洋泉社より2019年3月7日に発売された特撮書籍「別冊映画秘宝 昭和メカゴジラ鋼鉄図鑑」(編:友井健人)の刊行を記念して17日、立川シネマシティにて『機動45周年! 立川決戦 初代メカゴジラ極上爆音上映』と題された上映&トークイベントが催された。

  • 上段左から、ロボ石丸氏、三池敏夫氏、安丸信行氏、中野昭慶氏、井口昭彦氏、佛田洋氏、西川伸司氏、下段左から、大宇宙ブラックホール第三惑星人(大内ライダー氏)、ガイガン山崎氏、友井健人氏

本イベントではゴジラシリーズの第14作にして、特撮映画界屈指の人気キャラクター"メカゴジラ"が初登場した1974年公開の東宝映画『ゴジラ対メカゴジラ』(監督:福田純、特技監督:中野昭慶)の"爆音"フィルム上映が行われたほか、本作にゆかりの深い製作スタッフ、およびメカゴジラを愛する現役クリエイターたちが集い、『ゴジラ対メカゴジラ』の魅力について語り合った。

「昭和メカゴジラ鋼鉄図鑑」とは、雑誌『特撮秘宝』でも活躍する友井健人氏が企画・構成・執筆を手がけ、ゴジラ最大のライバルとして幅広い年齢層から絶大な人気を誇る"メカゴジラ"にスポットを当て、メカゴジラのデビュー作である『ゴジラ対メカゴジラ』と、その続編として1975年に公開された『メカゴジラの逆襲』(監督:本多猪四郎、特技監督:中野昭慶)の2作品を徹底的に掘り下げたムックである。

『ゴジラ対メカゴジラ』は、第1作『ゴジラ』(1954年)の公開から20年という記念すべき年に作られた作品であり、ポスターにも「ゴジラ誕生20周年記念映画」と記載されている。第1作では、度重なる原水爆実験の影響によって安住の地を追いやられ、その怒りで東京を炎の海に包んだゴジラだったが、シリーズを重ねるごとに激しい闘争本能を"敵"の怪獣へと向けるようになり、いつしか人類の頼もしい味方、地球を守るため悪い侵略怪獣と戦うヒーローのような存在へと変化していった。最初はヒール(悪玉)として暴虐の限りを尽くしていたキャラクターが、人気の高まりに合わせてベビーフェイス(善玉)に転向するというのはプロレス界や映画界ではよくあるケースで、それは20年もの間ゴジラが常に怪獣の世界でトップクラスの人気を保ち続けてきたことを如実に示す現象だといえる。

人類の味方・ゴジラを倒すべく、大宇宙ブラックホール第三惑星からやってきた侵略者たちはゴジラを徹底的に研究し、ゴジラ抹殺に特化した巨大なロボット怪獣を建造した。それがメカゴジラである。当初はゴジラそっくりの姿に化けて破壊活動を行っていたが、本物のゴジラが出現したことによって人工皮膚の下に隠された正体を現した。宇宙金属スペースチタニウムで出来たその全身は銀色に輝き、目からは虹色のスペースビーム、指先からはフィンガーミサイル、胸部からはクロスアタックビームなど、身体の各部分に強力な武器を備えた"すごい奴"だった。

第三惑星人はメカゴジラによる地球侵略に害をなす存在として、古代安豆味王族の守り神である伝説怪獣キングシーサーの復活を恐れており、沖縄で発見された獅子の"置物"を執拗に狙おうとする。物語はこの置物をめぐる人間側と侵略者側の攻防戦や、ニセゴジラの都市破壊や本物のゴジラとの激闘を描き、復活を果たしたキングシーサーとゴジラがメカゴジラを迎え撃つクライマックスへと続いていく。

「極上爆音(=極爆)上映」とは、立川シネマシティが誇る高性能サブウーファーで、極上の音と、建物が揺れるほどの爆音を両立させた超人気企画である。『ゴジラ対メカゴジラ』では、中野昭慶特技監督による渾身の"爆発"演出が随所に盛り込まれており、メカゴジラ自慢の"全方位攻撃""全弾発射"の効果音も並々ならぬ迫力に満ちている。これが"極爆上映"によってさらなる衝撃をもたらし、佐藤勝による臨場感抜群の音楽との相乗効果でただならぬ興奮を生み出す結果となった。

