……それがライブの醍醐味でもある。源みたいにアルバムを聴くのと、ライブを観るのとで全く同じ体験ができるような作品を作りたいなってことはずっと思ってる。

星野:昨日もライブの後に言ったけど、曲の途中で急にアイズレー・ブラザーズの「Between the sheets」を織り込んできたの、めちゃくちゃ興奮した。演奏を聴きながら「あ、同じコード進行だ」ってまず思ったんだけど、あそこであの曲がくると思わなくて。あれは前からやってるの?

トム:あの曲、大好きなんだ。クルアンビンっていうテキサスのバンドがいるんだけど、知ってる? 3人組でドラムとベースとギター・ヴォーカルっていう編成で、ヒップホップのメドレーとかをやるんだけどさ。彼らをライブで観て、インスパイアされたんだ。

星野:へー、知らなかった。聴いてみよう。


Logic・エブリデイだよ!

星野:トムが一番最初に好きになったミュージシャンは誰?

トム:レッド・ホット・チリ・ペッパーズだね。(影響を公言している)ジョン・メイヤーは14歳ぐらいから聴き始めたんだ。源は?

星野:実は僕も一番最初に買った洋楽はレッチリ。

トム:マジで? 超いいよねぇ。

星野:最高。あ、でも、やっぱり一番最初に影響を受けたのはすごく小さい時に観た『ブルース・ブラザーズ』って映画かな。アレサ・フランクリンとかレイ・チャールズとかJB(ジェームス・ブラウン)みたいな、いろんなレジェンドたちがいっぱい出ていて。

トム:聞いたことあるけど、観たことない。

星野:コメディ・ミュージカル映画で。それを観て、すごくカッコいいと思って。そこから音楽が好きになったんだよね。


Photo by Masato Moriyama

―星野さんもトムさんもご両親が音楽好きだったそうですが、幼い頃から音楽が常に生活の中にあったという環境はご自身にどのように影響していると思いますか?

トム:僕のお父さんはバイオリンを弾くんだ。だから、クラシックをよく聴いていたんだよね。だから必然的に僕も「お前もバイオリンを弾け」って言われて、仕方なく始めた感じなんだけど。今でも弾いてるから、役に立ってるよね(笑)。

星野:僕の両親はジャズがすごく好きで。若い頃はピアノを弾いたり、歌ったりしてたらしくて。よく家では、モダン・ジャズのレコードがずーっと流れてた。

トム:日本ではジャズを聴く人が本当に多いよね。ジャズそのものじゃなくても、ジャズっぽいものが街にはあふれていて。スーパーマーケットに入ってもジャズ・スタンダードがアレンジされたものが流れてるし。

星野:あははは! 面白いなぁ。あのBGM、ちゃんとジャズに聴こえるんだね(笑)。昔からジャズ・ミュージシャンってよく日本に来てくれるから、親しみが深いのかも。

トム:日本にはジャズが受け入れられる土壌があるんだろうね。

星野:トムはいつからギターを弾き始めたの?

トム:9歳ぐらいかな。姉がいるんだけど、彼女がギターを習い始めて。家にギターがあったから自然と。源は?

星野:僕は中1だから、13歳ぐらいかな。親がクラシック・ギターを持ってて。

トム:じゃあ、爪伸ばしてた(笑)? 

星野:伸ばしてた、伸ばしてた! でも、最初に触れた楽器は実はドラムなんだ。だから、ビートとかリズムが好きで。トムが、ビートを作り始めたのはいつ頃?

トム:16歳の時だね。音楽制作を勉強していて、姉の彼氏に教えてもらったJ・ディラとかそういう時代のヒップ・ホップにハマったんだ。それでLogicを使って、音楽を作る勉強をし始めた。

星野:僕もLogic使ってる。今もトムはLogicを使ってるの?

トム:もちろん。Logic・エブリデイだよ!

星野:Logic・エブリデイ(笑)!


