メルカリ子会社のメルペイは2月20日、関係者向けのカンファレンス「MERPAY CONFERENCE 2019」を開催し、同社が2月13日より開始したスマホ決済サービス「メルペイ」の現状、および今後の事業戦略について説明した。

左から、メルカリ代表取締役会長/CEOの山田進太郎氏、メルペイ代表取締役の青柳直樹氏、メルペイ執行役員でBusinessDevelopment and Sales担当VPの山本真人氏

メルカリでの売上金をそのまま支払いに使えるという特徴を持ち、スマホ決済サービスの新たな選択肢として注目を集めるメルペイ。すでに三井住友カードとの事業連携を通じ、非接触決済サービス「iD」に対応したことが発表されており、今回のカンファレンスではその続報についての言及が期待されていた。

カンファレンスにはメルカリ代表取締役会長/CEOの山田進太郎氏、メルペイ代表取締役の青柳直樹氏らが登壇。他のスマホ決済サービスが乱立するなか、満を持して登場したメルペイの戦略とは?

Android版アプリの登場、QRコード決済追加でより便利に

新たに発表されたのは、Android版アプリのリリースについて。先日のサービスリリース時にはiOSのみで使用可能であったが、「Androidユーザー向けのアプリを開発中」だといい、2月末~3月初旬を目途にアプリをリリースする予定だ。これにより、iOS、Android両方のOSでiDに対応した加盟店でのスマホ決済が可能になる。

今月末~来月初めを目途にAndroid対応すると発表

さらに、決済方法の拡充についても発表した。3月中旬には、現在のiD決済に加えてQRコード決済にも対応する予定だ。

3月中旬にはコード決済に対応する

なお、2019年2月20日時点でメルペイ決済に対応するのは、iD決済による90万カ所ほど。コード決済への対応で45万カ所を追加し、合計135万カ所を見込む。コンビニエンスストア、スーパー、ドラッグストアといった日常生活でよく使う場所をカバーしつつ、今後はearthやRight-onなどのアパレルショップへの展開も進める。

現時点でセブンイレブンやローソン、ファミリーマート、ミニストップを含むコンビニ、ビックカメラやコジマなどの家電量販店などで使用可能だ。加盟店は今後も増やして行く予定

「出遅れた」メルペイ、この時期のリリースになったワケ

QRコード決済といえば、昨年「100億円ばらまきキャンペーン」で話題になったPayPayや、中国テンセントの「WeChatPay」と提携したLINE Payなどが先行している。

これらのサービスに出遅れた感があるメルペイだが、これについてメルペイ代表取締役の青柳氏は、「万全に体制を固めて臨んだ結果、このタイミングになった」と説明する。

メルカリのアクティブユーザー数は月間1200万人と多く、かつ同サービスでは年間5000億もの売上金があり、日々大量のお金が動いている。少々の不具合でも大きな混乱を巻き起こすとの見方もあり、慎重にならざるを得なかった。「金融サービスは、メルカリの中でも新しい取り組みだったため、コンプライアンスやリスク管理などの調整も必要だった」と続ける。

メルペイが「メルカリ経済圏」に与える影響

万を持して登場したメルペイであるが、メルカリの売上金を簡単に電子マネーに変換できるとあれば、"メルカリアプリ内で得た売上金を、再びアプリ内での商品購入に使用する”という流れが失われるようにも思える。これはメルカリにとって損失となる可能性もある。

その点について、メルカリCEOの山田氏は「これまでも、大部分のユーザーは売上金を銀行に移し、メルカリ外で使用していた」と答える。メルペイ投入後も、アプリ内でのお金の流通量に大きな変化はなく、「ただユーザーの利便性が増すだけ」という認識だ。

ユーザーを囲い込んでお金を循環させるというよりはむしろ、メルカリでの「二次流通」に至る前の「一次流通」での新たな接点を作ることで、さらなる発展を目指すというのが同社の戦略という。

こうした考えは、以前の「CtoC中心」のビジネスでは重要視されなかったことだろう。メルペイ今後、加盟店との間でのBtoB事業にも注力する考えを示す。それは単に決済時の手数料を得る以外にも(メルペイの決済手数料は1.5%、初期導入費用や固定費は0円)、「メルペイとメルカリから得たデータを活用してマーケティングにつなげる」という戦略も含まれる。

