拡大続ける音楽フェス事業、進化の鍵はデータ収集と顧客分析による「カスタマイズ」

熱烈な音楽ファンのやるべきリストは、以前よりも選択肢が増えた。コーチェラ、ボナルー、ロラパルーザにガバナーズボール、あるいは星の数ほどもある似たり寄ったりの巨大音楽フェス。だが、カリフォルニア州インディゴでカントリー版コーチェラフェスとして行われたステージコーチ・ミュージック・フェスティバルに行った人々は、今年はいつもと違うもてなしを受けた。

先月、ステージコーチ・フェスの参加者のうち約20パーセントが、安いチケットのアップグレードや関連グッズの特別販売、ルーク・ブライアンやレナード・スキナードといったアーティストのステージ中に配布される限定ディスカウントといった特典を携帯メールで受け取った。100ドルのVIPチケットへのアップグレードを手にした観客もいた。こうした特典は無作為にばら撒かれたわけではない。もっとも熱心かつ忠実なファンを特定すべく、ステージコーチの親会社AEG Presents社の精鋭チームが何カ月もかけて行った、詳細なデータ収集と分析のたまものだ。

2017年、世界的エンターテインメント企業AEGグループ内での存在意義を高めようという動きから、AEG LiveからAEG Presentsに社名変更した。同社は毎年1万以上のイベントと30以上のフェスティバルを主催している。飽和状態にある昨今のライブイベント市場で幅を利かせるLive Nationやその他大手興行会社同様、彼らも均一化という問題に直面している。

「誰もがInstagram用に同じような写真を撮影して、同じようなグッズを買って帰ります」と言うのは、AEG Presents社のデジタル主任を務めるブルック・マイケル・ケイン氏。ステージコーチ・プロジェクトのリーダーでもある彼女は、ローリングストーン誌の取材にこう答えた。「我々は毎年、『どうすれば進化できるか? 自分たちが望むもの、他人に伝えたいと思うものがここにあると顧客に感じてもらうにはどうすればいいか?』といった大きな課題に直面しています」

ケイン氏はApple MusicやBeats、Interscope Recordsなどでデジタルマーケティング部を率いた後、2016年、新設された現在のポストに就任した。彼女は昨年末、AEG社内やAEG傘下のGoldenvoice社からプロダクトマネージャーやアナリストを集め、6人からなるチームを結成。さっそくコンサートの参加者を「あっと言わせ、喜ばせる」ための新しいアイデア作りに取りかかった。数々の戦略を検討した結果、熱心なファンに突然ショートメッセージを送り付けるというアイデアにたどり着いた。「あれはまさに、ピーン!ときた瞬間でした」 とケイン氏。「我々が考えていたのは、『どうすればファンの履歴を活用して、彼らが欲しがると思われるものを与えることができるのか?』ということです。この戦略がユニークなのは、観客から贔屓にしてもらおうとするのではなく、観客に還元して、我々のほうが観客を贔屓にするという点です」


プロジェクトをまとめるのは至難の業だった。コンサートチケットや関連グッズの購入履歴は顧客データの宝庫だったが、どれも複数の販売業者の手元に散乱している状態だった。オンライン・チケット販売業者のもとにはコンサートチケットの購入履歴がすべて蓄積されているが、各会場での消費動向とは連動していない、といった具合。つまり、ケイン氏率いるチームは、ITパートナーの助けを借りて、何カ月もかけてAEGネットワークを総ざらいし、情報を一元化したデータベースを構築しなくてはならなかった。「データの分析だけでもかなりの仕事量でした」と彼女は言う(個人情報保護法にのっとって、同社では自社所有、または自社管理の情報データのみを収集した)。

消費者行動商品開発マネージャーやチケット販売ディレクターも通常の業務を離れて、アルゴリズム構築に協力してくれた。全社から集めた履歴データに基づいて、個々にカスタマイズしたメッセージをプッシュ通知でリアルタイムに送信するアルゴリズムだ。たとえば、2年連続でスタンダードなチケットを購入したファンには、100ドルの「バックステージパス」を進呈する。コンサートのたびに毎回Tシャツを購入する人は、1枚買うとさらに2枚Tシャツがもらえる特典がもらえる。

今日、ライブイベント業界ではカスタマイズが最重要キーワードになっている。なにしろ市場は、買い手も売り手もわんさとあふれかえる時代なのだ。調査会社ニールセンによると、アメリカ国民の52パーセントが毎年何らかの音楽イベントに参加しているが、そのうちフェス参加者の数は2017年の18パーセントから、2018年には23パーセントまで増加した。フェスティバルの中には、アーティストにラインナップ編成を任せたり、ラインナップの事前発表を行わないなど、「特別感」を売りにしているところもある。外部ブランドと組んでカスタマイズ機能を盛り込み、他との差別化を図っているところもある。

ニールセン社の調査によれば、ライブの参加者がチケット代に払う価格は平均247ドル。こうした人々の23パーセントは、インターネットでグッズも購入していることが判明した。

ケイン氏は具体的な収入額についてはコメントを控えたが、チームはステージコーチの取り組みが「予想をはるかに超える成功を収めた」と評価していると述べ、AEGは今年予定されている他のフェスティバルやイベントでもこの戦略を採用するだろう、と仄めかした。ただし、顧客情報のデータベースはイベントのたびに、各関係業者からの情報にもとづいてその都度構築しなくてはならない。「我々が作り上げたのは『みなさんがどこにいるか、何を欲しがっているのかお見通しですよ』という技術です」とケイン氏は言う。「簡単に聞こえるかもしれませんが、まだ他の誰もやっていません。画期的ですが、崩壊する可能性もある。全く新しい顧客分析の技術なのです」