IoTの普及に応じて、センサやアクチュエータなどのスマートデバイスは、電源内蔵式やコイン型電池のような小型の電源でも、何年も動作し続けることが求められています。そうした超低消費電力設計の技術は近年、環境発電やバッテリ管理システムからアンテナに至るまで、急速に洗練化されました。不要なサブシステムを停止することで、常にエネルギーを最大限に活用できるようになっています。

しかしエネルギー効率を考慮した回路やソフトウェア設計であっても、コンデンサに漏電があれば、一定の電流を長期間維持する仕組みも阻害されます。環境発電システムやDC/DCコンバータからの電力の安定化には、一般に複数のコンデンサが必要ですが、充電すると穴の空いたバケツのように電荷が少しずつ失われ、貴重なエネルギーに無駄が生じます。

マイクロアンペアにすれば少量ですが、マイクロコントローラの省電力モードを精密に適用する程度に応じて、漏電の量は増加します。そのため、回路内のコンデンサにおける漏れ電流を分析し、それを軽減する代替コンポーネントを検討することには意味があります。

エネルギー節減の可能性

図1は、テキサス・インスツルメンツ(TI)が公開した、PIRセンサのリファレンス設計について推奨されている、5個のコンデンサで構成されたリザーバ・コンデンサ・ネットワークを示しています。一般的にこのタイプの製品は、メンテナンスフリーで10年間動作することが求められますが、コンデンサの選択を誤ると、コイン型電池で10年間供給できる量を超える電流が引き込まれる可能性があります。

  • バッテリー電力

    図1.バッテリー電力は、電源のフィルタリングと安定化コンデンサによって失われる可能性がある

同様に環境発電システムでは、利用を推進するために多量の静電容量が必要になります。静電容量は平均消費電力に従って計算されます。太陽電池やペルチェ・モジュールなど、環境発電メカニズムによって収集されたエネルギーは、ごく一部がコンデンサに貯蔵され、時間をかけて放電されます。

技術の選択

技術、定格電圧、静電容量を適切に選択することで、漏れによるエネルギー損失が大きく変わります。本稿では、セラミック・コンデンサ(MLCC)について考えます。MLCCは、電源ノイズをフィルタリングするとともに、電力供給の中断に対応し、シャットダウンを確実に完了させるためのホールドアップ・エネルギーの供給に広範に利用されています。漏れ電流は少量であることから、その効果は装置の絶縁抵抗によって定量化されます。絶縁抵抗が高いほど漏れが少ないことになります。

MLCCは、セラミック誘電体で区切られた複数のパラレル・プレートで構成されています。一般的に、最小のケース・サイズで可能な限り静電容量を大きくすることが望まれます。コンデンサ・メーカは、薄い誘電体層、微粒子、精密貼合技術を開発することで、SMDの標準的なケース・サイズの制約の中で静電容量を増大させてきました。一方で、定格電圧を高めるには誘電体層を厚くしなければなりません。定格電圧を上げると絶縁抵抗が増大するため、漏れ電流は減少しますが、ケース・サイズが同じであれば静電容量も減少します。

誘電体の厚さ、印加電圧、電子移動度が漏れ電流に及ぼす影響を調べることができます。コンデンサ内の電界が荷電粒子に力を及ぼします。

F = E*q = U/d * q

この力が、装置内の漏れ電流を構成する電子の流れを促進します。特定の印加電圧の下で誘電体の厚さ(d)が低減すれば、力(F)が増加し、それに伴って漏れ電流が増加することは明らかです。

静電容量とケース・サイズの関係は、次の式によって表すこともできます。

C = (k x A x (n-1))/t

領域を(たとえば0812から0402に)狭めながら静電容量を維持するには、誘電体の厚さを減らすか層の数を増やします。多くの場合、両方の方法を組み合わせます。一般的には、コンデンサを小型化すると漏れ電流が増加します。

また、温度変化に応じた漏れ電流の変動にも注意する必要があります。温度の上昇に伴って荷電粒子の移動度が高まると、漏れ電流も増加します。実際は、室温から45℃に上昇するまでに、MLCCの漏れ電流は7倍以上に増加します。