トムがLogicを操作し、バイオリンやギターの生演奏も加工しながら10分間でトラックを制作する様子。英・FACT Magazineの名物企画「Against The Clock」より。

トム:Ableton Liveも勉強したかったんだけど、難しくてさ。外国語を喋ってるみたいな感じで、無理だった(笑)。Logicが一番自分には合ってるかな。

星野:僕もAbleton Liveを買ったんだけど、まだ全然使いこなせてなくて。FL Studioも……まだ全然使ってない(笑)。

トム:ケイトラナダも、そのソフト使ってるよね。彼のあのサウンドはFL Studioじゃないと作れないと思う。

星野:へー。ケイトラナダ、僕も好きなんだ。

トム:あの、アルバムいいよね……なんだっけ。

星野:あー『99.9%』! 最高。



トム:最高だよね! 源はレコーディングはスタジオでやってるの?

星野:そうそう。トムみたいに自分の家で一人で作るっていうのは、デモの録音以外にはあんまりやったことなくて。だから……Logicの使い方を教えて欲しい(笑)。

トム:もちろんだよ!

星野:やった、心強い(笑)。


これまで聴いた音楽から自然と出てくるものがオリジナリティ

トム:「Pop Virus」のビートは、本当にすごくカッコいいよね。プロダクションが丁寧で素晴らしかったし、何より音の選び方がいいなって思った。あと、ストリングスは生だよね? あの音の処理の仕方とか興味深いなって。何回も聴いちゃった。最初にも言ったけど、とにかくキャッチーでいいよね。メロディーが耳に残る。

星野:ありがとう。僕がトムの音楽を好きになったのは『Geography』の音が良かったのはもちろんなんだけど J・ディラやディアンジェロ、ケイトラナダ、RHファクターみたいな人たちの影響を感じさせつつ、自分の音に昇華しているそのトムのセンスが素晴らしいと思ったんだ。コードのチョイスとかメロディの切なさもツボにハマったし。トムみたいにビート・メイカーとギター・ヒーローを両方やってみせる人って僕はあんまり知らなくて。そういう新しい存在が、こういう音楽をやってるってところが僕はすごく好きだなって思った。

トム:すごく嬉しい。源が挙げてくれたアーティストはみんな大好きなんだ。僕はあんまり作詞に自信がなくて。自分のことをリリシストだとは思ってない。歌詞っていうよりはコードやメロディー、あるいはハーモニーにこそ、自分の感情が素直に出てると思うんだ。だから、自分はジャズが好きなんだと思うんだよね。言葉なしで感情が伝わる感じが。

星野:うん、すごくよくわかる。あ、あと、僕はトムの声が大好きだよ! 小さい頃に聴いたチェット・ベイカーを思い出して。

トム:あぁ、それは嬉しいな。僕もチェット・ベイカー大好きなんだよ。彼が今も生きてたらなぁ……。

星野:本当だね……。


Photo by Masato Moriyama

トム:源はライブで演奏していて特に楽しい曲とかはある?

星野:やっぱり「Pop Virus」はやってて、すごく楽しい。お客さんがみんな歌ってくれて。

トム:5万人が歌うんでしょ。すごいね。

星野:ふふふ(笑)。そういえば、さっきJ・ディラとかトムが好きなアーティストの話をしたけど。僕も彼らのことは大好きで。そういう人たちの音に影響を受けて、自分の作品にするときにトムが心がけていることってなに?

トム:うーん、そうだね。あんまり意識はしてないんだけど、音楽をたくさん聴くようにはしてるかな。音楽好きでいることが何より大事で。これまで聴いた音楽の中から自然と出てくるものがオリジナリティだと思う。プロダクションの新しいアイデアとか、新しい音探しとか、そういうものも全部音楽をたくさん聴くことから産まれてくるから。

星野:あぁ、そうだよね。めちゃくちゃわかる。

トム:それと何よりも大切なのは、好きなアーティストたちのやり方をただコピーするだけにならないように気をつけてる。ケイトラナダが楽曲で使ってるテクニックや要素を、そのまんまやったらそれは彼の曲になっちゃうから。例えば、僕はドラム・サンプルとかはケイトラナダが使ってるのと同じものを使うこともあるんだけど、自分の曲に入れるときは全部処理の仕方を変えていて。同じ音にならないようにしてるね。

