もうまもなくIPOと言われる米Slack Technologies。ビジネスチャットと思われがちだが、外部アプリケーションとの統合など「ハブ」戦略を進めている。Slackが4月に米サンフランシスコで開催した年次イベント「Slack Frontiers 2019」で、開発者リレーション担当ディレクターのBear Douglas氏に、Slackの新機能や目指す方向性について話を聞いた。

  • SlackのBear Douglas氏。開発者リレーションとして、Slackのユーザー企業や、Slackとの統合を構築しているパートナー企業の開発者にツールの構築、支援プログラムなどを展開している

Slackは開発者に人気のメッセージアプリケーションと考えられています。Slackの位置付けについて教えてください。

Douglas氏:意図したわけではないが、開発者から人気に火がついた。だが現在はここから発展して、マーケティング、営業、財務など他の部署の人にもSlackを使って何ができるのかを知ってもらう取り組みを進めている。業界も、これまではテクノロジー業界が中心だったが、拡大を図っている。これらの取り組みは成功している。

具体的なアプローチとしては、エンジニアなどすでにSlackユーザーが享受している一部のメリットを取り出して、これをエンジニアの背景のない人にも理解してもらう。開発者は数年前からSlack上にアプリを構築して、そこからたくさんのバリューを得ている。多くの開発者にとってSlackは標準となっており、開発者以外の人にもSlackは様々なツールと接続したハブであることを見せたい。

例えば、各種カレンダーツールと統合できるし、マーケティングならMarketo、Google Analytics、Salesforceなど、その分野でよく使われているツールとの統合を進めている。これにより、これらアプリケーションとSlack、両方を使うユーザーにメリットがある。Slackの採用、そして活用が増えるだろう。

現在、「Appディレクトリ」には1500以上のアプリがある。これはSlackが承認したアプリであり、これ以外に開発者や企業が社内用に構築するカスタムアプリも多数開発されている。使われているアプリは毎週42万に及ぶ。カスタムアプリはSlackが公開するAPIと開発ツールを利用してカスタムアプリを構築できるもので、例えば日経新聞では、記者が現場からSlackに記事を書き、撮影した写真を加える。編集者がこれにチェックをつけると、パブリッシュできるようにしている。Nvidiaでは、Slackからロボットにメッセージを送ると、ロボットがポップコーンを持ってきてくれるポップコーンロボットを作成している。Nvidiaは社内でのロジスティックを技術により効率化しようとしており、このロボットはその一環となる。

このように、Slackをカスタマイズして使っている企業は増えている。

カスタムアプリの強化を進めており、Pythonなどでコードを書いている開発者向けのヘルパーツールがあるが、アプリケーション構築をさらに効率化するフレームワーク「Bolt」を発表した。これによりさらに高速に、簡単にカスタムアプリを構築できるようになった。

最新の機能強化について教えてください。

Douglas氏:Slackの方向性は、Slackでもっと多くのことをできるようにすることだ。そこで、開発者ではない人が他のソフトウェアとSlackを統合したり、Slack内で一部のプロセスを自動化できるワークフロービルダーを発表した。例として、新しい人がチームに加わると、ウェルカムメッセージを送ったり、会社が用意しているガイドなどのリンクを送ったり、数日後に順調かどうかを尋ねるなどのことを自動化できる。このようなワークフローはこれまで開発者が構築していたが、ワークフロービルダーを利用すれば、開発者ではない人でも構築できる。

最初のバージョンでは、Slack内での自動化が可能で、将来的には他のソフトウェアもトリガーにできる。将来的には、AtlassianのJiraを組み込んだワークフローを作成し、セキュリティトレーニングを受けたらノートPCを支給する、などのことが可能になる。この機能は、Slackをハブにするという点で重要になる。

電子メールとの連携も強化しましたが・・・

Douglas氏:全員がSlackを使っているのが理想だが、電子メールとのブリッジも実現する。まだ全員がSlackではない場合でも、Slackのインビテーションが送られている相手なら、@をつけることでSlackからメッセージを送ると相手はメールでメッセージを受け取る。相手はそのメッセージにメールで返信すると、こちらはSlackで受け取るというものだ。

これにより、コミュニケーションをさらにスムーズにできる。自分が前に勤務していた会社は、全員がSlackユーザーではなかったので、違う部署とのやりとりでは電子メールに切り替えるなど面倒を感じていた。今回のメールとのブリッジ機能により、Slackユーザーもメールユーザーもストレスなくコミュニケーションやコラボレーションができる。

コミュニケーションを円滑にするという点では、共有チャンネルも新機能となる。取引先、あるいは顧客などとチャネルを共有するというもので、チャンネルを行き来することなく、Slackを使ったコラボレーションが実現する。

日本は米国に続いてSlackが活発に使われている市場です。日本の特徴はありますか?

Douglas氏:日本ではアプリの使用が非常に多く、東京はSlackの開発者人口が最も多い都市だ。これが日本のSlack利用に反映されており、たくさんのアプリが使われている。リアク字も人気で、カスタムのものがたくさん生まれている。

CEO(Stewart Butterfield氏)はプラットフォーム戦略を重視しており、日本市場でSlackが使われていることも理解している。実際、開発者コンテンツを日本語に翻訳するというのは、CEOの推奨があって進んだ作業だ(すでに日本語化されている)。

開発者のコミュニティ活動としてSlack Platform Communityを作成しており、年内で東京、できれば他の都市でもコミュニティのミートアップを開催したいと思っている。

コラボレーション市場は多数のベンダーが参入しています。競合はどこと認識していますか?

Douglas氏:「Microsoft Teams」が最もSlackと似ている製品。Facebookも「Facebook Workspace」を持つが、投稿とグループにフォーカスしており、想定しているユーザーの行動がSlackとは異なる。

そのほかにも、コラボレーションの機能はたくさんあるが、本当にコラボレーションを実現しているものとなると少ない。Slackは独立したコラボレーションツールであり、コラボレーション強化に専念している。

その上で、タスク管理ではその分野に優れたAtlassian、などと提携を進めている。これによりSlack顧客はベスト・オブ・ブリードの環境を構築できる。

目指すのは、そこで仕事ができるという存在になること。さまざまなソフトウェアとの統合を実現しているが、目的は全てがSlackということではない。Salesforceはパワフルなツールで、複雑なダッシュボードなどを作成できる。これをSlack内で実現し、これを共有したり、これについてディスカッションするなど他の人とのコラボレーションが必要な時にSlackを利用できる。コラボレーションハブという位置付けだ。

優先的に取り組んでいることは?

Douglas氏:Slackプラットフォームはモダンだが、これをもっと容易に使えるようにする。すでに他のサービスからのアラートをSlackにピングし、Slackで通知を受けることができる。それだけでなく、双方向のコネクションとして、この通知を受け取ったことをJiraに伝えるなどのこともできる。いま現在これは可能だが、あまり知られていない。Slackの可能性をもっと理解してもらいたいと思っている。