一人ひとりの「ぴったり」を実現するものづくりは、私たちの生活上の不便さを解消するだけでなく幸せにしてくれるのかもしれません。私たちの感性をデジタルものづくりにいかす、これからのものづくりに挑戦する二人の研究者の成果を紹介する「ぴったりファクトリ」のメディア向け説明会が、一般公開に先立って行われました。出展者の慶應義塾大学の田中浩也教授と、関西学院大学の長田典子教授は「自分のぴったりを探すきっかけにしてほしい」と呼びかけました。9月1日まで開かれています。

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説明会で対談する田中教授(中央右)と長田教授(同左)


 私たちは日々、大量生産されたモノを使って暮らしています。それらは本当に好きな色やかたちでなかったり、どこか使い心地がしっくりこなかったりと、私たちは知らずしらずに我慢させられているのかもしれません。しかし、私たち一人ひとりの感覚をデータ化して、それに基づいて3Dプリンタなどの工作機械でものづくりができるようになればどうでしょうか。人がモノに合わせるのではなく、モノが人に合わせる未来社会が実現するかもしれません。二人の先生は、その実現に向けて研究を続けています。

 5月16日に、未来館3階の常設展「メディアラボ」で始まった今回の展示では「ぴったり」をつくり、さぐり、考えるという三つのテーマに分かれています。


田中教授「『ぴったり』の実現は高齢化社会の大きな課題」

 ぴったりのつくり方を紹介する展示では、最新の3Dプリンタとともに、すでにモノとして実現したアイデアの数々が紹介されています。
 握力が弱い人も簡単にペットボトルのふたをあけるための道具や、皮をむきやすいようにするナイフに取り付ける道具など、ハンデを持った人らが生活しやすいように作業療法士の方々が中心となって3Dプリンタでつくった道具が展示されています。さらに、車いすの人がお好み焼きをひっくり返すために必要な道具とは? そんな道具が、試行錯誤を繰り返しながら改良されていく様子も紹介されています。
 ただ、私たちの多くは大量生産された既製品を選ぶことに慣れすぎていて、オーダーメイドされた「ぴったり」のものづくりのメリットは実感がわきにくいかもしれません。
 しかし、田中教授は「高齢になるにつれて、ちょっとした段差などの障害を感じるようになります。日本が高齢化社会を迎えるなかで、一人ひとりの『ぴったり』の実現は大きな社会課題です」と強調していました。30年後にはあらゆるものが3Dプリンタでつくられる時代になっているそうですよ。

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3Dプリンタでつくられたさまざまな道具


長田教授「感性のものさし、平均からどれだけ離れているかが価値」

 ぴったりの見つけ方を紹介する展示では、来場者は一人ひとりの感性をデータ化する「感性のものさし」づくりにも参加できます。図柄やかたちなどの印象をモニタの質問に沿って答えていくと平均的な感性と自分がどれほど違っているのか、力強さを求めがちなのか、安定性を求めがちなのかといった自分のタイプとともに診断してくれます。こうした集まったデータは数万人分のビッグデータとして研究にも生かされていく予定です。
 長田教授は「感性は個性。平均からどれだけ離れているかが価値だと思います。それをポジティブにとらえる世界をつくるためにどうしたらいいかを考えるきっかけにしてほしい」と話していました。
 そのほか、人工知能を使って好みに合った服を簡単にデザインできるアプリや触り心地をはかって、再現する実験も紹介されています。

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モノの印象を評価して「感性のものさし」をつくる実験


来場者の「ぴったり」なアイデアも募集中

 「ぴったり」な未来はすぐそこです。
 「お料理と一緒。簡単にできるならば自分でつくればいい。そういう時代がやってきます」と長田教授。展示では、来場者が自分のアイデアを研究者に届けられるコーナーも設けられています。ファブラボと呼ばれる、私たちが3Dプリンタなどの工作機械を使える場所も増えています。田中先生は「ファブラボはみなさんが住んでいる近くにもたぶんあります。アイデアは実現させましょう。いいアイデアがあれば私もつくってみます」と話していました。あなたのアイデアもすぐに実現するかもしれません。



Author
執筆: 須藤 大輔(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
新聞記者として長年、科学や環境問題などを担当していました。早期退職後、大学院でサステナビリティ教育について研究。2019年4月より広報担当として未来館へ。みんなにもっと科学や環境のことを考えてもらえる新しいメディアのかたちを追求していきたいと思っています。