Appleが米国本社「Apple Park」内にあるSteve Jobs Theaterで3月25日(現地時間)に開催するスペシャルイベント「It's Show Time.」は、映像関連のサービスの立ち上げが主題になるのではないか、と予測できる。現在Appleは、売り上げの6割をiPhoneに依存しているが、iPhoneの不調はAppleの業績への影響に直結する。2019年第1四半期決算(2018年10~12月)は、iPhoneの不振によって売上高を約5%落としたが、iPhoneの売上高の減少幅が15%だったのに対し、その他の製品の売上高は8~33%増加していたことからも、Appleにとって脱iPhoneを急ぐ必要性が透けて見える。

  • iPhoneの一本足打法からの脱却を目指すAppleのTim Cook CEO(右端)

そうしたなかで、最も注目しているカテゴリーがサービス部門だ。Tim Cook CEOは2016年の売上高を2020年までに2倍にすると目標を設定し、現在その目標を達成するペースに乗せてきている。とはいえ、さらに売上高を増加させる起爆剤が必要であり、映像系のサービスは重要な材料となっているのだ。

米国のエンターテインメントのモバイル化にチャンス

米国は、世界でもっともエンターテインメント産業が盛んな国といえる。ハリウッドを代表する映画産業はもちろんだが、米国内の映像消費で重要なメディアはケーブルテレビだった。しかし、ライフスタイルの変化、特にメディアのモバイル化や、そのモバイルで利用できる映像サービスの成長から、ケーブルテレビは現在大きな下降トレンドに入っている。

米国内でのケーブルテレビの売上高は、2013年の990億ドル(11兆550億円)がピークとなっており、2016年には810億ドル(9兆450億円)まで下落している。NetflixやAmazon、Huluといった映像ストリーミングサービスと10倍以上の価格差があるケーブルの競争力が失われていることの表れだ。しかし裏を返せば、まだ2016年の段階で800億ドルを超える売り上げがあるのだ。

もし、映像サービスを2019年にスタートさせるなら、Appleはディズニーとともに後発組となる。しかし、まだパイは800億ドル規模で残っていることになり、そのうちの10%でも80億ドル、20%では160億ドルとなる。現時点で年間の売り上げペースが400億ドルのAppleのサービス部門にとっては、非常に魅力的な市場であることが分かる。

Appleは音楽の分野で、CD・MDからiPod・iTunesへの「転換」を成功の道筋にしてきた。ケーブルからiPhone・Apple TVへ、という視聴方式の転換は、Appleが現在取り組むオリジナルコンテンツがなくても成功させる可能性を秘めている。

2011年に米国生活をスタートさせた筆者も、初期こそケーブルテレビを契約していたが、インターネット契約を残してケーブルテレビは解約し、NetflixやAmazon PrimeをApple TVを介してテレビで視聴する、というスタイルに転換した。これが、米国でよく使われる「ケーブルカット」と呼ばれる視聴形態の転換だ。これによって、毎月120ドル(約1万3400円)だったケーブルテレビの月額料金はインターネットのみの40ドル(約4460円)以下になり、月額10ドルのストリーミングサービスをプラスして50ドル(約5580円)で済むようになった。実に、毎月70ドルも浮いたのだ。

ただ、一度Netflixを契約したからといって、ずっと見続けるわけでもない。見たいドラマがあったら、次の月はHuluに切り替えたり、またNetflixに戻したりと、行ったり来たりしていた。しかし、Amazon Primeに付帯しているPrime Videoだけは、ずっと途切れず視聴していた。

このように、まだまだ決定的な勝負がついているとはいえないのがストリーミングサービスの現状だ。