10月の携帯キャリアサービス開始に向けて着々と準備を進める楽天は、2月25日よりスペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連展示「MWC19 Barcelona」に出展し、世界のモバイル関係者に向けて、同社の取り組みをアピールした。

MWC19に出展した楽天ブース

楽天のインフラは既存キャリアとは大きく異なる最新技術で固めており、三木谷浩史社長は「携帯業界のアポロ計画」と表現する。目下の課題は日本国内でのサービス立ち上げだが、将来的な海外展開の可能性も見えてきた。

世界が注目する「クラウドベースの携帯キャリア」

MWC19の基調講演に登壇した楽天の三木谷浩史社長は、無線アクセスからコアまでをソフトウェアで動かす携帯キャリア構想を世界にアピールした。

MWC19の基調講演に登壇した楽天の三木谷浩史社長

楽天が注目される理由のひとつが、インターネットにサービスを展開する「OTTプレイヤー」が携帯キャリアに参入する点にある。グーグルは国をまたいだMVNOサービスを展開しているが、電波の割り当てを受け、基地局を整備する携帯キャリア事業に参入する事例は珍しい。

5Gへの移行を前提に、IT企業が得意とするクラウドや仮想化技術を携帯キャリアに持ち込む事に対して、楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「手前味噌だが、楽天の発表はMWC19で最も話題になっているのではないか」と語る。

楽天モバイルネットワークの山田善久社長

残念ながら、基調講演の会場は満員とまではいかなかったものの、MWC19では世界の通信事業者から問い合わせがあり、関心を持たれた。楽天のやり方が成功すれば、海外でもその手法を採り入れる事業者が出てきそうだ。

そうなれば、楽天がキャリア構築で得たノウハウは海外でも需要が高まることだろう。三木谷氏は今後の海外展開について、「夏以降に検討を始める」と語っている。多くの携帯キャリアが国内事業を主軸としている中、楽天のモバイル事業はグローバル展開の可能性が見えてきた。

基地局整備は順調、料金プランの詳細は語らず

MWC19で大風呂敷を広げた楽天だが、目下の課題は10月の国内向けサービスの立ち上げだ。焦点となっているのは、東名阪での基地局整備、他キャリアよりも魅力的な料金設定、MVNOユーザーの移行、そして端末販売といった課題だ。

MWC19の基調講演後の質疑応答に応じる三木谷社長

携帯電話で最も重要なエリアについて、地方ではKDDIとの提携で2026年3月までローミングを利用できるため、auと同じエリアで利用できる。問題は楽天が自前で基地局を立てる東京23区、大阪、名古屋などの人口密集地だ。

基地局整備は順調に進んでおり、サービス開始に必要な整備は6月末に終わるという。地下鉄や地下街など設置が難しい場所では、既存キャリアと設備を共用する。だが、楽天が用いる1.7GHz帯は電波の回り込みがプラチナバンドほど良くはなく、どこまでカバーできるか注目される。

料金については、「シンプルな価格」「できるだけ囲い込むことはしない」との説明にとどまった。2019年はドコモの値下げやワイモバイルの分離プラン導入が予定されている中で、楽天が動けば他社に対抗されるのは必至であり、ぎりぎりまで公表しない構えだろう。

法改正で「三木谷割」がなくなる?

端末販売を得意としてきた楽天にとって、逆風も吹き始めた。MWC後の3月5日に、政府は回線契約による端末割引を禁止する方針を閣議決定。法改正が成立し、楽天もその対象となれば、「三木谷割」と呼ばれて成功を収めた、安値での端末バラマキは封じられ、急成長は難しくなる。

楽天モバイルでは音声回線とセットの端末セールが人気を集めている

将来的にはドコモやauのMVNOサービスを契約中の楽天モバイルユーザーを統合していくとの方針も示されたが、どのようなオファーになるかはまだ見えてこない。10月のサービス開始に向けて、徐々に明らかになっていく情報に注目したい。

(山口健太)