アイドルグループ・Kis-My-Ft2の北山宏光が、映画初出演・初主演にして、初“猫”に挑戦し、現在話題となっている映画『トラさん~僕が猫になったワケ~』(公開中)。板羽皆の同名マンガを実写化した同作は、酒とギャンブルに溺れる売れない漫画家・高畑寿々男(北山)が交通事故で死んでしまい、“あの世の関所”の裁判長(バカリズム)から地獄行きの前の今までの愚かな人生を挽回せよと、1カ月の執行猶予で猫として妻の奈津子(多部未華子)、娘の実優(平澤宏々路)のもとに戻されることになる。

北山の「猫スーツ」のインパクトが注目されていたが、公開されると「笑って泣けた」「監督のセンスが光る」「こんなにいい映画だとは……」とSNSでも評判に。今回は公開後ということで、筧昌也監督に作品に関する話をじっくり聞いた。

  • 筧昌也監督

    筧昌也監督

■全体的にスマートにしていった

――今回、"猫スーツ"のデザインもされていたということですが、筧監督は漫画家を志望しながら、映画の学校にも通われていたんですよね。

マイナビさんにぴったりな、就職の時のいい話がありますよ!(笑) 僕は映画の大学で自主映画を作っていたんですが、まさか映画監督になれるとは思っていなかったので、就職のためにいろいろな会社にエントリーしていました。そのなかに映像制作会社の「ROBOT」があって、見事にエントリーシート(当時スタートしたばかりのインネーネットエントリー)、書類だけで落とされたんです。なのに、その8年後ROBOTさんで映画監督デビューして、今回の『トラさん』も、ROBOTさんで制作しました。就職活動で行きたい会社に落ちても、全く違う形で目標が叶うかもしれないから、みんな頑張ろう!

――ありがとうございます(笑)。漫画と映画というのはずっと両立されていたんですか?

もとは漫画家になりたかったんですが、高校の間にデビューできず、大学生活を単純なモラトリアムとして使いたくなかったので、2番目に興味があった映画の学校に入ってみたら、こちらも面白かったんです。似て非なるものではありますけど、漫画を描いてなかったら、映画製作もしていなかったかもしれないですね。

――今回の『トラさん』は、状況を説明しすぎてないのに、情報や感情がすっと心に入ってきてすごく丁寧で品のある演出だなと思いました。

そこは意識した点でもあるので、嬉しいです。僕はここ数年テレビドラマの方が多いのですが、良くも悪くもテレビは音声が重要で。視聴者の方がずっと観ているわけじゃないから、セリフが増えてしまうのは仕方ないけど、映画は観るか寝るか、帰るかじゃないですか(笑)。

映画を観てくれている方は、画面で起きていることをちゃんと読み取ってくれるだろうし、セリフで説明するのではなく、表情や背景を含めた映像で表現していきたいと思っていました。それもあり、全体的にスマートにしていったことで、上映時間も91分と短めになりました。90分だと気持ちが良かったから、ちょっと惜しかったです(笑)。

僕は映画を観るときに、どれくらいの尺か気になるタイプなんです。人は映画を観るときに作品とある種の”契約”をしている気がします。125分の作品と、90分の作品だと、観る前の心持ちが全然違うし、作品から持って帰りたいものの量や質も、多少変わってくるんだと思います。

――たしかに、91分と聞くと気負わず観ることができる気がします。でも、91分の中でも情報量が多い作品ですよね。

テンポも早めに、詰め込みましたからね。とにかく後半の心情シーンになるまでは、エンタテインメントのふりをしました。観客が考える前に、物語に巻き込んで行こうと話しながら作っていきました。