AKB48グループ卒業生が語る「元アイドルという名の十字架」

かつてAKB48グループに所属していた少女たちは、卒業から数年が経ち、大人の女性となった今、どこで何をしているのだろうか? 卒業後どんなことを考え、どんな壁にぶつかり、今笑顔で日々を送っているだろうか? AKB48グループの卒業生ら8人に取材した本『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)が5月23日(木)に発売される。

著者は自身も48グループの一員として2011年にNHK紅白歌合戦のステージに立った経験を持つ元SDN48メンバーの大木亜希子。2012年のグループ解散後、一時は芸能活動も続けるも、将来への不安が拭えない日々を過ごす。生活費を稼ぐため、清掃業などの単発のアルバイトを経て、2015年ウェブメディアの編集部に入社。ライターとして記事を執筆し始め2018年に独立、フリーのライターになったという異色の経歴を持つ。彼女に「AKB48のセカンドキャリア」をテーマに本を執筆しようと思ったきっかけから8人のOGへの取材を通して感じたことを聞いた。

──著書の中にも書かれていますが、改めて「AKB48のセカンドキャリア」をテーマに本を執筆しようと思った理由から聞かせていただけますか?

大木 私はSDN48を卒業して、少しの地下アイドル活動を経て会社員になったんですけど、就職した後もいつまでも“元アイドルの十字架”がついて回ることに気づいたんです。普通の会社員として働いていても、時には元アイドルという色眼鏡で見られてしまうこともあるし、反対に自分自身も元アイドルということを人に明かすことで何かしらステータスを感じてしまう時があったんです。そういうことも含めて世間の人に元アイドルのセカンドキャリアを正しく伝える使命がライターとしてあるんじゃないかって思ったんです。

──本を読んで、アイドルを卒業した後も人生は続いていくんだという当たり前のことを改めて強く感じました。

大木 「あの人は今」みたいな感じで終わらせたくなくて、この子は今こうやって生きていますよっていうのを8人分、スキャンダラスではなく、卑下もせず、良くも書かず、そのままを新鮮に切り取った本にしたいなって思ったんです。ワードやエクセルの使い方も知らない特殊な組織に育った人間が、トレーニングをして一般企業に勤める難しさ、また仕事をしながら自由恋愛をし始める彼女たちの悩みは、今世の中で働いている方々にも共通するのではないかなって思ったのでそこを伝えたいんです。

──本の序文に「私と同じ経験をした女性から話を聞き、人生の答え合わせがしたい」と書いてらっしゃいましたが、取材を通してアイドルに対する考え方は変わりましたか?

大木 まず今回取材させていただいた8人に対する印象が、会う前と会った後で大きく変わりました。というのもみんなが腹がくくれていて。例えば保育士になった元SKE48の藤本美月さんは本当にお母さんの顔になっていたんです。藤本さんはアイドル時代、紅白歌合戦でバク転をして注目を浴びたことがあったんですが、今は(赤ちゃんがいる)お腹を優しく抱いている。その姿を見て、アイドルというのは人生の通過点でいいんじゃないかなって思いました。

──取材のアポ入れは大木さんご自身でやられたんですか?

大木 AKB48の初期メンバーとか連絡先を知っている卒業生の力も借りて、LINEで誰かに誰かを紹介してもらって、またその誰かに誰かを紹介してもらって、わらしべ長者みたいなスタイルで8人と連絡を取りました。宝島社さんには後から「アポ取れました!」って連絡入れていました。すごく印象深いのは、今回取材辞退された方で、「私はもう元アイドルというのは隠しているので、そっとしておいてください。その本の成功をお祈りしています」と言ってくださった方がいて、みんないろんな葛藤があって、喜んで引き受けてくれる人だけじゃないんだなって。私は取材した方の人生を一時的にでも預かる気持ちで命をかけてやるべきだと思いました。

藤本美月さん(保育士・元SKE48)
本に登場する藤本美月さん(保育士、元SKE48)

──今回、取材相手の8人を選んだ基準のようなものはあるんですか?

大木 AKB48グループを卒業した後、芸能界で活躍されている方もいるんですが、今回はアイドルを経験したけどその後、別の職種で腹をくくって頑張っている方。アパレル店員やバーテンダー、ラジオ局員、保育士っていう一般の社会にもリンクする方を選びました。

──本の最後に元AKBカフェっ娘でAKB48になる夢を叶えられず、ソログラビアアイドルとして活動していた小栗絵里加さんが載っているのも印象的だったのですが、あの並びには意図が?