漏れ電流の計算

漏れ電流を計算することで、バッテリのランタイムに対する影響の評価が可能になります。電圧を加えた直後のコンデンサ内の電流は、充電電流と誘電吸収電流、そして漏れ電流で構成されています。充電電流と吸収電流が減衰するに従い、電流フローは漏れ電流に収束します。

セラミック・コンデンサのデータシートでは、最小保証絶縁抵抗(絶縁抵抗限界)がオーム・ファラド(Ω-F)で示されています。特定のコンデンサの絶縁抵抗を計算するには、装置の仕様であるオーム・ファラドの数値を確認し、静電容量の値で割ります。動作電圧における漏れ電流は、次のようにオームの法則を適用して計算します。

Leakage current = Voltage/(insulation resistance)

パワーレール・フィルタリング用に、10 x 47μF商用X7R MLCCを5Vの動作電圧で使用する例を考えます。この装置のデータシートでは、500MΩ.μFの絶縁抵抗仕様が保証されています。

IR = 500MΩ/(47μF) = 10.6MΩ

次に、コンデンサを10個配列した場合のDC漏れ電流を計算します。

IR (10 x 47μF) = (500MΩ.μF)/(47μF) x 1/10 = 1.06MΩ

DCL (10 x 47μF) = 5V/1.06MΩ = 4.7μA

タンタル・コンデンサ

タンタル・コンデンサは、電力に制約のあるIoTデバイスが耐用年限までメンテナンスフリーで動作するために必要な、優れた体積効率、低ノイズ、経時的安定性を特徴としています。

これらのタイプのコンデンサでは、セラミック・コンデンサの場合よりもDC漏れ電流の評価が容易です。データシートでは、DC漏れ電流が静電容量と電圧の割合で表されています。例えば、KEMETのT491規格対応MnO2コンデンサ・シリーズの場合、式は次のようになります。

DCL = 0.01 x C x V

したがって、上述の例と同様に470μFの静電容量で5Vの電圧を加えると、DC漏れ電流は次のようになります。

DCL = 0.01 x C x V = 0.01 x 470 x 5 = 23.5μA

漏れ電流が最小になるように設計されたKEMET T489シリーズの場合は、次の式で計算できます。

DCL = 0.0075 x C x V = 0.0075 x 470 x 5 = 17.6μA

つまりT491コンデンサを470µFのT489装置に置き換えることで、漏れ電流が効果的に低減することになります。

タンタル・コンデンサの場合、定格電圧と誘電体の厚さとの関連性により、漏れ電流は定格印加電圧と定格電圧の比率に大きく影響されます。 図2のグラフは、印加電圧が定格電圧よりも大幅に低い場合に、漏れ電流が大きく低減することを示しています。定格電圧が印加電圧の10倍であるコンデンサを指定すれば、DC漏れ電流が50分の1に低減する可能性があります。漏れ電流が可能な限り少ない回路を設計するには、装置のサイズが大きくなっても、このようなコンデンサを使用することが有効です。

漏れ電流は温度によっても左右されることから、この関係は、システムのエネルギー収支に対する効果を計算する場合にも考慮すべきです。

  • DC漏れ電流

    図2.印加電圧/定格電圧の比率によるDC漏れ電流の典型的な変動

まとめ

バッテリの充電や交換なしで長期間動作する、超低電力のシステムや装置を設計する場合には、コンデンサのDC漏れ現象を考慮することが重要になります。例としては、PIRセンサや、安定したエネルギー供給を維持するために大きな静電容量を必要とする環境発電システムが挙げられます。

システムのエネルギー収支に対する漏れ電流の全体的な影響を計算し、必要な緩和策を決定することが有益です。静電容量が大きいセラミック・コンデンサは、DC漏れ電流も大きくなる性質があります。一方、定格電圧が高い装置では漏れ電流の減少による効果が得られますが、パッケージ・サイズに応じて静電容量は少なくなります。漏れ電流は、T498タンタル・シリーズなど、漏れ電流が少ない製品シリーズのコンデンサを指定することで軽減できます。

著者プロフィール

Axel Schmidt
KEMET
ヨーロッパ中央・東部・山岳地区担当シニア・テクニカル・マーケティング・エンジニア
自社Webサイトや顧客向けに技術コンテンツの作成と、EMEA地区のマーケティング活動支援を担当
独ボーフム大学から、エレクトロニクスの学位を授与
ドイツ在住