トークショー第1部では、『ゴジラ対メカゴジラ』で特技監督を務めた中野昭慶氏と、平成『ガメラ』シリーズや『シン・ゴジラ』なども手がけた特殊美術監督の三池敏夫氏が登壇し、友井健人氏の司会進行による"メカゴジラ"トークが行なわれた。

今年(2019年)は『ゴジラ対メカゴジラ』公開45周年であり、中野昭慶特技監督にとっては東宝入社(1959年)から60年、そして『クレージーの大爆発』(1969年)で特技監督デビューしてから50年という、まさに記念すべき年である。1974年3月公開の『ゴジラ対メカゴジラ』の直前には、小松左京の同名小説を映画化した空前の特撮大作『日本沈没』(1973年12月公開)で特技監督を務めており、1974年8月には『ノストラダムスの大予言』、12月には『エスパイ』と、特撮を売りにした大作、話題作を相次いで手がけている。『ゴジラ対メカゴジラ』の企画の発端は、監督自身に「ゴジラ20周年にふさわしい敵は何がいいか、アイデアを考えてくれ」と、田中友幸プロデューサーから相談を受けたことにあったという。中野監督は「ゴジラの相手はゴジラしかいないだろう」と答え、さらには「キングコングだってロボットを作ったんだから、ゴジラのロボットもあるだろう」と『キングコングの逆襲』(1967年)での「電子怪獣メカニ・コング」をも例に挙げながら、メカゴジラというキャラクターを考案したことを説明した。

中学生時代に『ゴジラ対メカゴジラ』を観たという三池氏は、「中野監督の作品は『日本沈没』のころからずっと観ていますが、いずれの作品でも爆発のすさまじさが印象的。『日本沈没』でも『ゴジラ対メカゴジラ』でもコンビナートの大破壊が強烈で、特撮映画の花形として自分もいつかはコンビナートの派手な破壊をやりたいと思った」と、少年時代に観た中野特撮に強いインパクトを受けていたことを明かしていた。

2018年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』では、主人公を襲う最強の敵として"メカゴジラ"が登場。デザインは日本のメカゴジラと違ってはいるが、冷酷無比な"悪役"キャラとしての活躍は、まさに『ゴジラ対メカゴジラ』のメカゴジラを想起させる。この"悪役"という部分について中野監督は「ゴジラが正義の味方ポジションだから、対するメカゴジラは悪の権化だよね。だから悪のカッコよさで押したつもり。ニヤッと笑って乙に澄ましてダン!(銃を撃つ)という。悪役というのは、見るからに悪そうな奴が暴れていても面白くない。カッコいい二枚目が見得を切って戦うから"すごい"って思われるんだよ」と、メカゴジラに"悪の美学"を持たせた経緯を話した。

三池氏が「メカゴジラがゴジラの皮を被った状態で現れ、本物のゴジラが出てきて"ゴジラ対ゴジラ"になったあと、皮を焼き捨てて正体を現すシーン、あそこは映画の大きな見せ場ですね」と、メカゴジラが初めてそのメタリックな正体を披露するシーンについて語ると、中野監督は「『多羅尾伴内』シリーズで変装の名人である名探偵・多羅尾伴内が口上と共に"しかしてその実体は"と正体を明かす場面や、『遠山の金さん』がもろ肌を脱いで刺青を見せ、見得を切る場面のカッコよさを表現したくて取り組んだ」と、探偵映画や時代劇での"見得"に通じるケレン味をメカゴジラに加えたかったと秘話を語った。

三池氏は『ゴジラ対メカゴジラ』の魅力のひとつとして「火薬」を挙げ「メカゴジラがゴジラとキングシーサーに向かって一斉攻撃をするシーンなんて、メカゴジラの姿が見えなくなるくらい爆発が起きている。美術予算が厳しかったとうかがっていますが、火薬の予算は大丈夫だったんですか?」と尋ねると、中野監督は「美術のぶんを火薬に回した」と、やはり"火薬""爆発"に対する思い入れを語った後「今回の上映では"音"にも注意してほしい。ダビングの際にこだわって、爆発の効果音を何種類も使い分けているんです」と、"極爆上映"に臨む観客に向かってお楽しみポイントを知らせた。

