IoTの台頭により、ものづくりの現場では多様なデータが飛び交い、そして肥大化し続けている。社内に、そして社外に散在するこれら大量のデータを、いかにして効率的に収集・蓄積して分析・活用に結びつけるかが、ビジネスにおける新たな付加価値を生み出すうえで重要となる。

2018年12月14日に開催されたマイナビニュースフォーラム「2018 Winter for データ活用」は、“これからの企業経営に求められるデータ基盤構築・分析とは”テーマに開催。本稿では、「製造業トラック」にて紹介された2つの基調講演から、激化する競争に勝ち抜くためにはどのようにデータを活用していくべきなのか、その術を提示する。

コマツの躍進を支えるグローバルオープンイノベーション戦略

小松製作所 CTO室 Program Director 富樫良一氏

小松製作所 CTO室 Program Director 富樫良一氏

最初の講演では、小松製作所が取り組むグローバルオープンイノベーションについての解説が、同社CTO室 Program Director 富樫良一氏によって行われた。同社は近年、様々な企業との連携や大学との産学協同プロジェクトなどによって、新たなイノベーションを生み出している。それらの中から、特に「データを活用したイノベーション」の事例と、つながる化のメリットについて紹介した。

世界有数の建設機械メーカーである小松製作所は、2001年より建設機械の情報を遠隔で確認するシステム「KOMTRAX(コムトラックス)」を提供している。KOMTRAXは、車両にGPSや各種センサー、そして通信システムが装備され、「どこで、どれくらい稼動して、どのように使用されているか。そしてメンテナンスが必要な車両はどれか」などの情報が、現場から離れた管理室で確認できる。

「一般的に建設機械では、10年も経過すると運用コストが車両価格の3倍掛かるが、KOMTRAXは、収集したデータを活用して計画的なメンテナンスや省エネ運転の支援などを実現し、運用コストの大幅な削減を可能にしました」と富樫氏は語る。

続いて紹介されたのは、無人ダンプトラック運行システム「Autonomous Haulage System(AHS)」だ。日本や北米において、鉱山の採掘にかかわる最大のコストはオペレーション費であり、大型車両の場合、交代要員も含めて一台当たり4?5人のオペレーターが必要となる。これを一つの鉱山あたりで換算すると約100名となる。これだけで人件費は大きなコストとなる。だが、それ以上に深刻なのは、オペレーターの人材不足だ。

「近年、大型車両のオペレーターに支払うコストは高騰し続けており、日本円で年俸2?3千万円くらいになっているケースも少なくありません。ですが、それでも人が集まらないのが現状なのです」(冨樫氏)。コストの他にも課題はある。特に大きいのは安全性だ。鉱山では、日が落ちると周囲は漆黒の闇となる。そのような状況で運転をしていれば、どんなベテランドライバーでもストレスがたまる。その結果、急制動や急加速が増え、安全性が下がると同時に車両への負担も大きくなる。

これらの課題を解消するものとして登場したのが、AHSだ。これは、高精度GPSや障害物検知センサー、そしてモジュラーマイニングシステムズ社の無線ネットワークシステム等を搭載したダンプトラックを、中央管制室で運行管理によって完全無人稼働を行うシステムである。なおAHSは、2008年に稼働が開始しており、すでにオーストラリアやチリをはじめとする数々の大型鉱山で本格稼動している。

想いを共有する人々と進めるオープンイノベーション

「KOMTRAX」や「AHS」の実現には、様々なITの技術と、それを提供するパートナーの存在が欠かせなかった。「コマツはイノベーションを通じた成長戦略として、ダントツ商品(商品力向上)、ダントツサービス(機械の見える化)、ダントツソリューション(施工の見える化)を掲げています。商品とサービスについては私たちだけでもなんとかできるかもしれませんが、ソリューションについては、お客様やパートナー企業の方々の協力が不可欠です。過去の例をみても、破壊的イノベーションは異業種から生まれてきています。私たちコマツは、これからも想いを共有する方々とオープンイノベーションを進めていきたいと考えています」。なお講演では、コマツが想いを共有するために公開している映像が紹介されたので、以下にそのURLを記載する。

