統計データに惑わされずに“シニア目線のニーズ”を掴む

一般消費者とは異なるシニアの購買行動とは?

私が代表を務める会社は、「無縁社会を解決 NowいいLifeを提供する会社」をスローガンに掲げ、2009年に創業しました。前職の上場会社にて、外商部門での訪問販売や展示販売を経験する中で、1万人以上のシニアと対面して、コミュニケーションを図ってまいりました。

そこでは、金銭的な余力のあるシニアのリストを持ち、シニアが購入しそうな商品を開発し、営業担当が動き、売上を作っていきます。これらの積み重ねが、一般に言われる“シニアマーケット”の市場規模になる数字ですが、300人ほどの営業チームを率い、自らも営業を行う中で、“数字に表れない実態”があることに気づきました。それは「シニアが購入しているのは、必ずしも商品の価値だけではない」というものでした。

例えばあるお客様からは「この掛け軸は元々持っていたけど、もう飾らないので、あなたにプレゼントしようかと思っていたのだけど」などと持ちかけられることもありました(もちろん、コンプライアンスや倫理上、頂けないものですが)。

シニアが購入しているのは、モノの価値だけではなく、若い担当営業がわざわざ来てくれたことに対する感謝であったり、応援であったり、次回会話できることへの期待であったり、コミュニケーションを楽しむ時間であったりするわけです。むしろモノの価値は小さかったかもしれません。

ご年配のシニアであれば、商品やサービスに対する目が肥えているのは当然で、一般のビジネスにおける“安くて良い”ことが消費行動を喚起するきっかけにならない場合もあることは事実です。しかし、シニアにはお金や時間があるから、“高くて良いものであれば何でも買う”わけではありません。

起業に際し、様々なシニアビジネスを分析しましたが、その中の1つに興味深いものがありました。地域で数店を展開するデイケアセンター事業でしたが、シニアからの評判が大変高かったのです。理由は、シニアの気持ち(心理)を理解しているからでした。

デイケアセンターは統計的な需給ではまだまだ全国的に足りておらず、大手企業はパッケージ化して量産しています。そのような中、我々が着目したデイケアセンターは、まず施設名が横文字で、「Active Age ○○」といった一見すると新手のフィットネスクラブのようであり、また施設の入り口のファサードは、黒を基調とした会員制倶楽部のようでした。

「シニア=おじいちゃん・おばあちゃん」と考えた大手企業が量産化していたものは、「ひまわり○○園」「まごころ○○センター」といったような施設名を付けていましたが、シニアになると急にひまわりが好きになるということはありません。

我々がインタビューしたシニアは、「デイケアセンターに行く必要が出てきたのは事実だが、子供や孫に“今日、どこに行っていたの”と言われた時には、やっぱり恥ずかしい。施設を出入りする時にも、かっこ悪くなっちゃったなあと思ったりもする。このActive Age ○○はそんなことを感じさせないのが良い。」と話していました。

この例のように、企業が考えている需要(ニーズ)と、実際のシニア消費者の要望(気持ち)のズレは、まだまだ身の周りにたくさんあるのではないでしょうか。勝手に“シニア”という固定観念の枠にはめて考えずに、シニア1人1人が望むニーズに応えていきたい、そうすれば自ずとビジネスが広がっていくはずだと考え、我々は起業に至りました。

シニアマーケットの理解

シニアビジネスというと、増加するシニア人口の統計や、個人金融資産1,800兆円のうち約半分が60歳以上のシニアだという圧倒的な数字が、真っ先に挙がってきます。そのため、シニアの満たされていないニーズに合致する何かを生み出せば、金銭が動くはずだというイメージが膨らみます。しかしながら我々は、これにはいくつかの誤りがあると見ています。

(1)高くない自己消費欲求
「以前よりも良いものを持ちたい」「他者よりも優れたものを所有したい」という欲求で行動されるシニアは多くはありません。我々が接点を持つ多くのシニアを見ていると、自分の欲求を満たす消費に対する意欲がそれほど高くないことを痛感しています。