トークの最後には『ゴジラ対メカゴジラ』でメカゴジラとキングシーサーのデザインを担当した井口昭彦氏と、造形を手がけた安丸信行氏がステージに現れ、フォトセッションを行うことに。安丸氏はメカゴジラの造形にあたって「機械がいっぱい入っているような重量感を大切にしました」と、重量4万トンという設定に合わせてメカゴジラの重々しいイメージを意識していたことを明かした。井口氏は「わが息子のメカゴジラも45歳。この後にキングシーサーやチタノザウルスなど、言うことをきかないワルガキたちも生まれました。こういう輝かしい場に呼んでいただけて、メカゴジラはいい息子になったなと思います」と、自身の創造したキャラクターたちが息の長い人気を誇っていることを喜ぶコメントを残した。

『ゴジラ対メカゴジラ』の"極爆上映"をはさんで、トークショーの第2部が始まった。ここでは、『ゴジラ対メカゴジラ』ファン座談会と題して、公開当時からのメカゴジラファンであり、後に『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)で新世紀メカゴジラというべき「3式機龍」のデザインを手がけた漫画家・デザイナーの西川伸司氏と、東映の「スーパー戦隊シリーズ」や「仮面ライダーシリーズ」で特撮監督を務めている特撮研究所の佛田洋氏が登壇。そして若い怪獣・特撮ファンを代表し、各種雑誌・書籍での執筆をはじめトークイベント、TV出演などもこなすライター・ガイガン山崎氏と、特撮作品の音楽をカヴァーする特撮リスペクトユニット「科楽特奏隊」でも活躍するミュージシャンの大内ライダー氏が登壇し、熱きメカゴジラトークを繰り広げた。大内氏は今回のために大宇宙ブラックホール第三惑星人のコスプレで登場して、事前に知らされていなかった司会進行のロボ石丸氏をあわてさせたが、幸いなことに地球を侵略する意図はないようで、終始和気あいあいとイベントが進められた。

少年時代から特撮・怪獣に魅せられていた西川氏は『ゴジラ対メカゴジラ』との出会いをふりかえり、「当時は9歳だったのですが、そろそろ周囲では怪獣映画を観ている人が少なくなってきた状況。僕も前年の『ゴジラ対メガロ』(73年)には映画館へ行っていなかったものの、『少年マガジン』の巻頭グラビアにメカゴジラの写真がバーン!と載っていたのを見て、これは観に行かなければ!!と思った」と、メカゴジラの強いキャラクター性に一瞬で惹かれたことを明かした。

ちょうどイベント当日に新番組『騎士竜戦隊リュウソウジャー』が始まり、第1話で巨大なマイナソー(怪獣)とキシリュウオー(巨大戦士)とのライブアクションによる特撮シーンを演出していた佛田氏は「当時は12歳でした。『ゴジラ対メカゴジラ』は公開当時観ておらず、再上映のときに初めて観ました。本格的に観直したのは『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992年)で、ドラゴンシーザーというキャラクターを出したときのこと。ドラゴンシーザーは最初、敵として現れて街を攻撃するのですが、指からミサイルを発射するカットでメカゴジラのフィンガーミサイルを参考にしました。まあ、『ジャイアントロボ』(1967年)も参考にしましたけれど(笑)」と、スーパー戦隊の特撮演出の中にメカゴジラのカッコいいモーションを積極的に取り入れたことを説明した。

1984年生まれの山崎氏はリアルタイムでは『ゴジラ対メカゴジラ』に間に合ってはいないが、3歳ごろのとき親に買ってもらったバンダイのソフビ「グレートモンスターシリーズ」でメカゴジラと遭遇し、やがてビデオソフトなどで作品を観てあまりのカッコよさに「もうメカゴジラのことしか考えられなかった」とハマったことを打ち明けた。

