北海道・ニセコ地区。スキー・スノボの名所であるこの地区は、多くの外国人スキーヤーが訪れる場所でもある。なぜならば「日本の雪」、とくに北海道の粉雪は世界屈指の“ブランド雪”として知られているためだ。「ジャパンパウダー」(ジャパウ)という名で親しまれている。

晴れていたと思ったら、急に降雪になる。実は“雪が降りやすい”ことが、新雪を味わいたい外国人スキーヤーを惹きつけるひとつの要因

バックカントリーを目指す外国人スキーヤー

だが、大きな課題もある。それは、外国人スキーヤーが多いからこそ起きる問題だ。「バックカントリー」といわれる、ゲレンデ以外の場所を滑るスキーヤーが外国人には多いため、遭難の危険が高いのである。確かに“ふわふわの新雪”を滑るバックカントリーの魅力は大きいだろう。だが、一歩間違えれば、遭難する確率が高いことも否めない。つい先日もポーランド国籍の7人が富良野のバックカントリーで遭難し、救助されたばかりだ(全員無事に救助された)。

こうした遭難の対策として、昨シーズン、新潟県のかぐらスキー場で導入されたのが博報堂アイ・スタジオの「TREK TRACK」。これは、デバイスの位置情報を遠隔地から確認できるというもの。万が一遭難してしまった場合、位置情報やSOSを緊急連絡先(スキー場管理者など)に知らせることができる。スキーの現場だけではなく、夏の登山でも活用されている。

スクール加入で貸与されるTREK TRACK BI

信号を発信することで遭難対策になるTREK TRACK BI

そのTREK TRACKに「TREK TRACK BI」が追加された。「BI」とは「Business Intelligence」の略で、その名のとおりB2B向けのサービスだ。これまでのTREK TRACKは、個人が借用を申し出て、それを受けてスキー場などからデバイスが貸与されるというスタイルだった。だがTREK TRACK BIはスキースクールなどにデバイスを提供し、そのスクールが利用者に貸すというスタイルを採る。つまり、これまで任意に申し込まれていたデバイス使用が、スクールに入会することでサービスの一環として貸与されることになる。

スクールのインストラクターもほぼ外国人。スクール入会時、参加者はTREK TRACK BIを装着する

このTREK TRACK BIの運用を始めたのは「二セコHANAZONOリゾート」(以下:HANAZONO)と、キロロリゾート内 「キロロマウンテンクラブ」だ。これらのエリアはバックカントリースキーが盛んな地区で、ゲレンデ以外の滑走範囲も広大。それだけに、スキーヤーの遭難という事故がいつ起こるかわからないという側面を持ち合わせている。

さらに、前述したように、「ジャパウ」を求めて来日した外国人は特にバックカントリーの新雪を楽しみたいという欲求が強い。オーストラリアやニュージーランドなどから訪日した彼らは、長期休暇を利用して長く滞在し、そしてバックカントリーといった“少しムチャ”な区域での滑走を楽しむ。ニセコはそうした外国人スキーヤーにとって“天国”ともいえる場所なのだ。

そうした訪日客の特性や立地にあるからこそ、ニセコやキロロでのTREK TRACK BIの活用が大きな意味を持つ。ただ、TREK TRACK BIは、単に遭難しそうなスキーヤーのためのデバイスではない。こどもたちの居場所を3Dで可視化することにより、保護者に安心してもらうというのがおもな役割だ。

ゲレンデの様子を立体表示(左)。デバイスを身につけたスキーヤーの航跡もチェックできる。また、「Go Pro」と連動させ、スキーヤーの視界を映すことも可能だ

家族で来日して、こどもをスクールに預け、それを管理者がチェックできるので、保護者が安心できるというわけだ。

TREK TRACK BIの導入を決めたスキー場の声

日本ハーモニー・リゾート ジェネラルマネージャー 上林宣夫氏

実際にTREK TRACK BIを導入したHANAZONOに話を聞いてみた。HANAZONOを運営する日本ハーモニー・リゾートのジェネラルマネージャー 上林宣夫氏は「これまでHANAZONOで、遭難事案は起こっていない」と前置きしたうえで、導入の背景を語った。

「これまで遭難事案が起こってなかったとしても、やはり、スキー場運営の事業者は安全管理・迷子防止へのオペレーションが不可欠」であり、「バックカントリーを楽しむ外国人が増えれば増えるほど、こうした対策に力を入れなければならない」のだという。

現状はまだTREK TRACK BIを導入したばかりなので、スキースクール向けで使っているが、いずれはバックカントリーの安全確保に用途を広げる可能性もあるだろう。

また、管理外の領域を滑ることを、HANAZONOは肯定も否定もしていないそうだ。これは各スキー場のスタンスによるらしい。同じ北海道のスキー場でも、ゲレンデ以外での滑走をよしとしないところもあれば、HANAZONOのように「ゲレンデ以外の滑走は、推奨はしないけれども、止めもしない。あくまで自己責任」(上林氏)というスタンスのところもある。

冬期のニセコが抱えるもう1つの課題とは

歩行者は、ほぼ外国人というニセコの通り

さて、ニセコには外国人が多いと前述したが、どのくらいなのだろう。夜間にニセコの街を散策して目視したところ、“外国人9割、日本人1割”ぐらいに感じた。飲食店は外国人であふれ、ある店員さんによると朝まで予約が詰まっているとのことだ。また、飲食店が少ないためか、街の中心に位置する「セイコーマート」には、30~40人の外国人がレジ待ちで列を作っていた。以前、あるスキー雑誌の編集長にインタビューした際、“冬のニセコは日本にある外国”と表現していたが、まさにそれを実感した。

実はここに問題もあるように筆者は感じた。「観光客の構造がいびつ」なのではないかと思う。「観光客が集まる冬期のニセコはいい。夏期になると観光客がグッと減ってしまい、宿泊業や飲食店などの雇用維持が断続的になってしまう」と、ニセコ関係者は話す。そのためには、日本人観光客に冬期以外にもきてもらうための観光資源が重要だと指摘する。

これだけ外国人観光客に支持されているニセコだ。筆者はてっきり成功を収めているリゾート地なのだと思い込んでいたが、多くの課題が積み上げられていた。今後もニセコがジャパウを楽しむ観光地であり続けるためには、夏場の集客にも力を入れなければならないだろう。

(並木秀一)