小説家・東野圭吾によるベストセラー小説『パラレルワールド・ラブストーリー』が、実写映画化され、現在公開中だ。最新技術の研究を行う会社で働く崇史(玉森)を主人公に、愛する女性・麻由子(吉岡里帆)が幼なじみの智彦(染谷将太)と恋人である世界と、崇史が麻由子と恋人同士の世界、2つの世界が並行して物語が進み、崇史はどちらの世界が真実なのか翻弄されていく。

1995年に刊行された同作は累計150万部のヒットを飛ばしながら、これまで実写化されたことはなかった。なぜ今同作を実写映画化することになったのか、そしてメインキャストにプロデューサーが感じた魅力とは。松竹 石田聡子プロデューサーに話を聞いた。

  • 映画『パラレルワールド・ラブストーリー』

    映画『パラレルワールド・ラブストーリー』 (提供:松竹)

■常に誰かが映像化に挑んでいた

――どうして今、『パラレルワールド・ラブストーリー』を実写化されたのですか?

20年くらい前の原作ですが、常に誰かが映像化に挑んでいた作品です。それでも誰も完成に至らなかったのは、2つの世界をどのように絶え間なく行き来させながら映像として見せていくか、その中に3人のメインキャラクターの感情をどのように入れ込んでいくか、という根本的な部分がとても複雑でバランスが難しい作品だったためではないかと思います。一方で、映像で見せたときに、本を読んで感じるものとは別の、心の中や肌で感じる”ざわざわ”とした感覚を作り出して、原作の世界を広げられると思いました。

2つの世界の描き分けには工夫が必要で、どこまで何を見せるのか、やってみないとわからないところがありました。脚本制作の段階だけでなく、仕上げに至るまで森監督や各部署のスタッフ達と何回もスクラップ&ビルドを重ね、最終的には余計なものは削ぎ落としきった形で作品を仕上げました。あえて混乱を残した部分もありますが、最後は画から放たれる空気感と役者の表情や演技に委ねるつもりで、世界観を作り上げることに注力しました。本当に挫折しそうな時も何度かあったのですが、最後は意地みたいなところもあったのかもしれません(笑)。

――挫折しそうなのは、どの段階だったのでしょうか?

特に脚本は大変でした。色々な方法でのアプローチを試し、話し合いを重ねました。原作がいかに素晴らしくても、脚本がうまくいかなかったらやめよう、という覚悟ではありましたが、さらにその先に映像となった時にどう見えるだろうか、という不安もありました。ただ、その大きなチャレンジがあったからこそ、キャストやスタッフも含め、全員で同じ方向に進んでいけたと思います。

――ほとんどが玉森さん、吉岡さん、染谷さんでまわっていく物語だと思うのですが、どういう意図でキャスティングされたんですか?

玉森さんは森監督が一度お仕事されたことがあって、「アイドルという仕事をしながらも、どこか憂いや影を感じる佇まいが気になる」と。笑顔の時にも、その裏にいる彼をもう少し覗いてみたくなる、そんな求心力のある姿が崇史に重なりました。

森監督からも、玉森さんを中心においた三角関係を作り上げる中で「あえてアンバランスな方が面白いんじゃないか」という話がありました。特に親友の智彦は「玉森さんと接点がなさそうに見える人がいいね」と。染谷さんは同じ芸能界にいながらも、玉森さんと全然違う畑で自分の足跡を残してきた方で、2人が並んだ時の「どっちにどう転ぶかわからない」という関係性が面白いのではないかと、お願いすることになりました。

ヒロインは「できれば、色のついてない女優さんがいい」という話から、吉岡さんの名前があがりました。朝ドラ『あさが来た』や『カルテット』で活躍はされていたし、その後も主役が続く時期ではありましたが、今までにないような役の中で、かなり自分をさらけ出していただいたと思います。3人のキャスティングがはまったところから、ようやく作品のカラーが定まったように思いました。

