モンキー・パンチ原作の漫画『ルパン三世』。アニメも1971年放送の第1シリーズを皮切りに、今もなお断続的にTVシリーズや劇場版などが制作され続け国民的な作品となっているが、そのパブリックイメージより大変ハードボイルドな作風で制作されているのが、小池健が監督を務める『LUPIN THE IIIRD』シリーズ。

  • 栗田貫一

    栗田貫一(くりたかんいち)。1958年3月3日生まれ。三木プロダクション所属。平成7年より『ルパン三世』ルパン役の声を担当している
    撮影:稲澤朝博

その最新作『峰不二子の嘘』が、5月31日より限定劇場公開中。本作ではタイトル通り峰不二子にフォーカスを当て、父親が5億ドルを横領した少年・ジーンとの、呪いの力を持つ殺し屋・ビンカムからの逃亡劇を中心に物語が展開していく。今回はそのなかで、ルパン三世を演じる栗田貫一へのインタビューを敢行。彼の立場から改めて見えた峰不二子の魅力や、このシリーズならではの演じるうえでのポイント等を語ってもらった。

■ワルだけど、そのぶん純粋な心に弱いのも不二子という女性

――今回の『峰不二子の嘘』、最初に脚本を読まれたときどう思われましたか?

やっぱり、沢城みゆきが不二子という人物を、本当に自分のものにしていて、すごいなって思いました。増山江威子さん(※先代の峰不二子役)とは全然違うんですが、完全に不二子。その“沢城不二子”の持つ重さみたいなものを、脚本を読んだときにものすごく感じたんですよ。エグいっていうのかな? ドロドロした本質の不二子の持ってるワルな部分とか。でもそのぶん、マトモな愛とか純粋な心とかに弱い……っていう面を今回出したんだなと感じました。

――ルパンと次元が狙っている獲物のもとに先んじて不二子がいるという構図が、いわゆるTVシリーズなどにも近いように感じました。

まぁ、近いですよね。でもやっぱり不二子ちゃんがメインの作品なので、峰不二子が何を狙ってどう動いて何をするか? というところが、ワクワクするところだと思いますね。

――栗田さんご自身として『峰不二子の嘘』のなかで印象に残っているシーンはどのようなものですか?

やっぱり終盤の不二子ちゃんとの……何か恋愛的なものがあったのかわからないけど不二子に翻弄されて、肩を貸してあげようとするシーンでの男女の駆け引きというか。そのなかで、「はっ……そういうことか……」みたいに、ちょっとがっかりしてるけど少し大人なルパンがいる。そういう場面は、いいなって思いましたね。

――不二子とビンカムの命をかけた戦いのあとにそのシーンがあるというのも、コントラストがよくて。

そうですね。それに、今回は結構タバコがポイントになっているかもと思って。前半では不二子とルパンが一本のタバコを回し吸って、そのタバコで心の動きがわかるようなシーンもあるし。ルパンが車の中で、次元に「今回はこれしかないぜ」とタバコを出すんだけど、次元は次元で「それでいいよ。お前も物好きだな」みたいな言葉を返す。あの男同士のシーンは、(小林)清志さんの芝居がかっこいいなぁって思いました。

■宮野くんが、ビンカムという存在をオンリーワンのものにしてくれた

――本当に長い関係だからこそ、通じ合っている感というのが見えるシーンでもあったと思いますし。

そうですね。残念ながら、(石川五ェ門役の)浪川(大輔)ちゃんは出てないんだけど(笑)。それにとっつぁん(銭形警部)もいないから、録音のスタジオもずいぶん空いてたように感じた。逆に前回の『血煙の石川五ェ門』のときに、五ェ門を襲うヤクザ役が40人ぐらいいたっていうのもあって。

――シーンごとに出番が割り振られていたんですか?

そうそう。普通そういうシーンは全員まとめて録音したりするもんだけど、本当に一人ひとりの配役が全部決まっていて、スタジオに入り切らなくて。それと比べたら、今回はすごく少なく感じるよね。

――ビンカム役の宮野真守さんも。

うん。宮野くん、強烈だねぇ。いきなり「ビンカムってこうだよな」っていう声を出してくれたから、やっぱり一流な人なんだなって。……でも考えてみたら、うちのメンバーも、強烈一流しかいないよね(笑)。もちろん納谷(悟朗。先代の銭形警部役)さんとか増山さんや井上(真樹夫。先代の石川五ェ門役)さんも超レジェンドですけど、今のメンバーだって、30代のレジェンドの沢城と、40代の浪川と、50代の山寺(宏一。現・銭形警部役)……みんな超レジェンドだもんね。彼らは彼らで納谷さんたちのことをそう思ってるからすごく謙遜するんだけど。

――中盤には、そのビンカムとルパンが対峙するシーンもありました。

うん。「俺の女を狙うんじゃねぇ」とかビンカムに言ったりして。でもあれを演じている間も“ルパンとビンカムの戦い”という意識だけ。宮野くんは横にいるんだけど、全然意識せずにビンカムと戦う事ができました。

――そのビンカムというキャラクターへは、どんな印象を持たれましたか?

ビンカムねぇ……あれは人間だったのかな? 未だに僕はわからないんだけど、でもあれはもう“ビンカム”っていう種類の生き物だから、わかんなくてもいいのかな。そう思うぐらいに宮野くんが、存在感を出してくれたなって思います。