シニア人口の割合が高まっていることから、百貨店などに行くと購買行動をしている方の多くはシニアであることが分かります。しかしながら、彼らが“高級”を求めて、例えば、良いベッドで眠りたいと考えて家具を買い替えたりするかと言われると、そういった行動に至るシニアは少数です。少数の高級志向層を相手にしてビジネスを企画するかどうかというのは、シニアビジネスを検討する上での最初の重要な分岐点であると考えています。

(2)“人のため”に使うお金の割合が増えてくる
少子高齢化により、子供を起点として両親及び両親の祖父母がお金の出所になるという意味で、6ポケットになったと言われます(更に独身率の高まる叔父・叔母世代を含むと10ポケットとも言われます)。これは事実で、自分のものを買うよりは子や孫のためにお金を使いたいという考えが多いです。

しかしながら、「孫のために勝手にいろいろ買い与えたら迷惑かもしれない」と節度を持った考えをするシニアも少なくありません。数字的な裏付けを取っていませんが、“孫のためにシニアに消費させよう”とする商材も多くありますが、マーケティングは、それほど簡単には進まないだろうと見ています。

一方で、後述しますが、“小さな寄付”のようなマインドが高まっていると感じています。「自分は何とかなっているけど、困っている人がいるなら微力だけど助けるわ」といった考えからの行動が意外に多いことが分かっています。

(3)お金を使い切って無くなるシニアは皆無
税理士から聞いた話ですが、持ち家があり、貯金も1,000万円近くあり、年金等で年数百万の現金収入もある73歳独り身男性のシニアが、それほど消費をしていないので貯金も毎年微増していても、やはり節税対策を聞いてくるそうです。

また、何歳で亡くなるとしても、亡くなる際にちょうど資産を使い切って死ぬことが出来る人は皆無です。統計的にシニアの総資産額は、消費に向けて用意されているものではないということを忘れてはいけません。

金額規模から理解するシニア市場とは別に、“消費者(ヒト)”に着眼すると、元気なシニアが多いことも、労働力不足が叫ばれる我が国の実状においては、重要な事実だと考えています。日常生活動作の自立度合いを測るADL(Activities of daily living)という指標がありますが、「日常生活のことはほぼ自分ででき、ひとりで外出できる」のシニアの割合は、91.3%となっています(東京都福祉保健局平成22年度「高齢者の生活実態」)。

介護施設等が足りないという要介護シニアの社会問題は顕在化していますが、元気でプライドもあるシニアが多くいることも分かります。シニアビジネスを考える上で、シニアを必ずしも消費を促す対象として見るのでなく、活力を活かすことができる資源として見ることも出来ると思います。

シニアの声を参考にして生まれたサービス

このようなシニアのニーズに応えて生まれたサービスを2つご紹介いたします。今後のシニア向けサービス作りのヒントになるのではないでしょうか。

読書代行サービス

年会費をお支払いいただいた会員様に向けて指圧サービスをご自宅に派遣したり、パッケージツアーを紹介したり、様々な既存商品サービスの販売代行を行うものです。販売代理手数料収入を見込みつつ、シニアの本当のニーズを把握するための基盤を持っておきたいという目的があります。

その中の1つに、“読書代行”サービスがあります。企業にお勤めで、日経新聞を毎日読んでいた男性が、定年退職しても、たいていは新聞を読み続けます。前述したプライドにも関わる点で、直接的に新聞を読むことが日々の生活に関連しなくても、こういった習慣的行動は継続したいという思いがあります。しかし、シニアの多くは、老化に伴って目が疲れてしまい、次第にラジオからニュースを得るように変化している方が少なからずいらっしゃることが分かりました。

そこで考案されたのが、大学生が1時間3,000円でお客様の自宅に訪問し、新聞を朗読してあげるサービスです。大学生ですから、時折、漢字の読み間違いなどもしてしまいます。しかしながら、「人に教えてあげられる」というのは人間にとって自尊心をくすぐる機会でもあります。

サービスを購入しているのに読み方を間違えた、というクレームになるのではなく、お客様は喜んで正しい読み方や、時には記事の内容についても読み手の大学生に解説してくれます。大きなマーケットではないでしょうが、シニアの真のニーズを捉えてサービス提供できた1事例だと考えています。

