アメリカ製最高級車のはみ出し者!?

1950年代のアメリカの高級車と言えば、お世辞にも自制が効いていたとは言えない。巨大なテールフィンやクロームのトリムなど、派手さでピークを迎えるのは50年代末のこと。その代表格が1959年のキャデラック・エルドラドや1958年のビュイック・センチュリー・キャバレロ・エステートワゴンなどだ。だが、メーカーやデザイナーは既にその数年前からまともな感覚を失っていた。
 
そのため、クライスラーC-300が1955年に初登場した際に写真のような姿だったのは奇跡的なことといえる。既存のデザインのつぎはぎとは思えないほど、よくまとまって均整がとれているし、控えめですっきりとしている。もちろん、完全にまともだったわけではない。2ドアにしては全長219インチ(約556センチ)とかなり長く、ボンネットの下に隠していたのは、量産エンジンとしては世界一パワフルなクライスラーの331ciヘミV8エンジンで、300bhpのパワーを誇った。
 
この数字にピンとこない人のために説明すると、当時は純正仕様で300bhpに到達したアメリカメーカーは存在しなかった。唯一の例外は、スーパーチャージャーを搭載した1932年のデューゼンバーグSJだが、その価格は天文学的な数字だった。また、クライスラーはC-300で1955年のNASCARグランドナショナルを楽々と制覇。なにしろ、ライバルはC-300に70bhpも負けていたのである。
 
C-300は、最初のマッスルカーであり、最初のQカー(外見は控えめだがパワフルな車)だと言ってもいいだろう。ただ、高速走行時に少々うるさく、乗り心地も同時代の他車ほどソフトではなかった。ハンドリングとロードホールディングを高めるために硬めになっていたのだ。だが、その落ち着いたデザインは、ジャーナリストから「紳士の急行」と絶賛された。
 
思いつく限りあらゆる面で最上級のクラシックカーと言えるが、その重要性や品質、希少性(1725台製造で現存は約250台)にもかかわらず、これまでC-300が市場の関心を捕らえたことはなかった。そのため、過去に付いた値段の幅も非常に大きい。写真のタンゴレッドのC-300は、コンクールレベルにまでレストアされ、走行距離はわずか5万3000マイルで、推定落札価格は8万5000~12万ドル。12万ドルに到達したらC-300の最高値になるが、それでもここまで読んできた人なら納得してくれるものと思う。