ザガートが手がけたアストンマーティンの価格高騰

V8 ザガートのデザインがいいかどうかは好みの問題だが、このモデルのファンと意見交換をして明確になったことがある。ザガートはコーチビルド界のジミー・ヘンドリックスなのだ。クラシカルな作品を生み出す才能を持ちながら、実験的な作品が多いエキセントリックな存在。一番のポイントは、ほかと同じ尺度で測ってはいけないという点だ。
 
ザガートの個性的なスタイリングに対する評価は非常に高く、従って、その車も型通りの評価を受け付けないのである。ヘンドリックスの曲にいいも悪いもないのと同じで、ザガートの作品にいい車も悪い車もない。あるのは偉大な車と興味深い車だけだ。そのすべてが重要と考えられており、故にオークションでは"天才プレミアム" が上乗せされる。
 
ザガートが手掛けたアストンは以前から高い人気を誇るが、ベースとなったモデルとの差がここ数年で拡大している。DB4 GTの場合、標準モデルでもアストンのエンスージアストにとっては"聖杯" で、万が一にもコンクールクラスのものがオークションに出品されれば300万ドル近い値が付く(復刻版の登場で価格に影響が出るかどうかは興味深いところだ)。これでも莫大な金額だが、ザガートボディの14 台目に比べたら微々たるものだ。2015 年にニューヨークで開催されたRM サザビーズのオークションでは1430万ドルで落札されている。 

一般的なモデルではこの差がさらに極端になる。たとえばDB7は、ヴァンテージ仕様であってもいまだに手が届く価格帯だ。ちょうどバロンズのオークションに2000 年のDB7 が出ていたが、走行距離が多く、少々手を加える必要もあったので、推定落札価格は1万9000 ~ 2万2000ポンドだった。ガレージで保管されていた箱入り娘でも、この2倍程度で手に入る。では、ザガートが魔法の粉を振り掛けるとどうなるか。

アメリカ市場向けにザガートが手掛けたオープントップのDB AR1も、ここのところ高級オークションの常連で、やはり高値が付いている。2017年1月にはフェニックスでのRM サザビーズのオークションで、37 万9500ドルで落札された。入札者を惹きつけたのは、わずか800 マイルの走行距離だろう。それとも、トランクに収められた未使用の傘2本だろうか。これも貴重なコレクターアイテムなのだ。
 
高額落札が飛び出すと、同じモデルが続々と出てくるものだ。2016 年9 月にV12 ザガートの26 台目が65 万5200ポンドで落札された。これを受けて、今度はナンバー"ゼロ"(オーナーの希望で付けられた名前)が、オークションに掛けられる史上2 台目のV12 ザガートとしてパリのRM サザビーズに登場した。
 
本物のスカラベの羽で装飾されたエンブレムなど、ディテールまでワンオフの1 台である。落札価格は驚異の75 万400 ユーロだった。これは新車の販売価格の2 倍に上る。One-77と同様V12 ザガートも、発売後に一旦は価値が下がるという常識を覆している。
 
もっと以前のザガートモデルの価値は、コレクターカー市場全般をほぼ追随する形で推移しているので、市場が落ち着くにつれてある程度は頭打ちになるはずだ。ただし、ザガートモデルと標準モデルの差がすぐに縮まることは期待できない。今の世の中、いい商品のプレミアムが下がることはないのだ。