シーア、ディプロら集結、スーパーグループ「LSD」が体現するポップスの10年史

フジロック19でヘッドライナーを務めるシーア、大物プロデューサーのディプロ、UK出身シンガー/プロデューサーのラビリンスによるLSDが、1stアルバム『LABRINTH, SIA & DIPRO PRESENT... LSD』の日本盤を本日4月24日にリリース。名だたるヒットメイカーが集結したスーパーグループの本性に迫る。

オーストラリアからは、自身も卓越したシンガーとして評価を確立しながらソングライターとして華々しいポップアクトたちに楽曲を提供し、現在のポップミュージックの最重要人物といえるシーア。アメリカからは、世界中のビートをディグしてゼロ年代以降のダンスミュージックを牽引し続け、いまやポップスのフィールドにおいても欠かせないプロデューサーとなったディプロ。イギリスからは、ソングライターやプロデューサーとしての才覚を見せつつ、自らラッパーやシンガーとしてもヒットを飛ばし客演も数多くこなす才人、ラビリンス。この3人が、LSD(ラビリンス、シーア、ディプロの頭文字)としてユニットを結成したのは2018年のこと。以来、シングルやEPのリリースを重ね、2019年4月にいよいよアルバムをリリースした。『LABRINTH, SIA & DIPRO PRESENT... LSD』(以下、『LSD』)は、10曲30分とタイトな構成ながら堂々としたプロダクションがリスナーを出迎える一作となった。



楽曲の中心に据えられているのは、やはりというか、シーアとラビリンスのボーカルだ。ハスキーな声質と、ややクセのある節回しが強烈な個性を放つシーアに、バイプレイヤーとしてもメインとしてもスムースな歌声で存在感を見せるラビリンスのかけあいが心地よい。終盤に収められた「Its Time」では、アコースティックピアノのシンプルな伴奏のうえでシーアとラビリンスのボーカルがこれでもかと披露される。こうした楽曲からは、キャラクターの異なる優れたボーカリストをふたりも擁するLSDの強みを、彼ら自身がいかに理解しきっているかが伺える。さらに、シーアに輪をかけてクセのある甲高いラップで「Genius」のリミックスに参加するリル・ウェインがアルバムにとどめを刺す。ゲストが参加しているのはこの一曲だけにすぎないのだが、各々のキャラ立ちが異様なまでに強いからか、やけに賑やかな、声にあふれたアルバムに思える。



他方、ビートに目を向けると、2010年代のポップミュージックを担ってきた3人ならではの、王道の展開とトリッキーなチャレンジが組み合わさっていることに気づく。シンプルなメロディからなるドロップや、歌声をあたかも楽器のように編集して再配置するボーカルチョップをフックとして取り入れるなど、EDMの隆盛を経た現代のポップスとしてツボを抑えた楽曲が揃っている。

2018年中にシングルとしてリリースされた「Audio」や「Mountains」、「Genius」のキャッチーさとアグレッシヴなサウンドの同居は文句なしの迫力。トロピカルハウス以降のポップスのフォーマットをふまえた「No New Friends」もリスナーの期待に応える。メジャー・レイザーやJack Üの活動でポップスのフィールドにも存在感を示すヒットを多数手がけてきたディプロはもちろん、シーアもまたキャリアの要所でディプロやデヴィッド・ゲッタなどEDM界の大物プロデューサーともコラボレーションを重ねてきたことを思えば言わずもがなの出来か。




シーア「Chandelier」、メジャー・レイザー「Lean On」、ラビリンス「Misbehaving」など3人の代表曲と、LSDの楽曲をまとめたプレイリスト

一方で、チャレンジングでややフリーキーな味わいはラビリンスの手腕によりそうだ。2017年に彼が放ったヒット「Misbehaving」や2018年のシングル「Same Team」「Dont Fence Me In」ではソウルフルなフレージングや歯切れのよいブラスのサウンド、そしてサイケデリックな味わいをもつファズギター等々多彩なサウンドがかわるがわる現れる。イギリス出身ということもあってか、そのダイナミックでケレン味あふれるサウンドには往年のビッグビートを思い出したりもする。

彼のブルージーかつソウルフル、おまけにサイケデリックな風合いは『LSD』にも感じられる。しょっぱなの「Welcome to the Wonderful World of」は2分足らずと短いイントロダクションにすぎないが、厚いコーラスから咽び泣くようなファズギターまでが強靭なビートでつなぎ合わされる奇妙な一曲。ユニット名が否が応でも想起させるトリップ感覚をそのまま表現するかのようだ。「Angels in Your Eyes」や「Thunderclouds」のブラスづかいやコーラスなどにも、ラビリンスのキャラクターがよくでているように思われる。



2010年代にポップスに起こった変化としてしばしば言及されるのはアトランタ流のトラップの国際化だろう。ディケイが極端に誇張され、ベースラインとリズムを一手に担うようになった808のキックに、グルーヴに緩急をつけるハイハットやスネアのロール。いまやあらゆるポップスにこうした要素が浸透しているのは周知の通り。しかし、同じくらい重要なのは、2010年ごろから急速に巨大産業化したEDMがポップスにもたらした構造的変化だ。わかりやすいのは、日本語でいうサビに着目すること。キャッチーなメロディと印象的な歌詞からなる、ヴァースの対概念としてのコーラス。あるいはより短い、キャッチフレーズ的な文句の反復によるフック。これらを経て、サウンドのダイナミックな変化がもたらす快楽へと主眼をうつしたEDM的なドロップが、2010年代のポップミュージックを特徴づけるサビの形式だ。

こうしたEDMの流れを汲んだ形式をポップスのフィールドに巧みに注入してきた功労者のひとりがディプロであり、このアルバムは彼がここ10年ほどやってきたことを、シーアやラビリンスといった才能と共に改めてプレゼンテーションしていると言っていい。アシッドジャズあがりの味のあるシンガーから、壮大さを湛えたポップセンスを持ち味とする堂々たるシンガーソングライターに転回していまの地位を築いたシーアにとっても、それは同様だろう。ラビリンスがそこに加えるプロダクションの捻りが、こうしたキャリアの重みをふわりと相対化している、といった構図が浮かぶ。

このアルバムが屈指の名盤というほどの評価を得られるかはちょっと保留したいが、英語圏のポップミュージックの現在を詰め込んだ充実の一作であることは間違いない。ダンスミュージックやヒップホップのボキャブラリーが、ポップのフィールドにいかに取り込まれてきたかを示す範例であり、同時に3人の才覚がぶつかりあう特異で濃厚な一作でもある――「スーパーユニットが放つポップソング集」としての軽やかさの奥には、このディケイドの歴史が詰まっている。






LSD(ラビリンス、シーア、ディプロ)
『LABRINTH, SIA & DIPLO PRESENT. . . LSD』
発売中
2,200円+税  SICP-6095
初回仕様限定ステッカーシート封入
ボーナス・トラック収録予定
再生・購入リンク:
https://SonyMusicJapan.lnk.to/LSDAlbumJP

海外公式サイト:
http://www.droppinglsd.com

日本公式サイト:
http://www.sonymusic.co.jp/lsd