星野:やっぱり真似はダメだよね。僕もそう思う。自分のフィルターを通して表現しないと。

トム:100%、同意するよ。


Photo by Masato Moriyama

星野:僕は去年、自分のオーディオ・セットを新調して。名盤と言われるレコードばっかり集めてたんだよね。音がいいから。

トム:そういう名盤って、なぜかデジタル・データより音がいいよね。理由はよくわからないんだけど(笑)。

星野:そうそう(笑)。でも、トムのアルバムをレコードで買って聴いたときに、なんていい音なんだろうって驚いたんだよね。プログラミングが中心の音楽で、こんなに生の暖かさと人間味とグルーヴが出るんだって。

トム:ありがとう。源が言ってくれたみたいにエレクトロ・ミュージックが持つ勢いみたいなものは保ちつつ、生楽器の音を活かすことは意識してるな。『Geography』では音に温かみを出すためにレコードやテープの音を再現するためのプラグインは使った。あと80年代の音楽をよく聴くんだけど、アナログ機材を使って録っているあの時代の音は参考にしたね。源はサウンドの研究とかしたりする?

星野:あ、そうそう。僕もね、『POP VIRUS』を作る時にはいろいろ研究した。なぜかミュージシャンの間だけに流通する、とあるソウルの名曲のパラ・データっていうのがあって。そのストリングス・パートだけを聴いて、研究したんだ。「スタジオの広さはどれくらいだろう?」とか想像して、それを参考にスタジオを選んだりした。

トム:すごくいいアイディアだと思う。ってことは『POP VIRUS』のサウンドはソウル・ミュージックのプロダクションの影響を受けているんだね。

星野:うん。日本のスタジオって音が響くところが多くて。ああいう昔のソウル・ミュージックみたいなタイトな音が録れないんだよね。だから、ドラムを録る時もすごく工夫して録ってた(笑)。

トム:あぁ、確かに。そういう音する。最近、イギリスで入ったスタジオにめちゃくちゃ音にこだわるエンジニアがいて。彼は7時間ぐらいマイクのセッティングに時間かけててさ。そのせいで、その日やろうと思ってたことがほとんどできなかったんだけど(笑)。サウンドはもう最高で。ディテールにこだわることって本当に大事だよね。

星野:うん。そういう音楽的な追求とか研究がすごく好きで。いっぱい時間をかけて録音したのが、あの『POP VIRUS』ってアルバムなんだ。

トム:源はラッセル・エレバードってエンジニアを知ってる? ディアンジェロとかRHファクターの作品をレコーディングした人なんだけど。彼はまだ現役でやってて、すごくいいんだよ。ストリングスの処理とかも最高で。気にいると思うなぁ。

星野:手がけた作品は聴いてると思うんだけど、知らなかった。調べてみる!


生活の中にある音楽

トム:源は、SoundCloudとかは使う?

星野:聴くだけかな。アップロードとかはしたことない。

トム:そっか。いや、前はSoundCloudにもいい音源がたくさん上がってたんだけど、最近は全然ダメなんだよね。規制が厳しくなっちゃって。リミックスとかブートレグとか、あと曲作りに使える素材がいっぱいアップロードされてたんだけどさ、コピーライトの問題で全部取り下げられちゃって。昔みたいなコミュニティじゃなくなっちゃった。今はトラップばっかりがアップロードされてて全然よくない(笑)。

星野:ははは。トラップばっかりなのか(笑)。

トム:源はトラップについて、どう思う?

星野:うーん、トラップに一工夫加えられてる音楽は好きなものもあるんだけど……。

トム:だと思った。僕も同じ。あんまりトラップは好きじゃない(笑)。

星野:うんうん(笑)。


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―トムさんは、他のアーティストとのコラボレーションも沢山やってますよね。ご自身のアルバムに収録されている曲でも、例えば「It Runs Through Me」では、伝説的なヒップホップ・グループのデ・ラ・ソウルと共演していて。他のアーティストとの作業はどんな風に進めてらっしゃるんですか?

