サカナクション山口「もうアルバム出すのやめようかな」発言の真意
音楽プロデューサー・松任谷正隆が、さまざまな分野のゲストを迎えて新たな魅力に迫るTOKYO FMの番組「JINS presents 松任谷正隆の…ちょっと変なこと聞いてもいいですか?」。4月19日(金)・26日(金)は、サカナクションの山口一郎さんをゲストに迎えてお届けしました。


松任谷正隆と山口一郎さん



前編の記事はこちら。

◆音楽もファッションも「飽きる」

松任谷:おしゃれだよね。

山口:ファッションに興味があります。バンドは全員いなくなったら解散じゃないですか。でも、ファッションブランドって、デザイナーが変わっても保たれる。

松任谷:そうだね。

山口:バンドいう組織も、そういうことをできないかと考えていた時期があったんですよ。それで(ファッションに)興味を持って。人が服を作るときは、デザイン性と機能性のバランスじゃないですか。あとブランドの歴史。僕がいつも音楽を作るときの作業に、すごく似てるなと。

それで興味を持っていたとき、ファッションに意味を持っているデザイナーと、その意味をあえて持たないでいるデザイナーがいるんだなと気づいて。そして、コムデギャルソンの川久保玲さんと、メゾン マルジェラのマルタン・マルジェラにすごく影響を受けたんです。2人の、何を表現するのかという考え方、コンセプトを持つこと、ファッションという歴史のなかでの自分のポジションを知って。

そこから、「自分の音楽を作るってどういうことだったんだろう」「今やってることはファストファッションと同じなんじゃないか」「自分が影響を受けてきた古き良き音楽みたいなものに、今の自分はなれているのか、これからなっていけるのか」と――そういうことを、ファッションから学んだんですよね。

松任谷:俺、ずっとトラッドファッションが好きだったんだけど、あるとき突然イタカジ(イタリアンカジュアル)が出てきたわけ。で、俺は置いていかれた(笑)。「全然理解できないし、好きじゃないよ」って思ったの。

時を同じくして、スネア(ドラム)の音にすごくハマって。理想の音について「これくらいの部屋で、これくらいマイクを近づけて録った、こんなチューニングの、こんな音が好きだ」と思っていたら、ある日突然ゲートリバーブ(残響の途中で切り落とすエフェクト)が出たの(笑)。それも「全然理解できない」「また置いていかれた」って思ったんだよね。

その瞬間に、ファッションと音楽との類似点を感じた。どんどん新しいものに行こうとする……そこがおもしろいなって思ったね。

山口:先にずっと進んでいく……諦めないっていうことですか? 戻らないってこと?

松任谷:飽きるっていうことだよね。留まらないで、どんどん飽きて、先に行こう、行こうって。先にあるのが昔の焼き直しでも、先にさえ入ってればおもしろい。それがファッションにはあるよね。音楽にも、やっぱりある。

◆「もう、アルバムを出すのやめようかな」

山口:今回、アルバム(『834.194』)が発売延期になっちゃったんですよ。

松任谷:それも聞きたかったんだよ。でも、ツアーはやってるよね? なぜこういうことに?

山口:ツアーの会場は、1年、2年先を押さえなきゃいけないじゃないですか。そこに向けてアルバム制作もスタートしているんですけど……。

松任谷:妥協はしたくなかったのね。

山口:僕らもう、アルバムを出すの、やめようかなと思って。

松任谷:極端だな。それはないんじゃないか?

山口:シングルを何曲か出して、アルバムを出して、ツアーをやって……みたいなサイクルを1度やめないと、自分たちが想像してない自分たちになれないんじゃないかなって気がしたんですよね。だから、アルバムタイトルのツアーもやらないという感じ。

松任谷:あー、そうか。

山口:例えば「次のテーマは東京にしよう」となったら、そのコンセプトのツアーには「こういう曲が必要だよね」「こういう曲もあったほうががいいよね」と。

松任谷:そっちが先になるんだね。

山口:で、「次のテーマは哀愁にしよう」と。そのうち曲が溜まってきたら「東京と哀愁というコンセプトで、1つの作品を作ってみようか」と。またそこで足りない曲を作っていくのが1つ。あとは完全にコンセプチュアルな、例えば「リリースされるまで1度も空気にふれさせない、真空パックされた曲を作ろうよ」とか。ヘッドフォンのなかだけで全部作って、スピーカーから一切出さない、みたいな(笑)。ちょっとマルジェラ的なコンセプチュアルさ。

松任谷:マルジェラを知らないと、わからないかもね。マルジェラのアバンギャルド性って、一見、別にどうってことなかったりするし。

山口:あと、もう1つ考えてることがあるんです。PCのOSみたく、曲をアップデートできたら、と。例えば、ファンが松任谷さんに年間6,000円払って、新曲が届く。届いたときはバージョン1だけど、バージョン1.2にアップデートされて、「ハットの音が変わりました」とか「一部分、歌い直しました」とか(笑)。

松任谷:「歌詞が気に入らなくて、直しました」(笑)。

山口:自分が好きなバージョンがあったらそれを聴き続ければいいし、バージョン1はアコースティックギター1本だったのが、最終的にバンドアレンジになっていくとか……アップデート方式、いいなと思ったんですよね。

松任谷:それ、俺も本当にしたくてしたくてしょうがないよ。だけど、昔(松任谷)由実さんのアルバムでシンクラヴィア(シンセサイザー)を使ったことがあって。ほかに手段がなかったからなんだけど、もうすごく嫌いで、今、抹消したいわけ(笑)。でも、リスナーはあの音じゃないとダメなんだよ。

山口:それがいい人は、そのOS1.2を聴いてればいいですよねっていう。ストリーミングができるってことは、それをやっていいのかなって。

松任谷:やろうか(笑)。

◆60歳の“夢の舞台”

山口:僕、夢があるんです。

松任谷:うん。

山口:60歳で、国際フォーラムで1人ステージに立って、ステージにはマイク1本と教卓。こっちにはエフェクターがいくつも並んでいて、PA卓があって、日本各地の紙を――。

松任谷:紙?

山口:半紙だったり、和紙だったり。日本のいろんなところで作られた、いろんな厚さの紙を置いておくんです。それを1枚選んで、マイクの前でグチャグチャッと丸めて、リバーブをかけて、それを爆音でやりたい。ファー、グチャグチャグチャグチャって。「やっぱり香川県の紙はいい音しますね」みたいなのが、ファンの間で語られる(笑)。紙の音は、2度と同じ音が鳴らないので。

松任谷:日本の伝統芸能に通じる何かがありそうだね。

山口:サブカルチャーとしての自分たちの音楽が、一周まわってハイカルチャーになるためにはどうしたらいいのかを考えています。それでお客さんが入るようにするには、今どんなことをしたらいいのか――。

松任谷:なるほど(笑)。今後の活動、楽しみにしてます。

山口:なんかいいですね。こうやって話ができるの。ごはんを食べながらしゃべるのとは違う……そういうときは、僕は自分の話じゃなくて、松任谷さんの話を聞く側ですよ。

松任谷:そうでもないよ(笑)。

山口:そうですか? 俺、話してます(笑)?

松任谷:ずいぶん、話を聞いたよ(笑)。

<番組概要>
番組名:JINS presents 松任谷正隆の…ちょっと変なこと聞いてもいいですか?
放送日時:毎週金曜17:30~17:55
パーソナリティ:松任谷正隆
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/personality/view.php?id=85