KDDIがアップルの音楽配信サービス「Apple Music」と提携し、auのスマホ契約者向けに同サービスを6か月間無料で提供する。国内初、かつ他キャリアにはない独占的な試みだ。

KDDIがauのスマホ契約者向けにApple Musicを6か月間無料で提供

動画配信ではNetflixと組んだKDDIだが、音楽でもグローバル企業と提携した形になる。国内外でiPhoneの売れ行きが落ちている中、どのような狙いがあるのか。その背景を探る。

提携は、アップルの「YouTube対抗策」の一環か

諸外国と比べ、依然としてCDの売上比率が高いとされる日本の音楽市場だが、音楽配信は拡大している。世界のトレンドはストリーミングだが、2018年には国内でもストリーミング配信がダウンロード販売を超えた。

日本国内でもストリーミング市場が拡大している(図中左)

ストリーミング配信で世界最大のSpotifyは、広告付き無料プランと有料プランの両方があるフリーミアムモデルで、有料ユーザーだけでも2018年に8300万人以上の会員数を誇る。

このSpoifyを追うのがアップルの「Apple Music」だ。iPodやiTunesの普及によりデジタル音楽で先行したアップルだが、ストリーミング参入はやや遅れた。それでも契約者は全世界で5000万人以上に達し、米国市場では2018年にSpotifyを追い抜いたとの調査もある。

ストリーミングのメリットは「定額で聞き放題」できる点だ。CDやダウンロード販売のように買って失敗する恐れがなく、新しい曲やアーティストを次々と聞き流せる。また、他人とプレイリストを共有できるのもストリーミングならではの楽しみ方だ。

そこにライバルとして割り込んできたのがグーグルだ。YouTube動画を広告なしで見られる「YouTube Premium」に音楽配信サービスをバンドルし、2018年11月には日本でもサービスを開始した。

YouTubeはミュージックビデオやライブ配信とも相性が良く、音楽好きのユーザーにとって魅力的だ。アップルとしてもYouTube対抗策を繰り出す必要があったといえる。

「iPhone争奪戦」時代の新たな還元策という可能性

KDDIが開いた発表会には、ゲストとしてApple Music代表の服部浩氏が登壇。日本の発表会にアップル関係者が登壇することは異例の事態であり、注目を浴びた。アップルの並々ならぬ力の入れようが感じられる点だ。

発表会に登壇したApple Music代表の服部浩氏

今回のApple Music6か月無料は、12月1日以降にauのスマホを契約した人に、月額980円のサービスを6か月無料で提供するというもの。すでに3か月の無料体験を利用済みの人やAndroidスマホも対象になっており、抜かりがない。

Apple Musicの契約向けの特別ライブも開催する。KDDI独自の音楽配信「うたパス」とは楽曲数や価格帯で棲み分ける。料金はauの電話料金と合算されるので、クレジットカードを持たない人でも利用できるなど、細かな点までよく練られている。

auユーザーに使いやすいよう、よく練られている

実はこの試みは、新たなスマホ還元策としても注目されている。携帯料金値下げ議論では、端末と回線の分離により端末の値引き販売が難しくなり、iPhoneの売れ行きがさらに鈍化する可能性が出てきた。iPhoneユーザーの争奪戦が始まることは間違いなさそうだ。

その中で、かつてiPhoneの代名詞だったソフトバンクはAndroidシフトを強めており、KDDIのほうがアップルとの距離を縮める傾向にある。特に今回のように独占的な取り組みであれば、「iPhoneを使うならauが一番お得かもしれない」と認知させる効果も大きいはずだ。

(山口健太)