• 玄理

――玄理さんは韓国の演技学校に通っていたことがあって、韓国語の演技はそこで相当鍛えられたそうですね。実際にやってみて、ギャップはありましたか?

日本語ほど、セリフがスムーズには入ってこない。日本語の方が母国語で、日常使っている言語なのでそういう苦労はありました。でも、すごく楽しかった。アメリカの作品のオーディションでもそうだったのですが、何かが不自由な方がやりがいがあるというか。ルーティーンにならない感じが、すごく楽しいんです。

――「不自由さ」を自分の中に引き込む。玄理さんの核の部分のような気がします。

演技学校時代、韓国語はそこまで得意じゃなかったので、「不自由」が演技の出発点でした。先生から当時言われて覚えているのが、「発音は完璧じゃない。でも、セリフからその情景が誰よりも頭に浮かぶ」と。「単語1つ1つの意味を調べてるでしょ?」と聞かれて、確かにそのとおりでした。単語の意味が分からないから、それぞれ調べて、単語の意味を認識しながらセリフを言ってたんです。「それが大事だと気づくことができた」とまで言われたのは、たぶん先生が褒め上手だったからなんですけど(笑)。そういう不自由さから始めたので、2倍頑張らないといけない状況が楽しいのかもしれません。

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――どのような役でもそうやって向き合っているんですか?

分からないことがあったら必ず調べています。この前、何かで読んだのですが、そこには「何事も準備が9割」と書いてありました。芝居もそうなのかなと思っていて、でも準備にあたる「役作り」をしなくてもすばらしい演技をされる俳優さんもたくさんいて。役作りは、「自分に言い訳ができないくらい準備をした」ということだと思っています。あとは、その場で頑張るしかない。役作りをしたことを思い返しながらお芝居をするわけではありませんが、「これだけやったから大丈夫」と自分が安心したいだけなのかもしれません(笑)。

――そこには正解も不正解もなく、各々のやり方というわけですね。

そうだと思います。私は準備は絶対します。役に選んでいただいて、そこに至るまでにはいろいろな方が関わっているので。

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■「準備が9割」を心掛けている理由

――役者同士でこういうことを話すことはありますか?

あまりしないかもしれません。でも、『ミストレス』に出演するにあたって、全10話の連続ドラマでここまでメインをやらせていただくのはほとんど初めてで。映画は役を引き受けた段階で台本が完成しているので、どういう結末に向けて物語が展開していくのかを理解した上で現場に入ることができます。でも、ドラマは撮影が始まる時には1話か2話ぐらいまでしか用意されていないことも多くて。ざっくりとした結末は聞かされていても、例えばそこに至るまでに登場人物がどのような選択をしていくのかでパーソナリティが見えると思うんです。そこについては周りでドラマによく出る友達にたくさん聞きました(笑)。

――どのような情報が得られましたか?

事前にプロデューサーや監督に聞いたり、自分の中で「きっとこういうことだろう」と決めてやっていたり。その上で予想外の展開になった時は、「そういう選択もあるのか」とポジティブに受け入れるそうです。確かに、違和感があって立ち止まっていても、撮影は進んでいきますからね。終盤にきて、深く考え込まずに「きっとこうなる」と受け入れることにも慣れてきました。

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――現場の雰囲気がとても良いそうですね。

長谷川(京子)さん、水野(美紀)さん、大政(絢)さん、みなさんとても気さくな方々なんです! 女子会のシーンは1話につき1回ぐらいしかないのですが、撮影で全員が揃う日はウキウキしながら現場に入っています。撮影の合間の会話が楽しすぎて、思い出し笑いしたり(笑)。

――ドラマはネタが渋滞しているのではと心配になるくらい、4人に様々な出来事が降り 掛かってきます。

1人の話で連ドラ1本できそうですよね。長谷川さんがサスペンス、水野さんは最初はホッコリ、大政さんはLGBT、私はオフィスラブや夫婦問題と、見どころが詰まったドラマです。事前にBBC版を観て監督と打ち合わせをしてから台本をいただいているので、1度の裏切りによってそれが愛ではなくなるのかとか、すごく考えることが多くて……。

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――玄理さん演じる冴子は、夫・悟史(佐藤隆太)から子どもが欲しいと求められるも、仕事を優先したい冴子とすれ違いに。そして、冴子は一度、過ちを犯してしまいます。

裏切られた側からすると、それは愛ではないのかもしれない。でも、冴子はずっと悟史のことを大好きで。このような問題に対して、それぞれのカップル、夫婦によっていろいろな答えがあると思います。別れる男女が大多数だと思うんですけど、別れないことが本当の愛かと言われると、そうでもないような気も……正解は1つじゃないと思いますが、台本を読みながら冴子と向き合っているんですけど、未だに答えは見つかっていません。

――今回のドラマが、深く考えるきっかけになったんですね。

「裏切り」についてすごく考えるきっかけになりました。自分がちゃんとしているというつもりは全くないのですが、男性や友達との付き合いでも自分が原因で裏切ることはなかった。「しくじり」みたいなことをわりと避けてきたタイプなので、こんな事態になったら自分はどうなるんだろうかと。誰しも、可能性はゼロではない。1つ嘘をつくと、雪だるま式になるから、嘘がない状態でいられるように心掛けないといけないですよね(笑)。

玄理

――そこを第三者視点でのぞくことができるのも、ドラマの醍醐味ですね。

そうですね。やっぱり、ドラマの魅力の1つは「他人事」であること。思う存分、楽しんでいただきたいです。

――『薔薇とチューリップ』では、「才能とは」「“好き”だけでは仕事は成立しない」などがテーマとなっていて、昔に比べて最近では、「好きなこと」「やりたいこと」をそのまま仕事にしている人も増えているような気がします。玄理さんは、今年はNHK連続テレビ小説『まんぷく』に出演するなど、大きな仕事もありました。あらためて、「才能」と「好きなこと」についてどう感じますか?

自分に才能があるか、全然分かりませんが……褒めてもらえると心底うれしいんです(笑)。ただ、やればやるほどすごい芝居をする人がいすぎて、いつも「これでいいのかな」と自問自答しながらやっています。「準備が9割」を心掛けているのも、後悔をしたくないから。結局は、「もっとできた」と思ってしまうんですけど、期待してくれた方々にも後悔はさせたくない。そうやって悩みながらも続けられるのは、演技をすることが好きだからなんだと思います。

■プロフィール
玄理
1986年12月18日生まれ。東京都出身。中学校時代にイギリスに短期留学。青山学院大学在学中に、韓国延世大学に留学し、映像演技を専攻。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年公開の主演映画『水の声を聞く』で、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受 賞。2017年ソウルドラマアワードでアジアスタープライズを受賞した。これまで『駆込み 女と駆け出し男』(15)、『天国まではまだ遠い』(16)、『後妻業の妻』(16)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『こどもつかい』(17)、『パーフェクトワールド』(18)などの映画、『フリーター、家を買う。』(フジ系・10)、『八重の桜』(NHK・13)、『相棒 Season14』(テレ朝系・15)、『精霊の守り人 シーズン2』(NHK・17)、『きみはペット』(フジ系・17)、『ウツボカズラの夢』(フジ系・18)、『女子的生活』(NHK・18)、『まんぷく』(NHK・19)などドラマに出演。NHKドラマ10『ミストレス~女たちの秘密~』(毎週金曜22:00~)放送中、野口照夫監督『薔薇とチューリップ』公開中。