シェアハウスサービス

シングルマザーが年々増加しており、「子供が仕事に合わせて預けられない」⇒「正社員に戻れない」⇒「パートタイマーだから子供を預けやすいエリアに引っ越せない」といった住居問題から派生した三重苦にあります。

一方で、シニアの中にも、孤立死・孤独死などで社会問題化しているように単身シニアがいらっしゃいます。彼ら彼女らの多くは、統計通り元気で、自立した生活に難が無い方が多いです。しかしながら、「誰からも必要とされてない」という孤独を感じて生活していらっしゃいました。

更に昨今の居住環境に関しては、空き家・空き室問題が、特に都内では顕在化しています。空き家や空き室が増えることが地域の停滞になるだけではなく、稼働していれば住居の供給が増えることで家賃の低減などにも効果があると言われており、見逃せない社会的な課題である中で、単身シニアの中には戸建て保有をされている方もいます。1人で1階を中心に住んでいて、「最近は2階に上がってないなあ」という方もいらっしゃいます。

これらの社会ニーズを勘案して我々が提案したのが、単身シニア世帯1世帯と、シングルマザー世帯2世帯の3世帯で助け合う共同生活環境“シェアハウス”というものです。理想モデルとしては、例えば、子どもの急な発熱などでお迎えに行かなければならない時などは、元気なシニアが対応し、お母さんが帰ってくるまで面倒を見てあげます。

元気なシニアとはいえ、高いところの掃除などは億劫ですし危険ですから、週末にシングルマザーがやってあげます。今のお母さんは“あやとり”などはあまり教えたりしませんが、シニアが世話することで、核家族化の進行で失われた3世代交流を復興することも出来ると考えています。

シニアビジネスの課題

一般のビジネスマーケットとは異なるシニアビジネス特有の課題があることも分かってきました。それは新サービスの伝達の難しさです。シニアのネット利用は年々進んでおり、ネット通販などの利用も増加しています。しかしながらそれは、既知の商品やサービスの購入を、ネットでも行えるようになっているだけで、未知の新しい商材をネットの情報源から理解し、購買行動にまで移れるというシニアはまだまだ少ないのが実状です。

また20代、30代世代では、FacebookやTwitterなどSNSによるユーザー間の伝播も見込めるようになってきており、広告に依存しないマーケティング手法も普及してきました。シニアだけを対象とするブログサイトなども出てきていますが、シニアのネット利用では、まだそれほどの伝播力・爆発力は無いように見受けています。

新たなシニアのニーズに対応した新たな商材は、この壁をどう乗り越えるかが課題になると思われます。どのようなチャネルでシニアに情報が到達するのか、どのように理解を図り浸透させていくのかといったところに労力をかけることが重要になると思います。

一定のクリティカルマスを超えれば、ニーズに見当たった商材は確実にヒットしていくと思いますが、仮説を元に企画したシニア向け新商材について、いきなり大々的な広告宣伝の賭けに出て資金を投じることは現実的ではありません。一方で、一定の芽が出てくるまで(マーケットが熟すまで)のリードタイムが、若年~壮年世代を相手にするビジネスよりも掛かることが予想されます。

このフェーズでは地道な草の根的な活動が少なからず必要になって来るので、学生のインターンシップやボランティアの協力を得て、社会的に意義あることを一緒に展開していく同志を集め、コストを分散させることも有用な手法だと考えています。

通信事業者だからシニア向け通信サービスを作る、メーカーだからシニア向け商品開発をするといった、事業者が売り物ありきでシニア向けに拡張しようとするケースが多々あるように思います。シニア市場を睨んだ売り手側からの観点ではなく、「シニアが生活において何を望んでいるか」といった買い手の観点からシンプルに考え直していくことが重要ではないでしょうか。

誰も気づいていない新しいシニア向けサービスや商品のチャンスはまだまだあるでしょうし、今後もどんどん生まれてくるだろうと考えています。

(桑山裕史:結婚相談所)