中学生の硬式野球団体である日本ポニーベースボール協会は、今季から本格的に「球数制限」の導入に踏み切った。その背景と「球数制限」を実際に行う上での問題について、事務総長で、市原ポニーベースボール会長の那須勇元氏に聞いた。



国際大会ではピッチスマートを導入


ポニーリーグは、主要な少年硬式野球団体で構成する日本中学硬式野球協議会が2015年に設けた「中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン」に従って、試合での登板は1日7イニング以内、連続する2日間で10イニング以内と定めてきました。

従前より1日7イニング以内、連続する2日間で10イニング以内との独自の投球制限に主要な少年硬式野球団体で構成する日本中学硬式野球協議会が2015年に設けた「中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン」を併用してきた。

しかし、2年前、アメリカでMLBが主導して、年齢別に投手の投球数や登板間隔を定めた「ピッチスマート」が導入されました。アメリカポニーもこれを導入しましたが、日本ポニーもピッチスマートを導入するように指示がありました。
ポニーベースボールは、アメリカで生まれ、今もアメリカの本部が、世界のポニーリーグに指示を出しています。ポニーリーグは世界を8つのゾーンに分けています。日本はアジアパシフィックゾーンに属しています。
日本とアメリカの少年野球の事情は違うので、私はアジアパシフィックゾーン統括責任者としてアメリカと話し合いながらも是々非々の姿勢で臨んでいます。
国内大会では1年生は「85球」を上限に
日本ポニーとしてこれにどう取り組むか、議論をしましたが、昨年5月の「広澤克実杯 ジャパンゼネラルスポーツ旗争奪全日本地域対抗選手権大会」から、ピッチスマートを導入しました。
さらに、今年から1年生の大会は1日の球数を85球にする球数制限を導入しました。
2年生、3年生の大会も今年中に検討して、来年には全面的に導入する方向で考えています。
ただ、ワールドシリーズにつながる試合は、ピッチスマートを導入しますが、国内の試合では「1日当たり20球以上投げると翌日は登板できない」というピッチスマートのルールはそのまま導入してはいません。1日の上限85球だけを導入しています。
20球にすると球数のカウントがシビアになります。また投手交代が頻繁になるので、試合時間が長くなります。ポニーは土日のいずれかしか試合がなく、そもそも連投はあり得ないので、現状では必要ないと判断しています。

もともとポニーは選手を大事にする指導理念が徹底されています。一人の投手に頼らない起用法が基本です。85球まで投げるケースはあまり見られませんが、一応上限を設定したというところです。
ポニーの指導者は子供たちが何球投げたかを、練習段階から常に気にかけています。投球練習の球数制限には踏み込み切れていませんが、試合だけカウントしても仕方がない、練習からチェックすべきだと思っています。
「球数制限」導入にともなうスタッフの問題
導入するうえでは、運営スタッフの問題がありました。
球数制限を導入すると、試合ではハーフイニングごとに投球数を発表しなければなりません。
両チームの指導者が間違えないためにも、いかに投球数をクリアに表示するか、が問題ですね。
試合で主催者側は、スコアラーに加えて、投球数をカウントするスタッフを配置しました。



そのうえで、表示板を設置して球数を表示するか、ハーフイニングごとに場内アナウンスで投球数をアナウンスしています。
今のところ、大きな混乱は起こっていません。
また、ポニーでは両チームのベンチでスコアラーが投球数をカウントしています。主催者側の投球数がおかしいと思ったら、主催者と両チームベンチのスコアブックの投球数を突き合わせて球数を決定します。


