京都大学(京大)は、体内時計が細胞どうしを協調させることで、動物のからだを正確に形作る仕組みを明らかにしたと発表した。

同成果は、京大 生命科学研究科の本田直樹 准教授、奈良先端科学技術大学院大学の松井貴輝 准教授らの研究グループによるもの。詳細は、国際学術誌「PLoS Computational Biology」(オンライン版)に掲載された

生物が受精卵から、自身のからだを正しく形作るためには、生体内の現象が正確にコントロールされている必要があるが、細胞はかならずしも精密に動くわけではなく、またゆらぎ(ノイズ)に満ちているため、同じ条件だとしても、まったく同じように働くとは限らないことが知られている。

これまでの研究では、多細胞からなるシステムがノイズを巧みにキャンセルすることで、からだを正しく形作ると考えてられてきたが、そのメカニズムは発生生物学における大きな謎の1つとなっていた。

そこで研究グループは今回、脊椎動物の将来の背骨などの元となることで知られ、頭の方から尻尾の方へ、順々に繰り返し作られる細胞の塊「体節」の形成過程に注目。研究グループがこれまでの研究から分かっていた、ERKと呼ばれる分子の活性変化と体節が作られる場所の関係性を踏まえ、一定の時間間隔で活性化することで、時計の役割を果たす遺伝子の条件がない場合における不規則な体節形成とERK活性の挙動との関係性の解明に挑んだという。

数理モデルに基づくシミュレーションの結果、細胞内のノイズの影響が細胞どうしのコミュニケーションによって空間的に伝播していくことで、細胞全体の協調性が失われ、不均一な体節が作られること、ならびに時計が一定のリズムを刻んでいる状況では、ノイズの影響を受けているにも関わらず、ERKの不活性化が一定間隔で正確に引き起こされ、均一な体節が作られることが示されたほか、時計がない場合に起こるノイズ伝播が、時計の働きで一時的にシャットアウトされることで、ノイズの影響を最小限に留め、細胞たちの協調性を高めていることが示されたとする。

また、実際にゼブラフィッシュを用いた実験も実施。その結果、数値モデルの予測どおり、時計が働いている場合はERK不活性化が一定間隔で引き起こされる一方で、時計が止まっている場合はその間隔が不規則になることが確認されたという。

この結果を受けて、研究グループでは、時計が細胞たちを協調させる指揮者の役割を果たすことで、体節形成がノイズに影響されずに再現性よく作られることが明らかとなったとしており、今後は、他の器官形成においても時間的に変動するシグナルが再現性に重要な役割を果たしているのか研究していくとするほか、体節形成の異常はヒトの発生疾患(脊椎肋骨異常症など)を招くことから、今回の成果をもとに疾患の予防や治療の開発につながることが期待されるとコメントしている。

  • 研究の概要

    今回の研究の概要 (出所:京都大学Webサイト)