大木 ページが後ろになるにつれて大人の女性としての濃度が高くなるというのはあるかもしれないです。小栗さんもカフェっ娘の同期の篠田麻里子さんはスターになるんだけど、自分はAKB48に合格できずに、“世界最小グラドル”を名乗り体を張ったパフォーマンスをしたり、売れるためにはなんでもやるんです。まずその苦労を世の中の人は知らないと思うんですけど、そんな彼女がアイドルをやめた後、バーテンダーとして寝る間も惜しんで勉強して。最初はお客様にも「元アイドルなんでしょ?」って言われたりするんですけど、ソムリエやテキーラマエストロとかいろんな資格をとって、お客様からのモルトの知識を試すような質問にも返せるようになるんです。それが素晴らしいなって思って。小栗さんの場合はAKB48に入りたかったけど、入れなかったというのが一番の十字架だと思うんです。でも、それでも覚悟があれば人生どうにでも転がせるんだっていうのを最後にしたかったんです。

──本の並び的には小栗さんの一つ前、元SDN48の三ツ井裕美さんも「一番大切な夢を諦めたその先にも希望がある」というのが1つのテーマになっているのかなと思ったのですが。

大木 夢を失ったり、結局人生思うようにならなかったり、人生って綺麗ごとでは収まらないと思うんです。それはアイドルだけではなくて、ミュージシャンになりたくて路上ミュージシャンをしている方だってその夢が叶うかどうかなんて分からないじゃないですか。でも、一回夢を追いかけた過去があって今は会社員やっています、それで全然いいんじゃないかと思うんです。

──オーディションを勝ち抜いてきたアイドルたちって元々モチベーションが高い人の集まりではないかとも思うんですが、いかがですか?

大木 私は、傷つくことで魂の純度が上がっていったんじゃないかと思うんです。

──と言いますと?

大木 今回、本の帯を作家の燃え殻さんに書いていただいて、「誰もが無傷じゃない。それでも誰も下を向いていない」って言葉をいただいたんですが、まさにその通りで。傷つくことで魂の純度が上がっていくというか。すごく愛している仲間と、選抜システムがある以上戦わなければならないこともあるし、自尊心が傷つくこともたくさんある。その都度、鉄のように純度が上がって強くなっているんじゃないかなって思います。

アイドル、やめました。
本に登場する(左から)小栗絵里加さん(バーテンダー、元AKBカフェっ娘)と三ツ井裕美さん(振付師、元SDN48)

──ちなみにアイドル卒業後のセカンドキャリアまで経験した大木さんは、若い人たちがアイドルになりたいって言ったらオススメしますか?

大木 オススメはしません(笑)。簡単にはオススメできないというか。アイドルをやっていると自尊心が傷つくことがたくさんあるんです。でも、それを乗り越えた先に光がある。その一筋の光を捕まえるために皆頑張っている気がするんです。その覚悟がないと厳しいと思うので、簡単にはオススメできないですね。

──本の最後では「成仏」という言葉を使っていますが、今回の本でアイドルについては書ききりましたか?

大木 書ききりました。元アイドルというモヤモヤは書ききったので、今後はアラサー女性の生き辛さ、「結婚まだ?」「収入いくらなの?」「誰と住んでいるの?」とか言われて生き辛さを感じている人をホッとさせるような文章を書きたいです。

──本ではアイドルは通過点と書いていますが、この本で取材した8人の今もまた人生の通過点です。数年後に改めて8人を取材したりは?

大木 この本の序文で「人生の答え合わせをしたい」って書いた時、自分で「生意気だな」って思ったんです。29歳の小娘が何を言っているんだろうと。でも、そう書くしかなかったんです。あくまでも29歳の今の答え合わせ。その今の視点で切り取ったので読んでくださいと。また数年経ったら、その時の視点で書くことができるかもしれないですが、その時に“元アイドルの十字架”がまだ彼女たちの中に残っているかは分からないですよね。

──元アイドル、また現役のアイドルたちにこの本を読んでもらいたいという思いは?

大木 もちろん私と同じような経験をした人もそうだし、これからしようとしている人にも読んでいただいて判断材料にしてもらえればいいと思います。ただ、どんな読者に伝えたいかというと、人生に疲れたり生きづらさを感じたりしている一般の20代30代、職業に悩んでいる人に広く読んでいただきたいですね。
アイドル、やめました。
▽『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(大木亜希子著/宝島社刊)
元SDN48メンバーで現在はフリーライターとして活動する大木亜希子が、AKB48グループ卒業生ら8人の今を取材したノンフィクション。登場するのは佐藤すみれ(クリエイター・元AKB48/SKE48)、河野早紀(ラジオ局社員・元NMB48)、赤澤萌乃(アパレル販売員・元NMB48)、藤本美月(保育士・元SKE48)、菅なな子(広告代理店社員・元SKE48)、山田麻莉奈(声優・元HKT48)、三ツ井裕美(振付師、元SDN48)、小栗絵里加(バーテンダー、元AKBカフェっ娘)の8人。