トム:色々やり方はあるよ。スタジオに一緒に入れるのがベストだけど、デ・ラ・ソウルの場合は彼らにまず曲を送って、ラップをのせて送り返してもらって。それを僕がまた家でつじつまが合うように整えて、何度かやり取りをして完成って感じだった。



―最近だと、ジョン・レジェンドともスタジオに入ったそうですね。こちらはまだリリースされてないそうですが。すごく楽しそうなレコーディングの様子をInstagramで見ました。

トム:ある日、マネージャーから「ジョン・レジェンドとセッションしてみる?」って連絡が来て。「やるよ!」って伝えたら「じゃあ、明日、スタジオ来てね」って言われて(笑)。昔からジョンの曲は姉さんと一緒に聴いてたし、あのぐらいビッグな人とコラボレーションするのは初めてだったから、かなりビビってたんだけど……いいセッションになったと思うよ。

星野:じゃあ、スタジオに入って一緒に曲を作ったんだ。

トム:そうそう。ジョンがスタジオに先に入ってたから、そこに直接行って。ラップトップを出して、まずビートを作ったんだよね。で、それを元にジョンがメロディーのアイディアを出して、歌って。あとは自分の家で整えて、出来上がりって感じだった。一緒にやった曲をアルバムに収録してくれるといいんだけどね。どうなるかはまだわかんない。でも、ジョンは本当に素晴らしいシンガーだったよ。名前負けしてないなって思った。

星野:楽しそう。僕は今までずっと一人で音楽を作ってきたんだけど、やっぱり大好きな人たちとコラボレーションしてみたいって思いもあって。そんなセッションをいつかやってみたいと思ってるよ。

―トムさんは『Geography』の1曲目「Before Paris」で、ロイ・ハーグローヴのモノローグをサンプリングしてますよね。その中には「愛してるからこそ、音楽をやらなくちゃならない。文無しだろうがなんだろうが関係なく、ただ音楽をやるのさ」という一節がありますけど。これって音楽を続けることに対するロイのマニフェストですよね。星野さんとトムさんの場合はどうなのかな、ということを最後に伺いたいです。



トム:うん。そうだね。音楽は何よりも喜びをくれるものだから。新しい音楽を、音を作り続けている限り、ドキドキする気持ちはいつまでも消えない。僕は毎日の生活の中で音楽を作ることしかしてないから。それってもう、仕事っていうよりは生活そのものじゃない。

星野:そういうトムの正直さ、すごくいいと思うな。トムの音楽には生活っていうところにちゃんと音楽が入ってる感じがする。音楽の中に温度があるよね。

トム:うん、源が言ってる通りだと思う。ありがとう。

星野:僕もいろんな時期があって、行き詰まる時もあれば、音楽をやっていろんな人に知ってもらえたことで辛い思いをすることもあったんだけど。でも、それでも音楽が好きだという気持ちと、音楽って楽しいなって気持ちはずっと変わらなくて。やっぱり、これが自分のやるべきことなんだなって。それが自分の音楽への情熱の変わらない大元の部分だと思う。

トム:わかるよ。本当にそうだよね。

星野:今回、トムに会えて本当に良かったです。ずっと会いたいと思ってたから。


Photo by Masato Moriyama


<リリース情報:星野源>

『DOME TOUR ”POP VIRUS” at TOKYO DOME』
発売日:2019年8月7日(水)
Blu-ray初回限定盤(2Blu-ray+ブックレット)7200円+税
Blu-ray通常盤(2Blu-ray)6700円+税
DVD初回限定盤(2DVD+ブックレット)6500円+税  
DVD通常盤(2DVD)6000円+税

〇収録内容
◇星野源 DOME TOUR 2019「POP VIRUS」東京ドーム公演 (2019年2月27日 & 2月28日)
全23曲(特典映像、収録時間などの詳細は後日発表)

星野源 オフィシャルサイト:http://www.hoshinogen.com/


<リリース情報:トム・ミッシュ>


『Geography』
第11回CDショップ大賞・洋楽賞に選ばれるなど、日本でも大ヒットした傑作デビューアルバム。
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=8851



『Beat Tape 2』
元々は2015年にミックステープとして発表された、トム・ミッシュの原点。
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9529