要は、メルペイが一時流通をサポートすることによって、メルカリでの二次流通の促進を狙う。メルペイの登場で、メルカリにも少なからずリターンがあるという想定だ。

「メルペイによって、メルカリはこれまでのように『個人』だけではなく、『企業』もエンパワーメントする存在になる」(山田CEO)

なお、メルペイに対応している銀行は、三菱UFJ、みずほ、三井住友、りそなといったメガバンクを始め、地方銀行やネット銀行など、多岐にわたる。今後の対応予定の銀行を含めると、現時点で60以上の銀行に対応する予定だ。

その中には、KDDI(au)運営の「auじぶん銀行」も含まれる。

KDDIは自社でも4月より新たな決済サービス「au PAY」を始める予定であり、「スマホ決済」という括りで見るとメルペイとは競合でもあるようにも思えるが、両社が協力するのには理由がある。

他社と協力し、加盟店の獲得へ

モバイル決済サービスが乱立する中、「加盟店を増やしたい」というニーズを持った企業は多い。そこで導き出した答えが、「OPENNESS構想」であった。

「加盟店のネットワークを作り上げるには、時間と労力が必要。そこで当社では、さまざまな業種の事業者と協力してインフラを構築することで、先行投資の負担を抑えつつ、キャッシュレス市場の拡大を目指す」(青柳氏)

つまり、「競合」というレッテルを貼って争うのではなく、協業することによって短時間・低コストでのサービス拡大を目指す。KDDIとは決済加盟店獲得のために営業連携し、さらにはJCBともパートナーシップを結ぶという。なお、こうした他業種との協業は今後も続けていく方針だ。

「au PAY」とはコード決済加盟店を獲得するために相互営業連携を行う

青柳氏は今後の長期的なビジョンについて、「現状はメルペイサービスの拡充に注力するため、具体的なプラン等があるわけではない」としつつも、「決済手段の提供に留まらず、新たな信用を生みだし、さまざな金融サービスを提供していく」と展望を語る。

「○○ペイ」との差別化が、生き残りの鍵

○○ペイと冠したサービスが乱立する「キャッシュレス市場」に、満を持して登場したメルペイ。リリースが遅れたことで、すでに「認知度No.1」という称号を手にしたPayPayなどの先行のサービスには遅れをとっているように思える。

実際、会場では「今後の新規ユーザーを獲得するためにどのような戦略を練っているか」という質問も出ていた。これに対して青柳氏は、「今後は当社でも新規ユーザー獲得のためのキャンペーンをする可能性はある」と話すものの、具体的なプランについては言及しなかった。

ただ、メルペイが他社のサービスと比較して、既にいくつかの強みを有しているのも事実だろう。日本最大級のフリマアプリであるメルカリは、アクティブユーザーの数だけで比べるとLINE Payの母体であるLINEには及ばないものの、「スマホ決済への参入前から、大量のお金のやり取りがなされている」という土台がある。

すでに売上金を抱えたユーザーが多く存在すること、さらにはメルカリユーザーであれば新たにアプリをダウンロードする必要もなく、アプリ上で得た売上金をそのまま電子マネーに変換できるというあたりが、メルペイならではの強みであろう。

「メルペイ」のメリットを強調

さらに同社には「ユーザーがメルカリで得た売上金は、使わなくなったものを売却したいわば余剰金であるため、そのお金を使って『また新たに何かを購入しよう』と考えるユーザーは多いはず」との見込みもある。ユーザーにとってメルペイ上のお金は「使いやすいもの」であるために消費のハードルが低い、ということだ。

こうしたメルペイならではの強みで他社サービスとの差別化をしながら、まずは堅調に自社サービスのUI・UXの向上に取り組み、徐々にユーザーの信頼を勝ち取っていくのが当面の目標であるという。

今回のカンファレンスと同じ日、新たにみずほフィナンシャルグループによるスマホ決済サービス「J-Coin Pay」も発表された。各サービスとも独自の強みを武器にしのぎを削るが、多くの○○ペイがあふれ、サービス名を覚えるのにも難儀する状況だ。今後は各サービスが生き残りの鍵を探る戦いになっていくだろう。

○○ペイに多くの事業者が参入する中、メルペイは優位な椅子を確保できるか
(田中省伍)