今年1月にファンサービスの向上やクラブ運営の強化を目的に日本IBMの支援を受け、スポーツビジネスプラットフォームを構築し、運用を開始したJ1の清水エスパルスを運営するエスパルス。具体的に同社が何を目指そうとしているのか、エスパルス 代表取締役社長の左伴繁雄氏と、日本IBM GBS事業本部 コグニティブ推進室 IBM SPORTS コグニティブエクスペリエンスプロデューサーの岡田明氏に話を聞いた。

  • エスパルス 代表取締役社長の左伴繁雄氏(右)と日本IBM GBS事業本部 コグニティブ推進室 IBM SPORTS コグニティブエクスペリエンスプロデューサーの岡田明氏

    エスパルス 代表取締役社長の左伴繁雄氏(右)と日本IBM GBS事業本部 コグニティブ推進室 IBM SPORTS コグニティブエクスペリエンスプロデューサーの岡田明氏

ビジネス面におけるサッカー界の課題

まず、左伴氏はサッカー界全体の課題として「1つ目はスポーツでビジネスを大きく変革すること自体が新しいことであったため、なにが正解が判然としませんでした。2つ目は親会社の100%子会社の場合、そのまま親会社の影響も受けることもあり、齟齬が生じることがありました。そして、3つ目はITが日常的になっていますが、業務としては紙による事務処理などが発生し、顧客が折り合いをつけてくれることもありました」と、振り返る。

経理や営業、マーケティング、物販、スクールなどの各業務に加え、一般企業とは異なり、サッカーの場合は“情報”がスタジアムの来場者や物販の購入者など、多様なチャネルから入り込むことから、サッカー事業特有の領域をカバーしつつ、多岐にわたる情報を蓄積・加工・分析・活用できるプラットフォームを構築した上で、対応しなければならないと感じていたという。

要するに、社内外の情報=データの活用に課題を抱えていたというわけだ。同氏は「これはエスパルスだけに限らない課題です。そのため、国内の全クラブで活用できるようなものを構築したいと考えました。これが日本IBMと共同で取り組むきっかけとなりました」と話す。

縦割りからの脱却

ただ、両社で取り組む際には乗り越えなければならない壁もあったようだ。左伴氏は「サッカー産業と他の産業との違いは、お客さまとのタッチポイントを多く抱えていることです。地域のクラブ経営は地域の人々が幸せになってもらうという側面において、観戦だけではなく、物販購入、スクールビジネスをはじめとしたタッチポイントが存在します。それを1つ1つ、お客さまに満足してもらうためにマーケティングのほか、ベンチマークとして国内外のクラブの事例を収集しましたが、縦割りでの業務では成長が期待できないと感じていました」との認識を示す。

また、岡田氏は「現状の組織はチケット、物販、ECなど業務ごとに縦割りになっており、慣習的なものが残っていました。単に組織に対して横串を通すような形で業務を統合してしまえばデータ連携の必要もなくなるため、プロジェクトを通して業務改善を進めました。Jリーグ発足から25年を経てもなお、各クラブにおいて最適解がないことから、われわれでも模索しましたが、従業員のマインドセットが一番大変でした。最適解があれば、サービス開発など本来人間が注力すべき業務に取り組めるようなシステムを構築できると思いました」と、振り返る。

つまり、スタジアム来場者やサッカースクール、後援会、通販・ショップでのグッズ購入者、スタジアムグルメ、アウェイゲームに観光を兼ねて行く人など、これまでは縦割りの中で利用していた“情報”を連携すれば喜ばれるサービスが導き出されるのではないか、と考えたという。