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 断崖絶壁から転げ落ちるようにして、ドイツ代表の黄金時代は終焉した。昨年6月の時点で1位だったFIFAランキングは16位まで急降下。ここまで低水準になるのは2005年以来のことで、もはや世界のトップを走るチームではなくなっている。ロシアW杯での惨敗が決してアクシデントではなかったのは、その後の戦いぶりからもうかがえるだろう。

 新設のUEFAネーションズリーグではオランダに2敗(アウェーで0-3、ホームで2-3)、フランスに1分1敗(ホームで0-0、アウェーで1-2)と苦杯を嘗め、セカンドディビジョンにあたるグループB降格が決定。昨秋のフレンドリーマッチでペルー、ロシアに勝利を収めたものの、今年最初のゲームとなったセルビア戦では1-1と勝ち切れなかった。

 そのセルビア戦の前半終了時には、ファンのフラストレーションが爆発した。1点のビハインドだった試合展開への怒りはもちろん、改善の兆しが見られないパフォーマンスに抗議する意味も込められていたはずだ。試合後、リーダー格の1人であるマルコ・ロイスは「全体的に物足りなかったと思う」とホームで勝てなかったことを悔やんだ。

◆波紋を広げた“構想外宣告”

 セルビア戦の直前には、チームの根幹を揺るがす出来事も起きている。ヨアヒム・レーヴ監督が、トーマス・ミュラー、マッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテングに構想外を言い渡したのだ。理由は“世代交代”だ。ミュラーが29歳、フンメルスとボアテングが30歳で、いずれも今後の大きな成長は見込めない。さらに、隣国のオランダやフランスが若手中心の編成で躍進している事実を考えれば、チーム再建に取り組むレーヴが重鎮3人と決別する判断を下したのは理解できる。

 ただ、やり方がスマートではなかった。事前通告なしにバイエルンのクラブハウスを訪れると、3人に自身の構想から外れた旨を伝えたのだ。しかも、会話はそれぞれ5分程度。ブラジルW杯制覇をはじめ、2010年代におけるドイツ代表の躍進に寄与してきた功労者たちに対する仕打ちとしては明らかに礼を失した。ミュラーやフンメルスは怒りを隠そうとはせず、ドイツ代表の同僚やOBたちも今回のやり方には疑問を呈している。

 セルビア戦で発生したレロイ・サネやイルカイ・ギュンドアンに対する人種差別的な野次を含め、ピッチ内外で平穏とは無縁の日々を送るドイツ代表は、果たして再び勝利のサイクルに突入できるのか。DFB(ドイツサッカー連盟)のラインハルト・グリンデル会長からの信頼が厚いレーヴが、その鍵を握っているのは間違いない。

◆指揮官の後継者問題も浮上

 レーヴはいわばアンタッチャブルな存在だ。ワールドカップ優勝が1回、同3位が1回、EURO準優勝1回、同ベスト4が2回の実績を残してきた。ドイツ代表史上最も多くの試合をこなした指揮官であり、1990年代終盤から2000年代中盤にかけて低迷していた母国代表を世界のトップに押し上げた功績は計り知れない。それゆえ彼への批判的な論調はほぼ皆無だった。ロシアW杯前にインタビューしたピエール・リトバルスキーはこんなことを言っていた。

「レーヴ監督に何か文句を言う人はほとんどいないよ。あれだけの結果を残してきたからね。だから何をしようと、誰もケチをつけたりできないんだ」

 もう一つ、彼を特別な存在にしている大きな理由がある。後継者がいないことだ。ドイツ国民が望むユルゲン・クロップは、蜜月関係にあるリヴァプールと2022年6月まで契約を残している。パリ・サンジェルマンのトーマス・トゥヘルは、求心力や実績に疑問符が付く。来季からライプツィヒの指揮を執るユリアン・ナーゲルスマンも同様だ。レーヴの右腕であるマルクス・ゾルクは、ユース指導のエキスパートという評価しかない。

 24日のオランダ戦からスタートするEURO2020予選でよほどの失態を犯さないかぎり、レーヴ体制は安泰だろう。その予選で重要な役割を担うのはマヌエル・ノイアー、トニ・クロース、マルコ・ロイスの3人だ。世代交代を掲げるレーヴがチームに残したベテランたちには、ピッチで好パフォーマンスを見せるだけでなく、若手を正しい方向に導く役割も求められる。ただ、ノイアーはマルク・アンドレ・テア・シュテーゲン、ロイスはサネやユリアン・ドラクスラー、セルジュ・ニャブリ、ユリアン・ブラントら後進の突き上げを食らっており、今予選中にレギュラーの座を失ってもおかしくない。

◆覇権奪還への豊富な人材

 幸い、復権に向けたリソース(人的資源)は十分だ。フンメルスとボアテングが去ったCBは、23歳のニクラス・ズーレを軸に、26歳のアントニオ・リュディガー、25歳のマティアス・ギンター、22歳のティロ・ケーラー、23歳のヨナタン・ターなど、これからが旬のタレントが揃っている。SBに目を移しても、セルビア戦で22歳のルーカス・クロスターマンがデビュー。フィリップ・ラームやジョシュア・キミッヒと異なり、189cmの高さを誇るこの右SBが順調に育てば、チームに新たな側面がもたらされるはずだ。

 中盤はそれこそ多士済々。クロースを筆頭に、28歳のイルカイ・ギュンドアン、最近はアンカー起用が多い24歳のキミッヒ、セルビア戦で貴重な同点弾を決めた24歳のレオン・ゴレツカとメガクラブの主力がズラリと並び、“エジル2世”のカイ・ハヴェルツ(19歳)やバスティアン・シュバインシュタイガーを彷彿させるマキシミリアン・エッゲシュタイン(22歳)など次代のスーパースター候補も頭角を現している。

 ロイス、サネ、ブラント、ニャブリ、ドラクスラーらがレギュラーの2枠を争うウイングも盤石で、唯一の懸案はCFだ。ロシアW杯で期待を裏切ったものの、非凡な得点感覚を持つ23歳のティモ・ヴェルナー以外に目ぼしい若手が見当たらない。2部のキールで二桁得点を挙げている大型CFのヤンニ・セッラ(21歳)、20年夏のバイエルン加入が決まっている万能FWのヤン・フィーテ・アルプ(19歳)あたりの急成長が待ち望まれる。

 積み重ねてきたものは一瞬にして崩れる。それを再び構築するのは並大抵のことではない。スペイン代表やイタリア代表もいまだ再建途上にある。ドイツ代表が真の復権を果たすには相応の時間がかかるだろう。そのためには、ヨーロッパ戦線で結果を残せなくなっているブンデスリーガ勢の復活も欠かせないのは言うまでもない。

文=遠藤孝輔