大内氏は、劇中で第三惑星人が用いる合言葉「アルファー!」を叫び、観客から「ケンタウルス!」と返してもらうコール&レスポンスを行い、たちまち場を盛り上げた。山崎氏と同年代だという大内氏もまた少年時代にメカゴジラのファンになったのだが、最初の出逢いは自身が小学2年生のころの『ゴジラVSメカゴジラ』(1993年)の平成版メカゴジラだったという。やがて平成から昭和へと作品をさかのぼることによって、昭和メカゴジラの魅力にハマったと笑顔で語った。

佛田氏は『ジュウレンジャー』でドラゴンシーザーの都市破壊シーンを演出していたころ、中野昭慶監督が代々木アニメーション学院の生徒たちを連れてステージを見学に来ていたときのことをふりかえって「中野監督がせっかく来られるし、メカゴジラほどの規模ではないけれど、派手な破壊シーンを作ろうと頑張りました。よく覚えているのは、中野監督が生徒さんに『特撮の現場は"戦場"である。爆破ミニチュアの破片や火の粉が飛んだりして危険なので、服装もちゃんと気をつけないと』と話していたんですけれど、監督の僕がTシャツに短パン姿だった(笑)。その節はすいませんでした」と、中野監督に恐縮する場面も見られた。また西川氏は「翌年、『ゴジラVSメカゴジラ』で新しいメカゴジラを作り出すため、僕が参考用にドラゴンシーザーのミサイル発射シーンをスタッフに見せたんです」と、新旧メカゴジラとドラゴンシーザーとの浅からぬつながりを感じさせるコメントを続け、会場を沸かせていた。

「メカゴジラはあらゆる面で"過剰"なところがいい」(山崎氏)「足の先にもミサイルがついている」(大内氏)「鉄壁の守りと"内蔵武器"こそスーパーロボットの魅力」(西川氏)「キングシーサーは沖縄を守るために出てきたくせに、ビームをはね返すのと体当たりくらいしかできず、ほとんどやられてばかり」(山崎氏)「やっぱり着ぐるみがイイ。現場でドッカンドッカン爆発させたほうが楽しいし、盛り上がる。『リュウソウジャー』でもやったけど、人の入っていないスーツをピアノ線で吊って吹っ飛ばすのは最高(笑)」(佛田氏)「僕ら(科楽特奏隊)もカヴァーしましたけれど、メカゴジラのテーマソング(メカゴジラをやっつけろ)の臨場感はすごい。あのような曲は他の怪獣ソングにはない」(大内氏)と、それぞれがメカゴジラの魅力について興味深い発言を残し、濃厚な怪獣ファンの集う客席をうならせた。

また、古代安豆味王族の末裔である那美が熱唱し、キングシーサーを眠りから覚めさせるという重要な意味を持つ本作の主題歌「ミヤラビの祈り」(歌:ベルベラ・リーン)については、大内氏が「ドレミファソラシドの"レ"と"ラ"を抜いたものが"琉球音階"なのですが、『ミヤラビの祈り』のメロディーにはレもラもガンガン入っていて、ぜんぜん沖縄っぽくない。古代の祈りの歌がまさかあんな曲だとは」と、さすがミュージシャンならではの分析を入れ、山崎氏が「1番を歌った直後にメカゴジラが(キングシーサー側に)近づいてきて、そろそろ復活するかな、と思ったら2番を歌い始め、みんなタイミングを外されてガクっとなる。あの"間"がたまらない」と、ベルベラ・リーンが2番を歌いきるまで目覚めないというキングシーサーの天然ぶりに言及し、笑いを誘った。

『ゴジラ対メカゴジラ』極爆上映は大盛況のまま閉会となったが、大音量で響かせられる爆発の効果音や勢いのある音楽での上映は多くの観客にとって極めて満足度の高いものだったようで、「次回はぜひ『メカゴジラの逆襲』を極爆上映で観たい!」という要望も高まったという。メカゴジラ・シリーズ第2弾『メカゴジラの逆襲』(1975年)の極爆上映が実現するかどうかは、「昭和メカゴジラ鋼鉄図鑑」の売れ行きとファンの要望の声次第だというので、メカゴジラファンならびに昭和ゴジラファンのみなさんはぜひとも応援をしていただきたいところだ。