ーー実際、これまで配信された、『パパ活』『彼氏をローンで買いました』の反響は、どのようなものだったのでしょうか。

清水:どちらも、ものすごく良かったです。さらに最近横浜流星くんがTBSのドラマ(19年1月期『初めて恋をした日に読む話』)でブレイクしているから、『彼氏をローンで買いました』の数字が再び上がっているんです。

ーー過去作を手軽に視聴できるのも、配信の利点といえますね。配信と地上波のキャスティングには違いはありますか。

野島:とくに地上波のゴールデン帯だと、「好感度」でキャスティングされる部分が大きい。「嫌われない」好感度の高い人がメインに据えられるけれど、配信のキャスティングはそうじゃない。例え嫌われていても、Instagramのフォロワー数が多いとか、「濃いファン」がいるかどうかが大切になってくる。そういった目線の違いはあると思う。

ーー『百合だのかんだの』の主演は馬場ふみかさん、そして小島藤子さんです。

野島:最初は清水と、「この役をやってくれる女優さんはいないかもねえ」って話していたんだよね。

ーーそれはセクシャルなシーンなどがネックになるのでしょうか。

野島:ゴールデン帯でお年寄りへの好感度を満たしたいという人は、やってくれないだろうね。本人がやりたくても事務所の思惑もあるだろうし。さっき、撮影現場をのぞいてきたけど、馬場さんと小島さんには「借りができたな」と思いましたね。

清水:本人たちにも「出てくれてありがとう」って言ってましたよね(笑)。百合役の馬場さんに関しては、『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(2018年)での演技を見て、メインを任せてもいいんじゃないかと、野島さんとも話していました。そして、海里はかなり大変な役ですが、小島さんは本当によく受けてくださったと思います。演技のキャリアも長い方なので、思い切ってやってもらえていると思います。

■「永遠の中二」でいなきゃならない

ーー本作には、若者ことばというか、近年の流行りに関する様々な固有名詞が出てきます。例えば、百合の恋人の修二は「ジュノンボーイ」を目指しており、「SHOWROOM」の投票を頼むシーンが出てきます。そういった流行はどのようにして、キャッチアップしているのか気になりました。

野島:「SHOWROOM」に関しては、単純に前田(裕二)くんとも仲いいしね。それに、ポーラスター東京アカデミーという役者養成所で総合監修という立場にいるので、若い子たちが日常的に近くにいるというのも大きいのかな。能動的に探しているわけでなくて、情報が入ってくるというか。だって、おじさんが無理して若者に合わせても痛いだけだからね(笑)。その時にやってみたいことをやっているだけですよ。

清水:あがってきた脚本を読むと、びっくりしますよ。「どこでこんな言葉調べるんだろう」って思います。石黒賢さん(百合が通う大学の教授、不破誠役)も驚いてましたよ。

野島:基本、ひきこもりだから。なんていうか、「永遠の中二」でいなくちゃならない部分があるんじゃないかな。

ーー本作にもアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の名前が出てくるシーンもありましたが、アニメはご覧になっていますか?

野島:見てますよ。『まどか☆マギカ』はバトルシーンがすごいね。サイケなアートアニメのようで、クオリティがすごく高いと思うよ。

ーー脚本は虚淵玄さんという、ゲームのシナリオライター出身の方です。脚本に関してはどのような感想をお持ちでしょうか?

野島:いいと思いますよ。彼は『Fate』もやってますよね。(※小説『Fate/Zero』を執筆、11年のアニメ化の際に脚本を担当。ソーシャルゲーム『Fate/Grand Order』でも1部のシナリオを担当している)

ーーお詳しいんですね。

野島:僕もアニメの方に興味があるんです。世界に誇れる日本のエンタメはやはり実写ではなくアニメや漫画、ゲームカルチャーだし、ドラマに比べて制約も少ないし、異空間に飛んでみてもいいし。最近、アニメの若い監督たちと話す機会があったんだけど、すごく面白かったですよ。

ーー現在は、マスに向けたものよりも、いってしまえば「ニッチなもの」に表現の可能性を見出しているのでしょうか?

野島:それは明らかだよね。エンタメにお金を払って楽しむ人たちと、なんとなく無料でテレビを見ている人だと、もう視聴者の見方が段違いでしょう。スポーツ観戦も「DAZN」だったり、課金制のエンタメはたくさんあって、それぞれに好きなものにお金を払っている。地上波だけが、直接的にお金をとっていない。ということは、そこにいる視聴者の人たちは、何かに熱中する人たちではないんじゃないかな。じゃあ、パイは少ないかもしれないけど、エンタメにハマってくれている人たちを相手にした方が楽しいと思う。

ーーなるほど。

野島:だって、水がペットボトルで売り出されたばかりの頃は、「誰が金を出して水を買うんだ」なんて言われていたじゃない? でも今は水道水を飲むのに抵抗がある人も多い。「どうしてエンタメに金を出すんだ」という人もいると思うけど、時代は変わっていくだろうし、今はパイが小さくても深く刺さっている人と、向き合いたいですね。

ーーそちらに振り切った方が、表現として良いものができるという実感はありますか。

野島:今まで好きに書かせてくれた人たちが、「これはちょっと……」ということが増えたんだよね。そういうことが続くと、自分でも何が書きたいのかよくわからなくなってきちゃう。簡単にいうと、おもねって自分を見失うんだったら、自分を貫いて(地上波の)視聴者を失ってしまってもいいんじゃないかな。

■野島伸司
1963年3月4日生まれ、新潟県出身。1988年5月『時には母のない子のように』で第2回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、同年に『君が嘘をついた』で連続テレビドラマの脚本家デビュー。その後『101回目のプロポーズ』(91)、『高校教師』『ひとつ屋根の下』(93)、『家なき子』(94)、『未成年』(95)など立て続けに大ヒットドラマを手がける。2018年は石原さとみ主演の『高嶺の花』が話題に。近年は『パパ活』(17)、『彼氏をローンで買いました』(18)など配信ドラマも数多く手がける。

■清水一幸
フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業室 企画担当部長。1996年に朝日放送に入社し、2005年にフジテレビに移籍。主な担当作品に『のだめカンタービレ』『CHANGE』『最高の離婚』『問題のあるレストラン』『パパ活』『彼氏をローンで買いました』など。