インテルは3月7日に都内で「Intel FPGA PAC N3000」の製品発表会を開催した。Intel FPGA PAC N3000(PAC N3000)は元々2019年のMWCの開催にあわせて、現地時間の2月24日に発表されたものだが、日本では3月7日の発表となった形だ。

発表会ではまずインテルの鈴木国正社長(Photo01)が挨拶に立ち、Intelの5Gに向けての取り組みについて簡単に説明した。

  • 鈴木国正

    Photo01:インテル代表取締役社長の鈴木国正社長。前職のソニー時代にソニーエリクソンと一緒にVerizonと交渉を行った話などを交えてIntelの5Gに向けた展開を説明した

  • Intelの基本的な戦略

    Photo02:Intelの基本的な戦略は、データセンターとエッジの両面のソリューションを抑える事であるが、5Gが導入されることでここでの新しい要素が入ってくる訳で、ここに向けてのソリューションも提供していきたいという話である

その後、PAC N3000の説明を渡海博史氏(Photo03)が行った。

  • 渡海博史

    Photo03:PAC N3000を示す渡海博史氏(プログラマブル・ソリューション営業本部 データセンター&コミュニケーション統括部 統括部長)

IntelはすでにFPGA PACを2017年から出荷開始しており、2018年4月にはサーバベンダからサーバに同梱する形でクライアントへの出荷も始まっており2018年9月にはStratix 10ベースのPACも発表されている(Photo04)。

  • 従来のPAC

    Photo04:これまでのPACの用途は、HPCやMedia、AIなど主にComputationをターゲットにしたものがメインであった

こうした用途に向けては引き続き従来のPACがそのまま提供されてゆくが、これとは別に5Gのマーケットにおいても、これを実現するための5Gプロバイダ側にも、より高いComputation Powerが必要になる(Photo05)。

  • 5G

    Photo05:そもそも5Gになると帯域が増えてLatencyが減る=単位時間あたりに処理するべきデータ量が増える訳で、5Gに関わる全ての要素で性能向上が必要になるのは、当然である

問題はこの5Gプロバイダの収益性である。データトラフィックは急速に伸びる一方で、収入がそれに比例して伸びるという訳ではないのはこれも当然であり、なので単純に5Gに向けて投資を積み増してもそれに見合う収益は得られないとする。

5Gは様々な技術的なチャレンジを含んでおり、プロバイダ、特に基地局側では高度な処理が必要になるが、これを従来の延長の技術で実現しようとすると、コストが掛かりすぎる。そこで、よりコストパフォーマンスの高い5G向けのソリューションが必要、という話だ。

  • 無線通信のデータ量あたりの単価の推移

    Photo06:基本的に3G→3.5G→4G→4.5Gと世代が進むごとに、データ量あたりの単価が下がる傾向にある訳で、5Gでもこの傾向は変わらないというか、拍車がかかる方向になると思われる

これに対してIntelはPAC N3000を5G NetworkやNFV向けのソリューションとして提供するというのが発表の骨子である(Photo07)。

  • PAC N3000

    Photo07:従来のPACはある意味汎用向けであるが、PAC N3000はNetwotk向け専用品に近い扱いとなる

もともとIntelはNetwork向けにXeonやEthernet Controller、さらにソフトウェアを組み合わせた包括的なソリューションを提供してきたが、PAC N3000はこのソリューションの一部ともなる形である。

  • PAC N3000

    Photo08:別にNetwork Solution Portfolioとして「のみ」提供される、という訳ではない

具体的にどんな事が可能か? という例だが(Photo09)、vRAN向けとvCore/NFV向けにそれぞれワークロードに対応した処理をオフローディングできる、としている。もちろん、こうした処理は従来のPACでも不可能ではない(というか普通に可能)であるのだが、PAC N3000は処理性能とネットワークやI/Oのバランスを上手く取った構成になっている点が従来のPACと異なる部分である(Photo10)。

  • PAC N3000

    Photo09:例えばvRANのTurbo CodeとかLDPCをCPUで行おうと思うと、処理性能の絶対値もさることながら性能/消費電力比が猛烈に悪い。こうした分野はFPGAの方が圧倒的に有利である

  • PAC N3000

    Photo10:例えばStratix 10ベースのPACでも100G Ether×2を搭載するからInline Processingは可能であるが、その一方でサイズはDouble Hight/Full Lengthだからラック内への実装枚数が限られるし、LEをフルに使い切るにはI/Oが足りない。このあたりのバランスを取ったのがPAC N3000という事らしい

TCP Offloading用にXL710 NICを搭載しているのも、他のPACには見られない特徴である。実際アメリカのAffirmed NetworksはこのPAC N3000を利用して、5G NGCNのネットワークをCPUの負荷を下げながら構築できた、としている(Photo11)。

  • PAC N3000

    Photo11:特定の処理に限ればFPGAはCPUの数十倍高速に処理可能(LDPCの処理などその最たるものだろう)なので、これとCPUを組み合わせる事でコストパフォーマンスを大幅に向上できる上、FPGAなので構成変更も容易になるとする

ちなみに今回の説明では5Gの方が判りやすいということでそちらが前面に打ち出されているが、実際にはNFVなどにも効果的であり、実際CloudでもCore Networkに近い所では従来のPACよりもPAC N3000の方が効果的というシーンは少なくなさそうである。いわゆる汎用PACとはちょっと異なる、ネットワーク向けPACという形で、より普及を図りたいという意気込みが判る説明会であった(Photo12)。

  • PAC N3000

    Photo12:そもそも最初の発表の場がMWCということもあって5Gが前面に出てきてはいるが、本来は別に4GでもCloudでも利用できるタイプのPACである