――2つの世界を行き来するということで、キャストのみなさんの演じ分けも大変だったのではないでしょうか。

監督は「崇史の表情で、どっちの世界かわかるというところまでもっていきたい」とおっしゃっていましたが、皆さん本当に大変な作業だったと思います。玉森さんも約4年ぶりの映画でしたが、「監督に全て捧げます」という姿勢がすばらしかったです。一見「嫌なやつ」に見えてもおかしくない役について、玉森さん自身は「純粋」と捉えていましたが、実は脚本でも崇史の麻由子への思いを一番重要視していました。どちらの世界でも、唯一崩れないのが、崇史から麻由子への思いなんです。

麻由子が撮影に合流した日の夜に、玉森さんとも「やっぱり、麻由子への気持ちが、崇史をつないでいる鍵だね」という話をしました。ご自身も、その気持ちをすごく大切にして演じられてたのではないかなと思いました。

――崇史と麻由子のラブシーンも熱がこもっていて、すごかったですよね。

唯一はっきりとお互いが自分の気持ちを開くシーンですから、「情熱的にやろう」ということで、2人ともがんばってくれました。麻由子は全編を通して、自分の気持ちに鍵をかけているような役でしたし、気持ちを発散できるシーンが少なかった中で、吉岡さんも辛い現場だったと思います。2回目に観るときは、ぜひ麻由子の視点から彼女の愛を感じて観ていただきたいですね。

■まさかの鼻血に現場は驚き

――玉森さんは、染谷さんと対峙するシーンで鼻血を出してしまった、という話も話題になっていました。

そうなんですよ! きっと、テンションが高ぶってしまったのだと思います。智彦とのとても重要なシーンでしたし、染谷さんの迫真の演技に応えようとされていたのかな。本当に、「えっ」と思った瞬間に、血が……という感じでした。染谷さんも驚かれて、監督は一瞬そのまま撮り続けようと迷ったそうですが、さすがにカットをかけました(笑)。

玉森さんと染谷さんは、2人ともあまり多くを語らないのですが、気持ちの上では通じ合っていたのではないかと、現場中に何度も感じる瞬間がありました。染谷さんが撮影に入る前日の夜、森監督から「本読みをしよう」と提案があったんです。ただ、すぐに本読みに入るのではなく、そこで、森監督が「親友ってなんだと思う?」と2人に聞かれていて、互いに「友達とはどういう存在か」「親友はいる?」と、それぞれの「友達」観を共有できたことが、後の撮影にもいきていた気がして。とても穏やかないい時間でした。

現場では、2人ともマイペースなのか、黙って何をするでもなくその場にいる感じが印象的でした。そこはかとなく、信頼している感じも漂って。玉森さん本人は、「ふだん(Kis-My-Ft2の)メンバーが賑やかだから、自分がしゃべらなくてもいい」と言う話をされていましたが、染谷さんとの間にも、何かそのような気負いのない、いい空気が流れていました。

――今回は、鑑賞後の方を対象にしたシークレットサイトも公開されるんですよね。

キーワード制のサイトを作っています。今回の映画は2回目の鑑賞でも、より楽しめるのではないか、ということを打ち出していますが、複数回見ていただく際の注目ポイントや、謎の解明に役立つヒントなどを載せています。宣伝の際には、ネタバレに気を使っていまして、キャストの方々や監督にも「これは言わないでください」といういくつかのワードをお伝えしていましたが、シークレットサイトではそれらを全面開放しつつ、映画の中の疑問が少しでも解消できたらと思っています。

映画をご覧になる皆さまも、ぜひ作品のなかで、崇史という主人公が迷い込む世界を共に体験していただきたいですし、見るたびに印象が変わる作品だと思いますので、何度でもこの作品を楽しんでいただけたら嬉しいです。

■石田聡子 プロデューサー
映画プロデューサー。主なプロデュース作品として、『リトル・フォレスト 夏・秋/冬・春』『紙の月』『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』『クリーピー 偽りの隣人』『PとJK』『空飛ぶタイヤ』『虹色デイズ』など。

(C)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」 製作委員会 (C)東野圭吾/講談社