慶友整形外科病院、古島弘三医師がポニーリーグを立ち上げる
ただ85球は暫定的な数字ではあります。1年生で85球は適切なのかどうか。
この春から、慶友整形外科病院整形外科部長・慶友スポーツ医学センター長の古島弘三先生が、舘林慶友ポニーリーグを立ち上げられ、私たちの仲間に加わってくださいました。
そこで、古島先生にもアドバイスをいただいて、最終的な球数を決めようと思っています。
85球はアメリカの11-12歳の子供の投球数の上限です。日本の子供は体も小さいからもっと少なくてもいいかもしれない。75球に下げることも検討しています。
古島先生のご意見もいただいて、最終的には理事会で案を作ります。いずれにせよ、根拠、理屈の裏付けをしっかりしたいですね。
ピッチスマートなり、「球数制限」なりを導入して投げた選手が中学校を卒業した時に、そうじゃない選手に比べて肩、ひじの状態はどうなのか。1年生の時に投手のレントゲン写真やMRIをとって、「球数制限」をしっかり守って野球をさせていけば3年生でどうなっているのか、を総合的に検証する必要があると思います。
小学校時代に障害を負った子供が入ってくる
古島先生のポニーリーグが選手を募集したところ12人の子供が集まったそうですが、そのうち半分の6人が潜在的な野球肘でした。自覚症状もない子もいました。小学生時代の酷使で、潜在的に壊れている子がいたのです。
私が会長を務める市原ポニーベースボールでも今年入ってきた1年生26人のうち4人が、4月1日、練習初めの日に「肘が痛いです」と言ってきました。まだ練習する前に、そういう状態でやってくるのです。
本人が痛いといったときには、すでに発症しているので、本人の自覚症状がないうちに見つけるにはどうすればいいかについても古島先生に相談しています。
例えば、大会があるときに、子供たちの肩ひじの状態を診るのもいいでしょう。
「野球肘」が見つかれば、その子はノースローになりますが、ポニーの場合、指導者は医師の言うことに従います。無理はさせません。これが2年生、3年生となれば中学時代は投げられない可能性があるので大きな問題ですが、1年生なら治す時間があります。
「きれいな肩・肘の子は、きれいなまま」卒業させる
もともとポニーリーグは「育てる場」だという意識が徹底されています。高校野球につなげる場だ、勝負するところではないということです。
うちは“野球は試合に出て覚えよう”が理念です。そのためにポニーの大会はすべてリーグ戦です。原則として補欠はいません。12人いれば1チームを作ります。投手は3人程度です。そのほかに野手兼任の投手もいます。
もちろん、野球の技術を高め、体力もつけさせますが、基本的には「きれいな肩ひじの子は、きれいなまま」卒業させます。故障を持ったまま入ってきた子も「もっときれいにして」卒業させることを目標にしています。もし、状態を悪化させたとすれば、それは私たちの責任です。
そのうえで、結果を求めるということです。両方を並行してやるのは難しいので、段階を踏んで成長させるのが基本です。練習の投球数を抑えながら、球速をアップさせるにはどうしたらいいのかを科学的に教えます。さらに体の使い方も教えます。
そもそも「待球作戦」はあり得ない
「球数制限」に関しては、ファウル打ちによる「待球作戦」が懸念されています。中学生になれば、技術的には可能な子も出てくるでしょうが、ポニーではそもそもその発想がありません。子どもたちは一生懸命練習しているのだから打たせろというのが基本です。
指導者は、甘いストライクをちゃんと打たないと注意をします。中学レベルでは、いい球はそんなに来ませんから。何球目であっても、好球必打が中学野球の基本です。
ポニーイズムでは「バットは打つためにあるものであり、当てるためにあるものではない」ということですね。
ただ、他流試合の時はそれをやられる可能性はありますが。基本的にはポニーはやりません。
大学、プロで活躍する選手も輩出
ポニーの卒業生といえば、昔は元巨人監督の高橋由伸選手などが有名ですが、今も大学やプロで活躍する選手が出てきています。
東海大学4年生の原田泰成投手は、私が会長を務める市原ポニーベースボールの卒業生です。中学の時は、足の故障があったのでほとんど投げていません。でも中学3年で球速は130㎞/hを超えました。今は150㎞/hを超えて、ドラフト候補の一人になっています。
先日、令和時代の初完封勝利を果たした埼玉西武ライオンズの今井達也投手も、栃木県の鹿沼ポニーの出身です。

こういう形で、私たちの考える「少年野球」の理念が、少しずつ実を結びつつあります。
「球数制限」の導入も「子供たちにとって何が一番良いのか」を考えながら、推進していきたいと思います。(取材・写真:広尾晃)