建設機械の情報を遠隔で確認するシステム「KOMTRAX」

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無人ダンプトラック運行システム「Autonomous Haulage System」 動画

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「タイヤを見える化する」日本ミシュランタイヤの戦略とは

製造業トラックの最後を飾る講演では、日本ミシュランタイヤB2Bタイヤ事業部 常務執行役員 高橋 敬明氏が、同社のデータ活用社会に備えたビジョンを紹介した。
日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部 常務執行役員 高橋 敬明氏

日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部 常務執行役員 高橋 敬明氏

Eコマース市場の拡大により、ドライバー不足と、高齢化が深刻化している運輸業界。講演冒頭で高橋氏は、現在の運送事業者が抱える代表的な経営課題として、ドライバー不足、働き方改革、燃費高騰、新車の車両重量増などを挙げた。

新たな人材の確保が難しい状況の中、既存のスタッフを大切にし、働く人の満足度を維持しなくてはならない。省力化や自動化を進め、女性や高齢者でも負担なく作業ができる環境を整えることも必要だろう。また、近年社会問題化する長時間労働を避けるためには、顧客である荷主の選別も考えなくてはならない。燃料の高騰には運賃の値上げも止むを得ないだろう。加えて、排ガス規制や安全対策への対応で車両重量が増加してしまい積載量が減るという状況にも対策を検討しなければならない。

運送事業者が抱えるこれらの経営課題に対し、同社ではいくつかの解決策を提案している。講演で紹介されたそれらについて、簡単にふれたい。

シングルタイヤで車両の軽量化を実現「MICHELIN X One」

車両重量増に対するミシュランの提案、それがバスやトラックで使用されるシングルタイヤ「X One」だ。大型車の後輪タイヤは片側2本(一軸あたり4本)が一般的になっている。X Oneを使用すれば、後輪タイヤが一軸あたり2本となり約100kgの軽量化が実現する。

車両の軽量化が実現できれば、荷役作業を補助する装置の搭載も可能となりドライバーの負担も減る。積載効率の向上や燃費の改善も図れる。前述した「運送事業者が抱える経営課題」についても、一つの解決策とはなるだろう。ただ一方で、「X One」には、「1本しかないのなら、パンクしたら動けなくなるのでは」というシングルタイヤならではの不安も存在する。

  • ミシュラン提案:X One

タイヤの見える化でパンクの不安を解消「TPMSクラウドサービス」

「パンクの不安は、言い換えればパンクによって発生する延着の不安です」と高橋氏は語る。この不安を解消するためにミシュランが提案するサービスが「TPMS(タイヤプレッシャーモニタリングシステム)クラウドサービス」だ。これは、タイヤに取り付けたセンサーが温度や空気圧のデータを収集して約5分ごとにサーバーへ送信。異常を検知した際には登録先にメールを配信するという仕組みである。万が一、タイヤに異常が発生したとしても、素早い対応が可能となり延着することなく積荷を運ぶことができるだろう。

  • ミシュラン提案:TPMSクラウドサービス

働き方改革を促進する日本ミシュランタイヤのサービス

日本ミシュランタイヤでは、タイヤ以外にも、運送事業者をサポートするサービスを提供している。

例えば、アンケートを実施してドライバーを定着させるために優先して取り組むべき施策を把握する「運送事業者向けドライバー診断パッケージ」、クラウドを活用し働き方改革をサポートする運輸事業者向け勤怠管理システム「勤怠ドライバー」、そして労働環境改善提案などがある。「これまでの当社は、タイヤの装着による製品販売の利益のみでした。しかしこれからは、先に挙げたような様々なサービスをもとにした、労働環境改善アクションの提案も行なっていきたいと考えています」(高橋氏)。

現在、自動車業界では「トラックメーカー4社による隊列走行の実証実験」、「トラックの空き情報をシェアするサービスの展開」、「電気トラックの実証実験」など様々な試みが進められている。これらとの繋がりも含め、同社はあらゆる可能性を模索していくとのことだ。

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