人目を引くマッスルカー│フォード・トリノ"キングコブラ"

人目を引く車がほしい人がいたら、この全長17フィート6インチ(約6.7m )のフォード・トリノ"キングコブラ"が希望を叶えてくれるはずだ。

伝説的デザイナーのラリー・シノダが手掛けたわずか2台のプロトタイプの1台である。フォードとクライスラーがNASCARを舞台に繰り広げていたいわゆる"空力戦争"の武器として生まれた。

ところが、キングコブラがサーキットに滑り出る前に、バンキー・ヌードセンに代わってリー・アイアコッカがフォードの社長となり、すぐにレース予算を大幅に削減した。2台のプロトタイプも用済みとされ、広大なディアボーン工場のラナバウトとして不名誉な日々を送ることとなってしまう。

1971年、NASCARのチームオーナーでレーシングカーデザイナーのバド・ムーアが、スポーツカークラブ・オブ・アメリカのイベントで使うマスタングを受け取るために工場を訪れた。ムーアはキングコブラを見るとすぐに重要性を見抜き、わずか1200ドルで2台を購入した。イエローだった1 台はある警官に売却され、現在はテネシー州のマッスルカー博物館で展示されている。残りの1台、RKモーターズで販売されているこの車は、サウスカロライナ州の野原で数年前に発見された。



明らかにひどい状態だったが、フォードのエンスージアストであるスティーブ・ダニエルとデニス・ロイの手で見事によみがえった。二人は車のヒストリーを調べ上げ、細部まで丹念にレストアした。鮮やかなバーミリオンのボディカラーも、オリジナルではない青い塗装の下から発見したものだ。

いまや新車同然で、フォードのレース史の重要な1ページを飾るにふさわしい車となった。ただし、その実力は見かけから想像するほどではない。ハイパフォーマンスの429cu-inヘミヘッドエンジンを搭載してはいるものの、それ以外は標準仕様のトリノとほとんど同じなのだ。使いやすい快適な公道用マッスルカーとして生まれ変わっており、座席は前後ともベンチシートで、黒のカーペットや、木目のインサートが入ったドアパネル、ラジオを備える。

とはいえ、新オーナーにキングコブラのルーツを思い出させるかのように、トランクリッドには、フォードのレース史研究家でバド・ムーアの伝記も書いたジョン・クラフトと二人の元NASCARドライバーのサインが入っている。

いずれにしても、この車が信号待ちで横に止まったら、戦いを挑む勇気のある者はまずいないだろう。